『鬼監督就任』

 時は昭和40年代。学生の部活動が盛んな頃であり、また体罰も横行していた。理不尽なしごきや暴力、不条理な上下関係は当たり前で、監督の命令は絶対。そんな時代だった-

 俺が手掛けた高校は軒並み全国大会の常連校になった。高度な理論、飴と鞭を使い分ける指導で、いつしか名監督と言われるようになっていた。

 そんな俺には裏の顔がある。無類の断髪フェチだ。なんで男子ではなく女子を指導しているかと言うと、あの綺麗な黒髪を理由をつけては切ることが出来るからだ。指導の一環、強くなるためと言えば文句は言われないし、そもそも誰も俺のすることに反対は出来ない。それだけの実績があった。

 以前赴任した高校では、部員全員を丸刈りにしてやった。あの時の髪を刈る感触、可愛い女子高生の号泣する顔は今でも忘れられない。それで奮起して全国に行ったものだから、かえって感謝されたものだ。

 今度の高校はどうだろう。体育館に入って驚いた。と同時に嬉しさがこみ上げてきた。ほとんどの部員がショートにすらしていない。ボブにセミロング、中にはポニーテールにさえしている子がいた。これは楽しみだ…。

 この高校は実力はあるらしく、県大会のいいところまでは行っていた。だが県大会の壁を突破することは出来なかった。

 初日の挨拶をした。
「今日から監督になった金木だ。俺は数々の高校を全国に導いてきた。今回俺はお前たちを全国に連れて行くという約束で監督を引き受けた。聞けばお前たちはいつも県大会ではいいところまで行くが全国には行けない。それはなぜだか分かるか?」
「…」
「バレーに取り組む姿勢が甘い。さっきも練習を見させてもらったが、一つ一つのプレイに気持ちが入っていない。真剣さが足りない。その表れが、その長い髪だ。」
「髪…ですか?」
「そう。全国に出てくるチームは全て髪が短い。青春の全てをバレーに懸けるだけの気持ちがないと、全国になんかいけない。だから命令する。月曜日までにショートにして来い!きちんと耳を出して、後ろは刈り上げだ。」
「ええっ!!刈り上げなんて…そんな…そんなの嫌です!」
「強くなりたいんだろう?全国に行きたいんだろう?ならば俺の言う通りにしろ。そうすれば必ず全国に連れて行ってやる。そもそもそんなチャラチャラした髪のバレー部があるか!嫌な者は辞めてもらって結構。それと切ってこない者は俺が切るからな。」

 翌月曜日。ほとんどの部員は命令通りの刈り上げショートに切ってきた。俺は短く刈り上げられた首筋を見て満足した。しかし2人だけ刈り上げにしていない部員がいた。

 まず1人を部室に連れて行き問い質した。普通のショートだった。
「あれほど言ったのになんで刈り上げにしてこなかった?」
「どうしても言い出せなくて…。」
「そんな言い訳通用しない。みんなやってきたのにお前だけやらないのは認められない。そこに座れ。」
 そしてケープをかけてバリカンを構えた。
「この前言った通り、俺が切ってやる。」

 毎回切ってこない部員がいるのを見越していた。ここからが楽しみの始まりだ。
「こう見えても俺の実家は床屋だ。親の手ほどきを受けたこともある。変な風にならないから安心しろ。」
 青ざめている。今にも泣き出しそうだ。この表情がたまらない。俺のバリカンで泣かしてやろう…。
「やだ…止めて下さい…。」
か細い声が聞こえる。だが無視して頭を抑え、無防備な首筋にバリカンを入れた。
 ドゥルルル…と音を立てて、襟足にバリカンを入れる。ヤダー!!と叫ぶが気にせずバリカンを進める。刈り上げた部分は当然地肌が見える。細いうなじが艶めかしい。

 後ろと横を十分に刈り上げるとバリカンを置き、ハサミで整えて刈り上げショートは完成した。刈り上げた襟足を触る。ザリザリとした感触がいい。泣いたままその部員は戻って行った。

 次の部員はポニーテールだ。この長い髪を今から刈り上げに出来る。嬉しさを顔に出さないようにするのが大変だった。
「お前はなんで長いままなんだ?」
「あの、美容院が開いていなくて…。」
「下手な嘘をつくな!髪を切るなら床屋でもいいじゃないか。お前はただ切りたくないだけだろう?」
「…」
「ポニーテールか…こんなものバレーには不要だ。バレーにふさわしい髪型にしてやる。」

「いやです…。」
 聞こえないふりをした。こんなに可愛い子を無残な刈り上げショートに出来るとは、何とついているのだろう。

 あえてポニーテールを解かず、結び目にハサミを入れた。髪の量が多くてなかなか切れなかったが、何度もハサミを開閉してジョキッと切った。

 その瞬間、大粒の涙を流した。いいぞ、もっと泣かしてやる。不揃いになり行先を失くした髪をザクザクと切っていく。かなり短いショートにした。

 そしていよいよバリカンを取り出した。ここからが本番だ。美少女の艶のある黒髪をバリカンで刈り上げる。こんな快感が世の中にあるだろうか。頭を抑え付け、襟足にバリカンを入れる。地肌にバリカンを押し付けてバリカンを進める。女の子はビクッとなる。気持ち良く刈り上げていく。このまま坊主にしてしまいたいという欲求に駆られたが、そこは我慢した。

 髪を切っている間中、泣き声が聞こえてきた。そうだ、それでいい。
「髪を切ってこないお前が悪いんだぞ。これが嫌なら次からはきちんと切ってこい。」その間もバリカンをグイグイと押し付けて、刈り上げの部分を広げていく。白いうなじが丸見えになる。

 そして刈り上げショートが完成した。ボーイッシュと言えば聞こえは良いが、どこから見ても男そのものだった。最後に頭をぐしゃぐしゃ撫でて解放した。

 俺はただのスパルタ監督ではない。体力づくりは厳しくやるが、技術や戦術はきちんとした理論に基づいて教えている。ミスを叱るのではなく、気のないプレイや独りよがりな行動を叱った。また理詰めでその子に合わせて分かりやすく教えるし、良いプレイには手放しで褒めた。そうすることによって、どんどん強くなっていった。

 だが、このチームには決定的な弱点があった。精神面だ。身体能力や技術は申し分ないのに、どこか覇気がない。いつも気持ちで負けている。これでは全国どころではない。

 そう思っていた矢先、それは練習試合で起きた。インターハイ前の大切な練習試合。相手は強豪校。コートに出て誰もが驚愕した。相手校の選手が皆丸刈りにしていたのである。短い子はスキンヘッドだった。

 その迫力に気圧されたのか、2試合ともいいところなくストレートで負けた。これはチャンスだ…。
「どういうことだこれは!?一セットも取れないなんて、お前らやる気はあるのか?」
「すいません…。」
「お前らは技術もある。身体能力も高い。なのになぜこういう結果になるか、考えたことはあるのか?」
「考えているのですが…分かりません。」
「ならば教えてやろう。精神面だ。技術だの身体能力だの、それも確かに大切だ。だがお前らに対戦相手のような気迫が全く感じられない。なにがなんでも相手に勝ってやろうという気持ちが見えてこない。それは就任した時から感じていた。だから髪を切らせたが、それでもあまり変わらない。それは練習態度を見ていても分かる。もっと真剣にバレーに打ち込む覚悟が必要なんだよ。」
「…」
「キャプテン、椅子に座れ。今からその覚悟を胸に刻み込んでやる。」
 そう言ってから、俺は鞄から手バリカンを取り出した。
「監督、何をするんですか!」
「バリカンですることと言ったら髪を切ることしかないだろう?」
「また刈り上げにされるんですか…?」
「それじゃ今までとは変わらない。今からお前を丸坊主にして、甘さを失くしてやる。」
 俺は困惑するキャプテンの頭を抑えた。
「丸坊主なんか嫌です!止めて下さい!!」
「キャプテンのお前がだらしないからこういう結果になるんだ。まずはお前に変わってもらわないといけない。動くと頭が切れるぞ!」

 この言葉で大人しくなった。左手で後頭部を抑え、わざと手バリカンを見せつけてから前髪に入れた。ザクザクと髪を刈り取った。
「キャー!!」「やめて!!」あちこちで悲鳴が上がる。
「今日の対戦相手を見ただろう?彼女らは女を捨ててバレーに打ち込んでいる。彼女らに出来てお前らに出来ない訳がない。」そう言いながら、次々に手バリカンで刈っていった。

 手バリカンは電気バリカンと違い、ジワジワと刈っていくのがいい。時間がかかる分、絶望に満たされた顔を長く拝める。少しずつ坊主になっていく過程も見物だ。

 前髪を全て刈り終えて、落ち武者のようにした。次は耳を押さえて耳周りを刈る。次第に坊主の部分が広がっていく。

 前髪を刈る時は表情が見えるのが良いが、無防備なうなじを刈る時も興奮する。頭を押さえつけて、刈り上げが伸びてきた後ろの髪を手バリカンで容赦なく刈っていく。このエクスタシーは俺にしか味わえないだろう。

 女子高生の柔らかい髪を手バリカンで坊主にする。前の高校でもやったことだ。断髪フェチである俺にって、最高の時間だ。髪を刈る感触、茫然とする顔、諦めの顔、涙、落ちていく髪、どれを取っても素晴らしい。

 すすり泣きの声と手バリカンの音のみ響く体育館。1㎜の刃だから、刈ったところは青々とした地肌が見えてくる。

 やがてキャプテンの丸坊主が完成した。わざと虎刈りのようにしておいた。床屋で刈り直してくることを期待して。

「全員明日までに1ミリ以下の坊主にしてこい。なお床屋以外は認めない。してこない者はキャプテンみたいに俺が坊主にする。以上解散!」

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