シンクタンクで働くキャリア越野結花
2022年09月20日
米CSISで働く若き日本人研究者 越野結花
世界トップのシンクタンクは日本と何が違うか
米CSISで働く若き日本人研究者に見える光景
船橋 洋一 : アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長 東洋経済 2019/06/24 5:20
シンクタンク・パワーと政策起業力のフロンティアと日本の課題を、シンクタンクや大学、NPOの政策コミュニティーの現場で活躍している第一線の政策起業家たちと議論する本連載。総論をまとめた第1回「霞が関に依存しないシンクタンクが必要な理由」(2019年6月10日配信)に続く第2回は、アメリカ・ワシントンのCSIS(戦略問題研究所)に勤めるシンクタンカー、越野結花氏との対談前編をお届けする。
船橋 洋一(以下、船橋):越野さんがお勤めのワシントンのCSISは、外交分野では世界ナンバーワンと言われるシンクタンクです。20代とまだ若い越野さんが、どのような志を持って、どのような経緯でCSISに入所されるに至ったのか。その辺りからお話しいただけますか。
画像 アメリカ・ワシントンのCSIS(戦略問題研究所)に勤める越野結花氏 学生時代のインターン経験を語る越野結花氏 東洋経済
越野 結花(以下、越野):私はアメリカのロサンゼルスで生まれて、幼少期を同時多発テロ前後のアメリカで過ごしました。帰国後は、海外研修の多い中高一貫校で学びました。そんな経験から、最初は国際政治、とくに、日本の対外発信に強い関心を持つようになりました。
学生時代に書いた記事が週間最多アクセス大学時代はアメリカのスタンフォード大学に研修に行ったり、交換留学生としてカリフォルニア大学バークレー校で学んだりする中で、今後、世界のリーダーとなる人材が集まっている場所での日本人の存在感とか、日本人学生の少なさに危機感を覚えました。そして、世界で影響力を持つ英米系のメディアに関心を持つようになりました。
帰国後、『エコノミスト』や『ウォール・ストリート・ジャーナル』で、東京支局のインターンとして取材し記事を書き始めました。インターンとしての最初の仕事はウォールストリー卜誌のプロジェクトで、日本の在日米軍基地負担を取材しました。ちょうど、2016年の大統領選の時期で、ドナルド・トランプ氏が在日米軍基地撤退を口にしていたからです。それはアメリカでも関心の高いテーマで、週間最多アクセスを獲得してしまいました。
船橋:すごいですね。
越野:インターンとして3カ月間、日本の政治経済やビジネスの情報を発信する中で、自分自身が政策や新しいアイデア、コンテンツを作り出す側で仕事をすることに関心が移っていきました。ならば、世界政治の中心であるワシントンでの実務経験があって、アカデミアの経験もある先生から直接学びたいと考え、自分への出資のつもりで、ジョージタウン大学外交政策学院アジア研究科の修士課程MASIA(Master of Arts in Asian Studies)に進学しました。実務の視点からアカデミックなトレーニングを受けることのできるプロフェッショナルスクールです。
ジョージタウン大はインターンを奨励していました。9月に入学してすぐに、マイケル・グリーン先生(CSISアジア上級副所長・日本部長、ジョージ・W・ブッシュ政権時代に大統領特別補佐官や国家安全保障会議アジア上級部長などを歴任)にCSISの日本部門を紹介され、そこで半年働きました。先生はアメリカのアジア外交や日本の安全保障政策の第一人者です。そのほか、在学中にバラク・オバマ政権時代国務次官補を務めたカート・キャンベル氏が設立したコンサルティング会社のアジア・グループにもインターンに行きました。
大学院ではアメリカのアジア戦略やサイバー戦略、中国の軍事戦略などを勉強し、卒業後はアバセントという防衛・航空・宇宙産業に特化した戦略コンサルティング会社で働いていましたが、進学の動機でもあった、政策の現場近くで働きたいという気持ちは強く持ち続けていました。そんな中で、インターンに行っていたCSISからオファーをいただき、現在のフルタイムの仕事に就きました。
エレベーターにキッシンジャーが船橋:そうすると、ジョージタウンの大学院時代のインターンの経験がものすごく大きかったということですか?
越野:そうです。もちろんフルタイムとは違いますが、研究所の中に入って、実際にグリーン先生の仕事をすぐそばで見ることができたのは、非常に貴重な経験でした。例えば、北朝鮮がミサイルを発射すると、取材を受けたり公聴会に呼ばれたりします。インターンの仕事は、北朝鮮のミサイル発射の時系列や、メディアの報道の傾向を調べることでした。
グリーン先生がこれからまさに発言しようとすることの、最初のインプットを調べるのですから、やりがいもありました。何より、歴史を作ってきた戦略家が、眼前の問題にどのようにアプローチしているのかを、肌感覚で経験できたのが面白かったです。
船橋:CSISでの半年間のインターンで、最も印象に残ったこと、政策研究を志すうえで役に立ったことを1つだけ挙げるとしたら、何ですか?
越野:1つだけというのはなかなか難しいのですが、印象に残っていることは、日々世界中の著名な研究者や政府高官が出入りをしていて、緊張感やスピード感溢れる空間であったことです。例えば、ヘンリー・キッシンジャー(元アメリカ国務長官。ベトナム戦争の和平交渉で1973年にノーベル平和賞受賞)先生のような歴史的な人物とエレベーターに乗り合わせたとか、ズビグネフ・ブレジンスキー(政治学者リンドン・ジョンソン大統領顧問、ジミー・カーター大統領補佐官などを歴任)先生がホリデー・パーティーでダンスをされているのを目にしたこともありました。
以下割愛