「カーギル」の信念
ロシアでの事業を続ける米穀物メジャー・カーギルの信念
政治経済 2022/04/05 11:30 Chloe Sorvino , FORBES STAFF執筆 Forbes JAPAN
ロシアが2月24日、一方的にウクライナへの攻撃を開始してから数時間後、黒海に面した同国南部の港湾都市、オデッサの沖合で貨物船ヤサ・ジュピターがロシア軍の攻撃を受けた。その後ロシアは、オデッサ東部のユージュヌイへの激しい攻撃を開始した。
ヤサ・ジュピターは、世界最大の穀物商のひとつ、米カーギルがチャーターしている貨物船だ。そして、ウクライナ政府の支援を受け、ユージュヌイ港にある穀物ターミナルを運営しているのは、地元企業とカーギルが設立した合弁会社だ。
Ralf Liebhold / Shutterstock.comカーギルはいま、ロシア軍に軍に包囲されたこの地域から各国に向け、小麦やトウモロコシなどを送り出すことに苦労している。ただ、攻撃を受けても、ウクライナでの事業を放棄するつもりはない。また、攻撃を続けるロシアからの撤退もないという。
食料の「権利」を守る
「食料(を得る権利)は基本的人権であり、(食料は)決して、武器として使われるべきではない」
カーギルは自社のウェブサイトでそう明言するとともに、次のように述べている。
「この地域は、世界の食料システムにおいて重要な役割を担っている。そしてパンや粉ミルク、穀類といった基本的な食料の材料を生産する極めて重要な地域でもある」
世界中の多くの企業は現在、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が自国よりはるかに小さいウクライナへの猛攻撃について考え直すことにつながればとの期待から、ロシア事業を停止。同国を経済的な孤立させようとしている。だが、カーギルはそれらの企業とは異なる。
ミネソタ州を拠点とし、およそ157年の歴史を持つ同社は、推定420億ドル(約5兆1500億円)の資産を持つ一握りの相続人たちが支配する国内最大の非公開企業だ。2021年の売上高は1340億ドルにのぼるが、「カーギルが扱う農作物がロシアの軍事力を支えている」と批判するだろう一般株主がいない。
そして、カーギルはロシア国内で小麦や飼料、シロップ、でんぷんなどの生産を続け、穀物その他の商品の取引を続けている。米国はロシアに経済制裁を科しているが、食料は医薬品と並び、制裁の対象品目には含まれていない。
重視するのは一国ではないカーギルのエクスポージャーは、ウクライナでの紛争によって被る可能性がある損失をはるかに上回る。同社は今月初め、ウクライナでの救援活動に2500万ドルを寄付すると発表したが、その金額は、同社の年間売上高のごくわずかな一部だ。
ミネソタ大学経営大学院と法科大学院のポール・M・ヴァーラー教授は同社について、ロシアとウクライナ両国の間で、外交官のような役割を果たしたいと考えているのではないかと述べている。
「世界」に焦点
ウクライナ国民には、「ホロドモール」の記憶がある。1932から翌33年にかけてソ連が引き起こし、何百万ものウクライナ人が命を落とした大飢饉のことだ。ソ連は当時、ウクライナ産の食料のうち国内向けとする量を制限。多くを輸出することにより、計画的に大飢饉を起こすことを画策したとされている。
一方、ロシアとウクライナの小麦の輸出量は、合わせると世界全体の3分の1近くになる。戦争によってその両国の輸出量が減少することで、今年は中東と北アフリカを中心に、数百万の人々が危機的な食糧不足に直面する恐れがある。
国際食糧政策研究所の上席研究員、デビッド・ラボルドは、「約2000万トンのウクライナ産の小麦が、市場に届かないかもしれない」「つまり、それをどう埋めるかについての選択肢が非常に限られた、新たな空白が生まれることになる」と指摘している。
カーギルによると、同社が重視するのは、一つの国ではない。それは、「世界のフードシステム」だ。 編集=木内涼子
■カーギル(英語: Cargill, Incorporated)は、アメリカ合衆国ミネソタ州ミネアポリス市近傍のミネトンカに本社を置く穀物メジャーの一つである。穀物のみならず精肉・製塩など食品全般及び金融商品や工業品に営業範囲を広げている。株式の全部をカーギル家とマクミラン家の関係者が所有する同族企業で、非上場企業として世界最大の売上高である。秘密主義で、情報の公開を義務付けられる公開会社としていない。20世紀に資産が6000倍に成長した。ミネアポリスにある本社は古風で古城のような外観の建物で、「シャトー」と俗称される。内部は一大情報センターであり、全世界の穀物の生産と消費の情報を基に経営戦略が練られている。
アメリカの中西部、穀倉地帯からメキシコ湾、五大湖、大西洋西岸にかけて穀物エレベーターを駅ごとに所有しており、このシステムを背景に仕入れ価格を支配し、駅まで作物を運搬できない小規模農家を疎外してきた。穀物メジャーは国際貿易取引を行うビジネスの性格上、石油メジャーと同様に政治と密接な関係を持つ場合がある。近年は水産養殖業に注力し、タイやベトナムなど東南アジアに研究開発拠点を設けたり、飼料メーカーを買収するなど動きを積極化している。日本では1956年にトレーダックス株式会社として設立され、2007年に日本の中堅商社であった東食を買収して改組した「カーギルジャパン」を子会社に持つ。 ウイキペディア
グーグルが米電子カルテ大手と提携 医療IT「破壊」の起爆剤になるか
クノロジー 2022/03/23 06:30 forbesjapan
米グーグルは3月15日、米医療IT大手メディテック(MEDITECH)と臨床向け統合ソリューションの開発で提携すると発表した。
医療部門「グーグル・ヘルス」が手がける医療データプラットフォーム「ケア・スタジオ(Care Studio)」の検索などの一部機能を、メディテックの電子医療記録(EHR)システムに導入する。グーグルのほこる高度な「情報整理力」で使い勝手のよくなったEHRが普及すれば、既存の医療IT業界全体の「破壊」にもつながるかもしれない。
グーグルの説明によると、ケア・スタジオは「グーグルの情報整理技術を活用して、臨床医が医療記録情報をより素早く見つけられるようにする」臨床向けソフトウェア。医師は調べたい事項を検索窓に入力するだけで具体的な情報や関連する項目をすぐに見つけられるほか、通院歴や治療の経過など患者の重要情報もまとめて一覧できる。直感的なインターフェースを採用し、医療データや傾向などを表やグラフのようなわかりやすい形式で視覚的に把握できるようにもしている。
グーグルは、現行の医療系ITシステムの多くが直面している障害に対処しようと、このプラットフォームを入念につくり上げた。現在、このシステムを通じた新たなパートナーシップの構築に動き始めており、メディテックとの提携もそのひとつだ。
発表文によると、グーグルとメディテックは、ケア・スタジオのデータ整合、検索、要約といった機能の一部をメディテックのウェブベースEHR「メディテック・エクスパンス」に取り入れ、「深く統合されたソリューション」を開発する。
具体的には、メディテックはケア・スタジオのツールを用いて、縦断的な医療データ層をつくり、さまざまなソースからのデータを標準フォーマットにまとめ、臨床医が患者記録を一覧できるようにする。ケア・スタジオの検索機能をメディテックのEHRに組み込むことで、臨床医は重要な情報をより素早く見つけ、フリクションレスの経験が可能になる。
このほか、ケア・スタジオのインテリジェントサマリー機能を用いて、エクスパンスのワークフロー上で重要な情報を直接強調できるようにもする。こうして「医療データの相互運用性を向上させ、もっとつながったエコシステムというメディテックのビジョンを実現する」ことを目指す。
今回の協業はグーグルのクラウド事業部門「グーグル・クラウド」とメディテックのパートナーシップを拡大するという位置づけで、新たに開発するサービスでもグーグル・クラウドのインフラを活用する予定だ。
メディテックとの提携はグーグルにとって、期待の膨らむ画期的な出来事だと言えるだろう。グーグルはすでにクラウドやデータサイエンスなど「垂直」方向で多くのヘルスケア企業と強い関係を築いているものの、EHRなどの分野では比較的若い企業だ。メディテックのような大手との提携は、グーグルのこの分野の製品が成熟し、そのプラットフォームを新たなフロンティアに拡大する用意が整ったことを示している。
メディテックのEHRシステムは広く利用されており、世界の大手医療機関にも採用されている。グーグルの参入により、この分野の可能性は無限に広がる。同じくEHRを手がけ、この10年ほどで一気に存在感を高めた新興医療IT企業の米エピックなども、グーグルなどと組む機は熟している。
グーグルがケア・スタジオを将来、他社のシステムと競合する独立したEHRプラットフォームとして売り出す計画なのか、それとも今のように既存のプレイヤーとの提携を続けていくつもりなのかは現時点では判然としない。とはいえ、グーグルがほかの分野でいくどとなく示してきたように、医療ITの分野にも破壊(ディスラプション)が迫っているのは間違いない。
医療ITは変革のときを迎えており、そこでグーグルが非常に重要な役割を果たすことになるのも確実だろう。
編集=江戸伸禎
画像 カーギル、カカオ農家支援でネスレと協働。持続可能な牧草地ではNGOとマクドナルドと連携 | Sustainable Japan
米国カーギル社シャトーの取り壊し | センチュリーコーン
関連記事
ニューズウィーク 米カーギル、22年度売上高は23%増 過去最高の1650億ドル|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト