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小津監督「東京暮色」すでに忘れてしまった暮色した夕焼け小焼け

リヤカーに載ったピアノを曳く征爾少年 小津監督は、そんな風景を映画に記録した

連続して「小津安二郎」監督の映画監の映画感想と、そこに浮かび上がる黒
塀路地を歩く東京市民が、やけにリアルという白黒映画は、いったい何だろうかと深く考える意味を私にあたえたのでした。というのも、年齢的に、そんな風景の一断片を見ていたからです。

そんなことをただ論評で語ってしまうと、単なる映画論になってしまって、役者巧緻論に陥りますので、タダのジャンル分け評論でしかありません。

ですから、ここでは、そうしたモノが全部一蓮托生の世界で繋がれ、小澤征爾が若かりし頃、そんな界隈をリヤカーにピアノを載せて遠路自宅まで運んだ、そして、「家庭内」という一戸建てストーリーの、逸話のエピソードを2時間映画に記録したという、破天荒な監督の時代を分析したものです。

「小津安二郎映画」論、安直な論評すれば、あまりに日常を、微に入り細を穿った娯楽映画は退屈、なのでした。

当初、私もそうみていたのですが、いやはや小津映画は、そんな軽薄なものではありませんでした。

まず単刀直入にいって、とても判り易いギリシア哲学の「日本語解説書」だったのです。たまたまそうした時代背景に遭遇した映画監督、ということも出来ます。

双璧はね「黒澤明監督」であったということもできますが、ジャンルが違いすぎるため、比較対象ではないと、ついつい思いがちですが、同じ記録媒体であり、中身が水と油であると別けることは出来ません。
なぜなら所詮、娯楽ジャンルとして利益至上であって、「たばこと酒税」アップのため、ブッキング広告として、頻繁に使われていたのがよくわかります。それは別にして、その小津映画と、小澤氏訃報が、たまたま重なったので、その両者もまた、同じ日本街道を歩いていたというヒストリー逸話でした。

まず小津映画二作目「東京暮色」のシナリオと、同時代の小澤指揮者のたどった回顧録、そして70年経過して、そのバックボーンから育った日本人ピアニスト、反田恭平さん、小林愛実さん、角野隼斗さん、沢田蒼梧さん、牛田智大さん、など、ショパンコンクールで上位を飾った若きピアニストの話しです。

無名時代 小澤征爾
リヤカーでピアノを運ぶ 2018/3/18 book ウオッチ
 小澤さんは日本のクラシック音楽史上で傑出した天才だ。20代半ばで第9回ブザンソン国際指揮者コンクール1位となり、ヨーロッパのオーケストラに多数客演。さらにカラヤン指揮者コンクールでも1位となって、バーンスタイン率いるニューヨーク・フィルの副指揮者に抜擢された。

 いわば「神童」というわけだが、本書を読むと、ちょっと拍子抜けする。初めてピアノに触ったのは小学校4年生の終わりのころだったという。担任の女の先生が、ピアノができるひとで、講堂で弾いているのをじーっと見ていたら「触ってもいいよ」と隣に座らせてくれたのがきっかけだ。最近の音楽家と比べるとオクテといえる。

 余りもピアノに興味を持つので、親が横浜の親戚からピアノを譲ってもらう算段をつけた。高級カメラのライカを売って代金を工面したが、立川の家までピアノを運んでくるのが一苦労だった。
いまのように引っ越し業者がいない時代だ。なんと兄たちがリヤカーを引いて横浜まで行き、ピアノを載せて、農家に一晩預けたり、親戚の家に泊めてもらったりしながら三日がかりで運んだという。晴れて5年生の秋には「エリーゼのために」を学芸会で演奏した。結果的にこのピアノが「世界のマエストロ」の生みの親になるのだからほほえましい。


そして小津監督「東京暮色」

『東京暮色』「素直に入れた」 有馬稲子が語る小津

NIKKEI STYLE 2018年7月5日 5:40
「東京暮色」(1957年)は有馬にとって初の小津作品。だが脚本執筆時、主演の明子役は岸恵子が想定されていた。当時は全然知らなかった。5、6年前に知ったんです。でも私、よくやってると思いませんか?

岸さんはうまい人だけど、個性が強いから。私のように個性があまりない人がやってちょうどいいんですよ。あの役は。岸さんほど頭がよかったら、あんな男には引っかからない。
私は映画界に入って間もなかった。小津さんの偉大さも知らないで、松竹に行った。だから非常に自然にやれた。あがりもしないで。言われた通りにやった。後に小津さんが偉大な人とわかって、「彼岸花」(58年)の時はあがりました。

演出はほとんどなかった。
「セリフ言ってごらん」と言われ、短いセリフを何回も言わされて、「こう言うのよ」と小津さんがなさる。
それがうまい。それくらい。全然絞られなかった。母役に山田五十鈴、姉役に原節子。大女優と臆せず共演した。

山田さんとの対決なんか我ながらよくやってると思う。あがらなかった。後にその偉大さがわかったけど、この時は何とも思ってない。原さんに対しても。
明子は母を知らずに育ち、大陸から引き揚げてきた母と再会する。有馬自身も4歳で釜山の伯母の養女となり、引き揚げ後に実父と再会する。

素直に役に入れた。私も家がややこしい。平穏な家庭に育ってない。明子の複雑な心情はよくわかった。
明子にはずっと母親がいなかった。母親が男を作って大陸に行って。で、帰ってきたとわかって、その母親に詰め寄る。とてもよくわかったな。素直にやって、すーっと通っちゃった。

小津さんに韓国から引き揚げた時の話をお酒飲んだ時にした。16トンの闇船で玄界灘を密航して帰ってきた。客は三十数人。小さなイワシ船で、底が魚臭かった。その話を小津さんが気に入って「ネコちゃん。あの話してよ」って、飲み会で3回くらい言わされた。

明子は恋人に逃げ回られ、子供をおろす。
そういうことも私はわかった。私自身がちょうどそういう経験をしてたから。三好栄子さんがやった堕胎するお医者、うまいよね。すごくよくわかった。

最初に私が家に帰ってくるシーンなんて、我ながらうまいと思う。何ともいえない倦怠(けんたい)感。男を追いかけているのに、いつも逃げられて、子供はできてるし。憂鬱そうな感じがでてる。お父さんには相談できない。お姉さんにも言えない。どうしようかと思ってる。
最後にラーメン屋で男を見つけて、ひっぱたくけど、あれ本当にひっぱたきましたよ。何であのだらしのない男に引っかかったのか、わからないのね。

公開時の評価は低かったけれど、大変な作品だったんだなと思いますね。自分の(女優歴の)前半で賞をあげていい佳作だと思う。


〈あらすじ〉
周吉(笠智衆)の長女・孝子(原節子)は夫と不仲で孫娘を連れて実家に戻ってきた。次女・明子(有馬稲子)は恋人の子を身ごもり、叔母に借金しにきた。逃げる恋人を追って訪ねたマージャン屋で明子は女主人の喜久子(山田五十鈴)と出会う。実は喜久子は周吉の元妻。周吉が京城(現ソウル)赴任中に、男と満州(現中国東北部)に駆け落ち。戦後独りで引き揚げ、今は別の男と暮らす。明子は不誠実な恋人に絶望し、堕胎。喜久子に「あたしはほんとにお父さんの子なの?」と迫る。その夜、電車にはねられる……。(編集委員 古賀重樹)
日本経済新聞夕刊2018年7月3日付]

作為がないのは、それ以外のやり方がないから

この「東京暮色」は小津監督としては異色だ、という論評もあるようですが、私は逆に、小津映画の総決算映画に読めました。

物語の筋としては、若者二人間の妊娠結果から次女・明子が直感的に、導いた母親不審の疑いでした。これだって特別な突飛なはなしではなく、よく在る話しで、そうした経緯を手繰るという明子の心理描写と役者の上手さが相乗して、ハイレベルなシーンになっていたのです。
(明子の妊娠は普遍的テーマでありながら今も解決されない。実体験としてもよく理解している)

そのような、日常と非日常が交互に入れ替わって、映画では明子は「自殺」という選択に至りましたが、それによって、この普遍テーマは、以後も課題は残るという示唆です。

そして、一方の指揮者「小澤征爾」は数々の金字塔を残して、世をさりましたが、陰日向になりクラシック音楽の若手育成に尽力し、その果実が熟しつつあるという日本のクラシック界、ということです。

そこで一つ問題ですが、そのショパンコンクール、4年に一度という厳しい登竜門であるのは間違いないのですが、はたして「街角ストリートミュージシャン」と彼らの違いは、何か、という僅差は、どの位の開きがあるのでしょうか。
またコンクールのための試供ピアノ選定もあって、同時に楽器メーカーとの、熾烈な競争駆け引きも巻き込んで、尋常ならざる世界というのは、よくわかります。

そんなことを類推すると、じゃこの日本でショパンというクラシックピアノが、どれはほど一般市場に浸透しているかといったら、死蔵(床の間にも入らない)されている一般家庭のアップライとピアノは、中古業者の査定対象でしかないという寂しい音楽事情を語っていないだろうか、という思いは消えません。
そのことは小津監督が提起した普遍的愛の始末が、堕胎によって一気に問題が解決してしまうという刹那に、まるでそっくりだ、という回答にたどり着く、という恣意的なロジックでした。

そのことは西洋音楽に限ることなく、日本の伝統継承民族音楽も同一線上にあって、世界の人々は、いま全員が同じ方向の列車、船に乗ってすすんでいる。
その途中、止まったストップステーションは、1ミリの狂いもなく建築されていて、前の駅と後ろの駅の区別もつかない、ここはどこ私は誰? というアリスの世界に紛れ込んだアリスは、ChatGPTで作られたキャラなのか、というフェイクが私の脳のを被う。



















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