スティグマ、を突破しろ!!!
2023年08月21日
ヴァージン・ギャラクティック.3
「夢か幻か、それは泡と消え影なのか」、であっても、それはブランソンの本意ではない~
ヴァージン・ギャラクティック「チャールズ・ブランソン」。コングロマリット、ヴァージン・グループの創設者会長。
ブランソン氏の宇宙事業に黒星、ヴァージン・オービットが破産申請
Siddharth Philip、Loren Grush 2023年4月5日 15:34 JST bloomberg
英資産家リチャード・ブランソン氏の宇宙企業帝国に厳しい現実が突き付けられている。小型人工衛星の打ち上げを手掛ける米ヴァージン・オービット・ホールディングスは4日、資金繰りに行き詰まり、連邦破産法11条に基づく会社更生手続きの適用を申請した。
数カ月前までは英国の宇宙プログラムで主要な役割を果たすと思われていた。これを受け、ブランソン氏の他の宇宙関連会社ヴァージン・ギャラクティック・ホールディングスの株価も下落し、同日の米株式市場で年初来安値を付けた。
これは民間宇宙産業のパイオニアであるブランソン氏にとって「黒星」だ。同氏は、2000年代初めから民間宇宙市場のベンチャーを支援し、04年には宇宙船「スペースシップワン」で民間初の有人飛行を成功させた。ヴァージン・オービットは17年に宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックから分離する形で設立され、特別目的買収会社(SPAC)ブームのさなかの21年に米市場に上場した。
リチャード・ブランソン氏
Photographer: Patrick T. Fallon/AFP/Getty Images
オックスフォード大学サイード・ビジネス・スクールの戦略・技術革新担当上級講師、ティモシー・ガルピン氏は「長期投資家にとって新たなSPACの失敗例だ。民間宇宙産業は注目されており、良いニュースも悪いニュースも広く報じられるため、ブランソン氏のブランドに少なくとも多少の傷が付く可能性が高い」と述べた。
ヴァージン・オービットの株式約75%を所有するヴァージン・グループは4日の発表資料で、人工衛星33基の打ち上げを含むオービットの実績を誇りに思うとしたほか、グループとブランソン氏でこれまでに計10億ドル(約1300億円)余りをオービットに投じてきたと説明した。
ヴァージン・オービットの担当者はコメントを控えた。ヴァージン・ギャラクティックにもコメントを求めたが、すぐには返答がなかった。
ブランソン氏は資産家のジェフ・ベゾス氏、イーロン・マスク氏と並ぶ業界の顔となっており、とりわけ21年の宇宙飛行後は存在感が増した。ヴァージン・ギャラクティックの宇宙船「VSSユニティ」での宇宙飛行成功を巡る熱狂で、同社の時価総額は一時130億ドルを超えたが、その後は低迷している。
一方、ヴァージン・オービットは航空機からロケットを打ち上げる技術を推進する中で資金が枯渇。今年1月に英国の宇宙港から離陸させた空中発射母機による小型衛星打ち上げを行ったが、失敗に終わった。追加資金を確保できず、ブランソン氏からの救済も得られず、3月には事業活動を停止し、従業員の大半を削減した。
ヴァージン・ギャラクティック株は4日の通常取引を12%安の3.43ドルで終了し、時価総額は9億6100万ドル。ヴァージン・オービットは23%下落し、21年の上場後に一時35億ドルを超えた時価総額がわずか5020万ドルまで減少した。
いざ、宇宙へ──リチャード・ブランソンの宇宙旅行にかける夢
宇宙船の墜落という悲運から3年、不屈の冒険家リチャード・ブランソン率いるヴァージン・ギャラクティックが戻ってきた。目指すは2018年中の営業飛行スタート。たくさんの人の夢を乗せ、豪華宇宙客船は飛べるのか。
Words: Charlie Burton Translation: Hiroshi SawadaBy GQ JAPAN編集部
2017年9月25日
失敗した4回目のテスト飛行 - 2014年何かがおかしい。場所はモハーヴェ砂漠の上空、時刻は2014年10月31日の朝10時を過ぎたばかりだった。
ヴァージン・ギャラクティックの双胴の母船「ホワイトナイト2」を操るデヴィッド・マッケイは、翼の下に抱えた宇宙船スペースシップ2の初号機「エンタープライズ」を、いままさに切り離したところ。ロケット噴射のテスト飛行は4回目だが、噴射する炎の色がいつもと違った。
妙だな、炎が見えない。ロケットに点火し、音速の壁を突破すべく加速していくのを、マッケイは視認していた。
しかし4秒後、エンタープライズは爆発した。高度は1万4000メートル、操縦士のピーター・シーボルトは宇宙船を脱出し、負傷と酸欠に苦しみながらも、なんとかパラシュートで地上に帰還した。
副操縦士のマイケル・オルズベリーは、後に遺体で発見された。こちらは操縦席に座ったままだった。ヴァージン・ギャラクティック(以下、VG)の創業者リチャード・ブランソンは英領ヴァージン諸島にある自宅で事故の第一報を聞き、すぐに自家用ジェットでカリフォルニアへ飛んだ。
「モハーヴェ砂漠に着くまで、考える時間はたっぷりあった」とブランソンは言う。「まだ事故原因は不明だった。機体に問題があったのか、それとも人的なミスなのか。もしも宇宙船に構造的な欠陥があるのなら、この事業の継続は難しいとも思った」。
新しいタイプの燃料を使ったせいでロケット・エンジンが爆発した、と報じるメディアもあった。しかしVGの拠点モハーヴェ・エア&スペースポートで見守る管制チームは、操縦室内のカメラ映像や各種のデータ解析から、操縦ミスが原因と結論づけた。
国家運輸安全委員会(NTSB)による公式調査(1年近くかかった)の結論も同じだった。この飛行船には大気圏再突入時の方向制御と減速のために尾翼を動かす装置があるが、オルズベリーは何らかの理由で、早すぎるタイミングで尾翼を上げてしまった。そのため炭素繊維製の機体に過剰な空力学的負荷がかかり、一瞬にして空中分解したのだった。
それでもブランソンへの風当たりは強かった。人の命を犠牲にしてまで宇宙へ行きたいのか、という非難も浴びた。しかしVGと、宇宙船の開発を担当する協力会社スケールド・コンポジッツのスタッフは全員、事業続行を望んだ。宇宙飛行を予約した客の97%以上も同意見。ブランソン自身も事故の翌日、自社のウェブサイトにこう書き込んだ。「宇宙は難関だ。しかし挑戦する価値はある」
悪夢の墜落 空中分解した宇宙船エンタープライズの残骸(カリフォルニア州キャンティル近郊、2014年11月1日撮影)。
同機は55回目のテスト飛行中、高度1万4000メートルで爆発し、副操縦士のマイケル・オルズベリーは死亡。操縦士のピーター・シーボルトは奇跡的に助かった。
あれから3年、VGは宇宙船スペースシップ2の2号機「ユニティ」のテスト飛行を続けている。外観は悲運の初号機と同じで、高高度で母船から切り離され、宇宙空間へ飛び出した後に自力で地上へ戻り、何度でも繰り返して飛べるタイプの宇宙船だ。
ただし事故の教訓に学び、尾翼の致命的な誤作動を防ぐシステムを加えてある。2016年に完成し、テスト飛行も初代のエンタープライズと同じ段階まで来た。次なるステップは宇宙空間への到達だ。
地球と宇宙の境目は、NASAの定義によれば高度8万メートル。たとえ数十秒でもこの高度を超えて飛ばなければ「宇宙飛行」とは認められない。もしもユニティがこれに成功すれば、夢の宇宙観光旅行は大きく実現に近づく。
宇宙旅行の夢を追う会社は、なにもVGだけではない。
アマゾンのジェフ・ベゾスが創立した「ブルーオリジン」はVGと同様に短時間の宇宙体験旅行を目指す。ただし乗客を詰め込んだカプセルを再利用可能なロケットで打ち上げ、切り離されたカプセルはパラシュートで地上へ降下する方式だ。テスラのイーロン・マスクが創立した「スペースX」には2つの目標がある。
まずは人工衛星の打ち上げや国際宇宙ステーションへの補給に繰り返し使える安価なロケットの開発(すでにファルコン9の実用化に成功している)。そして究極の目標は火星への移住だ。宇宙産業にはアメリカの起業家たちも次々に参戦している。それでも、民間企業が有人宇宙飛行に成功した例はまだない。
VGの宇宙旅行を予約している人はすでに約700人。20万ドル以上の予約金を払った客にはトム・ハンクスやブラッド・ピットも含まれるという。無料で招待されているのは宇宙物理学者のスティーヴン・ホーキングのみ。もちろんブランソンは処女フライトに乗り込むつもりだ。
「来年中にはぜひとも飛びたい、できれば2018年の早い時期に」とブランソンは言う。「今年12月までには宇宙飛行のテストを始める予定だ。もちろん『順調にいけば』の話だけれど」
順調にいかず、2度目の致命的な事故が起きたら?
「その問題は、VGの社長であるジョージ・ホワイトサイズと何度も議論した。事故が起きないとは保証できない。人的ミスではなく、技術的な問題で事故が起きる可能性も排除できない。そうなったらどうするか? まずは原因を追究し、先のことはそれから決める」とブランソンは言う。「しかしね、私は途中で投げ出すタイプじゃない。気球に乗っていたときも何度も死にかけたが、私はやめなかった。何があろうと、成功するまでは前進あるのみ。それが私の性分だ」。
「地球はあまりにも美しい」いざ、宇宙へ──リチャード・ブランソンの宇宙旅行にかける夢
完成した2号機ユニティを囲むスタッフたち(2016年2月19日)、先頭で手を振っているのがブランソン
ブランソンはいま、英領ヴァージン諸島にある無人島ネッカー・アイランドを買い取って、豪邸を建てて暮らしている。
目の前はすぐ海。一泳ぎしてきた老冒険家は筆者の前で、宇宙への熱い思いを語った。
「あそこまで行き、無事に帰還した宇宙飛行士たちにいろいろ話を聞いたよ。例外なく誰もが、宇宙体験で自分が違う人間になったと感じていた。地球はあまりにも美しい、その地球を外から眺めるという、まだたった500人しか経験していないことを経験できたら、それは素晴らしいことじゃないか」
正確に言えば現時点で536人だが、VGの予約客はすでに約700人。順調にいけば、営業開始から数年のうちに、ほぼ全員が至福の宇宙体験を味わうことになる。
ブランソンは当初、処女フライトに自分の2人の子どもたちも連れて行くつもりだった。しかし2014年の事故で考えを変えた。
「いまは子どもたちにも子どもができて、つまり2人とも人の親だ。だから、たぶん最初は私1人で飛ぶ。それも、できるだけ早い時期に」
テスト飛行にブランソンが乗り込む可能性もある。安全性に自信はあるのだろうか。
「まだテスト飛行の段階だからね。すべてのテストが完全に終了するまでは、客を乗せて飛ぶ自信があるとは言えない」
ジェフ・ベゾスやイーロン・マスクとの先陣争いには興味がない。「誰が先に商業的な有人宇宙飛行に成功するかは問題じゃない」とブランソンは言う。「ジェフの計画は実にエキサイティングだ。しかし私たちとは方向性がまったく違う。イーロンにしても、本当にやりたいのは惑星探査だろう」
一方でVGが目指すのは、ラグジュアリーな宇宙体験を多くの人に提供すること。今は20万ドルもするVGのチケットも、ブランソンの計算では20年後には2万ドルまで下げられると言う。
それだけではない。A点からB点へ、宇宙空間を経由して飛ぶ超音速定期便の構想もある。そうすれば東京とロサンゼルスを1時間で結べる。
そして将来的には、月にヴァージン・ホテルを建てたいとも考えている。「私の子どもたちが泊まれるようにね」とブランソンは言う。「あいにく私の生きているうちには間に合わないが」。
英版『GQ』 2017年7月号