1『新婚1』
5年も付き合った彼と、ついに結婚した。彼とは価値観が合い、何を話しても、どこに行っても楽しかった。たった一つを除いては…。
それは彼の断髪フェチという、私には理解し難い趣味だった。初めに聞いた時は、足フェチや尻フェチのように、ただ髪が好きなのかな、ぐらいにしか思わなかった。しかしどうやら彼は、女性が髪を切ることに興奮を覚える「断髪フェチ」のようだ。
すごくとまどったが、怖いもの見たさもあり、ためしにその類のサイトを見てみた。若い女性が様々な状況で、髪を切られたり、坊主にもされていた。外国の女性は楽しそうだし、チャリティーで丸坊主にされている女性もいた。中には涙を流す女性も…。しかしどんなに見ても、なぜこんなことに興奮するのかが私には理解出来なかった。
結婚して3ヶ月、初めて夫が髪を切らせてほしいと言ってきた。いよいよきたか!とは思ったものの、私も長年のロングに飽きていたので、そろそろ変えようと思っていたところだった。それに大好きな人が喜ぶならと、切ってもらうことにした。
夫からは事前に、ボブにすると聞いていたが、いよいよ髪にハサミが入ったときは緊張した。しかし夫は思ったよりも上手く、肩につくボブにしてくれた。
夫の実家は美容院で、子どもの頃からカットを見ているうちに、断髪フェチになってしまったらしい。美容師にはならなかったものの、ウイッグで切る練習をしていただけあって、けっこう満足のいくものだった。
それから半年して、今度は私から切ってくれるようお願いした。その頃の私は、少しずつ短くしてもいいかなと考え始めていた。思えば中学生の頃は、部活のために刈り上げのショートにしていた。
夫に耳は出さないでほしいとリクエストした。前回よりも大胆にバサバサ切られていき、すっかりショートになった。髪を思いっきり切られるのも、悪くはないのかもしれない。
そして夫は小型のバリカンを持ち出した。中学生の頃の記憶が蘇る。「刈り上げにするの?」少し不安になった。「いや、襟足を処理するだけだよ。」無防備な襟足をジョリジョリとバリカンが入っていき、ショートは完成した。
ある日夫に聞いてみた。「ねえあなた、本当は私を丸坊主にしたいと思っているでしょ?」「…そうは思うけど可愛そうだし…泣くところは見たくない。時々髪を切らせてくれるだけで満足だよ。」
夫は私のことを大切に思ってくれている。そんな気持ちが伝わってくる言葉だった。少し考えてから「ありがとう。私も丸坊主はちょっと抵抗があるな。でもそうね…刈り上げぐらいだったらいいわよ。中学生の時は部活で刈り上げだったから。それにあまり外出はしないし。」
と言うのも、その頃私は身重だった。これから出産、育児となると、短い方がいい。今なら刈り上げにしても問題ないだろう。
それから1週間後、断髪の日がきた。いつもと違うのは大きなバリカンを使うこと。すっかり背中まで伸びていた髪をまずは肩まで切り、今回は耳も出した。そしていよいよバリカンが襟足に入った。冷たい感触に思わず「キャッ」と言ってしまい、「痛かった?」と聞かれた。「ううん、ちょっとびっくりしちゃっただけ。大丈夫よ。」
中学生の頃はいつも床屋で切っていたが、バリカンだけは好きになれなかった。クラスで髪を伸ばしている子をみると、羨ましかった。今こうして夫にバリカンで刈られているのが、なんだか不思議だ。
襟足を十分に刈り上げ、耳周りの髪も刈られた。耳がすっきり見えてしまい、少し恥ずかしかった。バリカンが終わり、襟足を触ってみた。ジョリジョリがなんか気持ちいいし懐かしい。思っていたほどショックではなかった。私は夫にこう呟いた。「次はスポーツ刈りでもいいわ。」夫は驚き、そして優しくキスをしてくれた-。
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