『水泳部での出来事 外伝』
【監督の青春時代】
青春時代は辛かった-。
私には水泳の才能があった。中学2年で日本一に輝いた。末はオリンピック選手と騒がれた。泳ぐのが大好きな私は、当然のように高校は特待生として強豪校に入った。
入部初日に刈り上げショートにしてくるよう言われた。それが伝統であり、髪型なんかに気を遣っていると水泳が上手くならないという理由らしい。水泳と髪型になんの関係があるのかと疑問だったが、怖い監督と上級生を前にして嫌ですとは言えない。しかも床屋で切ってこいと言われ、仕方なく切りに行った。
ロングヘアをバッサリ切られた。一度にこんなに切ったことはない。そしてバリカンが出てきた時は動揺した。
バリカンなんて初めてだ。理容師さんには「水泳部カット」と伝えているが、どれだけ短くされるのだろう。
下を向かされて、すごい音を立てバリカンが襟足に入ってきた。何これ?変な感触とともに髪が刈られるのが分かった。耳周りもバリカンで刈られ、前髪も眉の上で切られ、刈り上げショートが完成した。今朝の自分とは別人になっていた。変わり果てた姿を見て、私は覚悟を決めた-。
新入部員の中には刈り上げにしてこない子もいた。そんな時は先輩がバリカンで刈り上げにした。泣き叫ぶのにも容赦せず、襟足にバリカンが入り、ごっそりと刈られていた。素人が切ったものだから、やたらに短い不細工な刈り上げになっていた。あんな風にされるのなら始めから切ってくればいいのに…。
でもその姿を見ていると、同情よりも、自分もああして誰かの髪を刈ってみたいと思った。なんでこんな気持ちになるのかが分からなかった。
それからは厳しい練習やしごきに食らいついていき、そこそこ上位の成績も残せるようになっていった。バリカンにも慣れ、刈り上げも平気になっていた。男性に刈られているのを見られるのだけは嫌だったが-。
それに運動部の男子は丸刈りかスポーツ刈り、女子もショートカットは当たり前で、刈り上げも珍しくなかった。試合に負けてスポーツ刈りにしてくる女子もいたぐらいだ。髪は短いのが当たり前だから、気にならなかった。
私は2年生で初めて全国大会に行き、6位に入賞した。部内で一番の成績だった。久しぶりの休日、繁華街でゲーセンに行き、禁止されていた喫煙をしてしまった。どこか天狗になっていたのだろう。前から興味があったし、たまには羽を伸ばしたかった。
その油断が命取りとなった。補導員さに見つかり、翌日の放課後生徒指導室に呼び出された。
私は忘れていた。重大な校則違反をした生徒は男女問わず丸坊主にされることを。
怖い顔をした生活指導の先生に言われた。
「佐々木、お前は知っているよな?『重大な校則違反』をしたらどうなるか。」
「はい…あの…タバコがそれに当てはまるのですか?」
「当然だ。タバコ、シンナー、万引き、どれもそうだ。だから今からお前を坊主にする。さあこの椅子に座れ!」
「嫌…坊主なんて嫌です!」
「いいから座れ!殴られたいのか?」
怖くて涙が出てきた。渋々座るとケープをかけられた。
「親御さんには許可をいただいている。最近弛んでいる娘にきつい罰を与えてやってくれと言われたよ。」
「坊主だけは…やめて下さい…。」
「そうはいかない。覚悟を決めろ!」
そしてポケットからおもむろに手バリカンを取り出した。今からあれで…坊主にされてしまう…ガタガタと震えていた。
「お前にも可愛いところがあるんだな。なぁに、すぐに終わる。大人しくしていろよ。」
頭をガッチリと抑えられ、前髪に手バリカンが入れられる。ザクザクと髪が刈られるのが分かる。金属が冷たい。
「やだやだ~!!」
「静かにしろ!ここを刈ったからもう坊主にするしかないんだよ。」
そう言って鏡を見せられる。前髪が頭頂部までごっそりと刈られていた。
その瞬間、涙がどっと溢れ出した。先生は構わず次のバリカンを入れる。ザクザクと髪が刈られていく。いつもは襟足だけなのに、今は前髪が刈られている。しかも手バリカンなんて物で。もうダメだ…悲しくて辛くて、涙が止まらなかった。乱暴にバリカンを入れるから、痛くてたまらなかった。もはや暴力に等しかった。
また、首や耳を男性に触れられるのも嫌だった。必要以上に触られている気がする。髪を刈られる上に体を触られる。悔しいし恥ずかしかった。
「よし、もういいぞ。」
やっと手が止まる。鏡を見せられると、虎刈りになっていた。呆然とした。所々短い髪の毛がある坊主だった。
「素人だから綺麗には出来ない。床屋にでも行って整えてもらえ。」
私は逃げるように学校を出て、目についた床屋へ飛び込んだ。幸い客はおらず、すぐに席へ通された。私が何か言う前に
「綺麗に刈ればいいのかな?」と言われた。黙って頷く。
「かなり短くなるけどいいね?」もう坊主にされたんだし、とにかくなんでもいいから綺麗に整えてもらいたかった。
「はい…短くていいです…」
床屋さんが出してきたバリカンは、いつも美容院で見る物とは違い大きい。短い坊主にされるのは分かっているが怖い。
そして前髪からバリカンが入った。鈍い音、髪が削られていく感触。バリカンが通った跡は、さっよりも短く地肌が丸見えになった。裸にされている気分だった。横と後ろも刈られ、何度もバリカンが入れられる。辛くて悲しくて涙が出てきた。
やっとバリカンが終わって鏡を見せられた。少年が映っていた-。
「お嬢さん、0.5ミリの丸刈りにしたけど、この際剃っていかない?サービスしておくよ。」
もうどうにでもなれと思った。坊主もスキンヘッドも同じだろう。
「はい、剃っちゃって下さい…。」
力なく答えた。すぐに頭にクリームを塗られ、剃刀が入った。ゾリゾリと冷たい感触とともに、残り少ない髪が剃られていく。時折チクッとした。動くと危ないのが分かっていたからじっとしていた。
そしてスキンヘッドになった。少年だったのが尼さんになっていた。思わず頭を触るとペタペタしていた。また涙が溢れてきた-。
すぐにウイッグを買ったが、私が坊主にされた噂は学校中に広まっていた。だが幸いなことに、年に数人は女子も坊主にされる学校だったので、あまりいろいろ言われることはなかった。
その後の私は競技に打ち込み、大学でも水泳を続けた。さすがに刈り上げや坊主にされるようなことはなかったが、暗黙のルールでショートカットを維持した。伸ばしたい気持ちもあったが、伸びてくると面倒くさいから切っていた。
最終的には日本選手権で入賞を果たし、実業団へ入って水泳を続け、30歳で引退した。それと同時に高校の監督の話が来て、2つ返事で引き受けた。
【断髪への目覚め】
最初の高校は、やる気があるが空回りしているような子たちだった。監督として全権を与えられていた私は、髪型を刈り上げショートに強制することにした。高校時代、髪で辛い目に遭ったことへの復讐でもあったのを自覚していたし、何より一度自分の手で女の子の髪を切ってみたかった。
髪を切ってこない生徒は、ここぞとばかりに私の手で切ることにした。
「刈り上げにしてきなさいって言ったでしょ!どうして守れないの?」
「ショートにしてきたのですが…ダメですか?」
「みんなは刈り上げよ。あなただけしないのは不公平。仕方がないから今から切ってあげるわ。」
「えっ!?今からですか…?」
問答無用と椅子に座らせ、頭を抑えた。準備していたバリカンを見せると怯えだした。綺麗に整えられたショートカットの襟足にバリカンを潜り込ませる。
白い首筋に、彼女にっては初めてであろうバリカンを当てて刈り上げる。絶叫とともに動かれた。そのせいで、思っていたよりもバリカンが深く入ってしまった。
「ちよっと!どうして動いたの?こんなになっちゃったじゃない!!」
鏡を見せる。ワカメちゃんのような、後頭部の一部分だけ坊主に刈られた頭が映っている。
「そ、そんな…。」
「これじゃあ刈り上げはもう無理よ。この際坊主にしてみる?この頭で床屋に行ってもどのみち坊主にするしかないって言われるわよ。」
本当はそんなことはなかった。スポーツ刈りぐらいで誤魔化せるだろう。だが、本当ははじめから坊主にしてみたかった。あの時先生に刈られたように、この子も坊主にしよう。
泣きじゃくったその子は、しばらくすると「坊主にして下さい…」とか細い声で言った。
「その方がいいわね。水の抵抗も減るし、変な髪型にするぐらいなら坊主の方がいいわ!」
今度は前髪からバリカンを入れた。もちろん1ミリのアタッチメントを付けて。バリバリと勢いよく刈っていく。
快感だった。綺麗な黒髪がこんな機械一つで刈られていく。お洒落をしたい年頃の女の子の象徴を、無残にも根こそぎ奪い取っていく。この手でバリカンを動かす度に、艶のある黒髪が刈り取られ、地肌がむき出しになっていく。あの時の先生はこんな気持ちだったのか。
「坊主にしちゃえば余計な事に気を取られずに水泳に打ち込めるからいいわよ。それに髪はまた伸びてくるし。」
そう慰めつつ、次々に髪を刈っていった。やがて1ミリの綺麗な丸坊主が出来上がった。
「これで良し!部活に励むように!!」
その後新たな規則を設けた。練習態度がだらしなかったり、あまりにもひどい成績を取ると坊主にした。当時は水泳部に限らず、バレー部やバスケ部でもその地域は女子でも坊主の中学や高校があったため、抵抗なく受け入れられた。
もちろん生徒たちには反発されたが、監督の権力で押し切った。成績が悪くても一生懸命取り組んでいる子にはしなかったが、態度が悪い子は容赦なく坊主にした。
そんな子には懲罰の意味も込めて手バリカンで刈った。こっちの方がじわじわと屈辱を与えながら刈れるから楽しい。目の前で空切りすると、どんな子でも怖がったり泣いたりする。嫌がる女の子の髪を切るのはゾクゾクした。どんなに泣きわめいても、前髪からバリカンを入れてしまえばこっちのものだ。「もう坊主にするしかない」と言って、バリカンを進めて行った。
鞄には手バリカンと電気バリカンを忍ばせ、いつでも部員の髪を刈れるようにした。大会でふがいない成績を取った子は、その場で容赦なく坊主に刈り上げた。
私は指導の才能があったようで、私が監督に就任してからメキメキと上達し、全国大会にも行けるようになった。しかも坊主にした子の方が速くなった。それを聞き、自ら髪を刈って下さいと言ってくる生徒もいた。そんな子は電気バリカンで丁寧に刈り上げた。
新入生の佳恵もその一人だった。髪型を刈り上げショートにすること、坊主が望ましいと伝えると、真っ青な顔になった。水泳部には珍しいロングのポニーテールだったからなおさらだろう。この子の髪を切ってやりたい…こんなに可愛い子を坊主にしたらどうなるだろう…。すると仮入部期間の最終日、意を決した顔で私に言ってきた。
「監督…あの…私を丸坊主に…してもらえますか?」願ったりだったが顔には出さず
「えっ!?それはいいけどなんで…?」
「私は特待生でこの学校に来ました。水泳に賭けています。それに監督に髪を切っていただいた子は速くなるって先輩たちが言っていました。」
「でも丸坊主でいいの?」
「はい。余計な物は切り捨てなければ、と思って…。」
「…分かったわ。その心意気、素晴らしいわね。じゃあすぐにやるから、その椅子に座ってね。」
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