クラシックの魅力、楽しさを辻井伸行
クラシックの魅力、楽しさを
国境や世代を超えて伝えたい ピアニスト辻井伸行さん
Feb.2024 Vol.221 朝日新聞社メディア事業本部
「もの心ついた時にはピアノを弾いていました。ピアノがとにかく楽しくて……」
そううれしそうに語る辻井伸行さんは、今や日本が誇る世界的なピアニストである。毎年、世界有数のホールで公演し、一流オーケストラからの共演依頼が絶えない。昨年はカーネギーホールでの公演、ロンドンで毎年、夏に開催されている音楽の祭典「BBCプロムス」への出演も大きな反響を呼んだ。そんな辻井さんに今年、日本で予定されている海外オーケストラとの共演について伺った。
7千人が熱狂した「BBCプロムス」公演
「僕はいろんな国を訪れ、現地の人と交流することが大好きです。海外の人は、コンサートでの反応もすごくいいですね。街を散策したり、その地ならではのおいしいものを食べたりすることも、すごく楽しみです」
そう語る辻井さんは昨年、1月の米国ニューヨーク・カーネギーホールでの公演を皮切りにカナダやノルウェー、英国、香港、シンガポール、ジョージア、アルメニアと世界各地でコンサートを行った。なかでも印象深かったのが、英国の音楽イベント「BBCプロムス」への参加だったという。ロイヤル・アルバート・ホールを中心に、100以上のイベントが8週間にわたって開催される、クラシック音楽の祭典だ。
「10年ぶり2度目の出演ですが、期間中は音楽ファンですごく盛り上がります。とくに約7千人を収容するロイヤル・アルバート・ホールは、すごい熱気に包まれていましたね。前回はラフマニノフのピアノ協奏曲2番を弾きましたが、今回は難曲の3番に挑戦しました。無事演奏し終わった瞬間、地響きのような拍手がおこり、胸が詰まりました」
今年5月には、BBCプロムスでともに聴衆を熱狂させた指揮者ドミンゴ・インドヤン、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団との日本公演を行う。
「素晴らしいアンサンブル力をもった楽団で、何度も共演しています。お互いわかりあえる安心感があるので、リラックスした演奏ができそうです。BBCプロムスでの大感動を、再び日本のお客さまにお届けできるよう頑張ります」
この公演ではBBCプロムス同様、ラフマニノフのピアノ協奏曲2番と3番を弾く予定だ。
「ラフマニノフの楽曲は壮大でロマンチックで大好きです。ただ自身が優秀なピアニストだったこともあり、技術的に難しい曲が多いです。とくにピアノ協奏曲3番は難曲なうえ、演奏に45分ほどかかるので、体力と集中力が必要です。それだけに、完璧に弾き切った時の達成感や喜びは大きなものがありますね」
秋にはヨーロッパを代表する名門オーケストラ、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団との日本での共演も予定。ここではベートーベンのピアノ協奏曲を弾く。
「晩年、耳が聞こえなくなった苦境のなか、あれだけ素晴らしい作品を書いたベートーベンのことは心から尊敬しています。前期・中期・後期と、ピアノ曲がどんどん進化していくところも素晴らしいですね。いずれはピアノソナタ全曲演奏会に挑戦したいと思っています」
7千人が熱狂した「BBCプロムス」公演
ピアノの世界は生涯勉強が続く
もの心ついた頃にはピアノを弾いていたという辻井さんの原点はショパン。その後、モーツァルトやベートーベンなどの古典派、ドビュッシーやラヴェルなどのフランス印象派、ロシアの作曲家へと興味・関心やレパートリーを広げていった。
「20代、30代と年を重ね、様々なことを経験するなかで、表現力も深まってきたと感じています。でも何度も繰り返し弾いた曲も、さらにいくらでも深く演奏は追求できますし、新たな発見があります。まだ手がけていないピアノ曲も膨大にあります。だからピアノの世界は、生涯勉強が続くと感じています」
辻井さんは自身が演奏するだけではなく、幅広い層にクラシック音楽やピアノの魅力を伝える活動にも力を入れている。その一貫として、富士山河口湖ピアノフェスティバルなどの音楽祭、小学校での音楽教室などにも取り組んでいる。
「国内外で演奏活動を続けるなか、音楽を楽しむ心に、国境や世代の違いはないとつくづく感じます。これからもピアニストとして成長しながら、世界中の幅広い人にクラシック音楽の魅力を伝えていきたいと思っています」
画像 Chopin Avex Classics
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