まにまに 西加奈子
西加奈子さんがめちゃくちゃ好きだ。
「サラバ!」を読んだ時の感動は一生忘れないし、あれを超える本は私にはもう現れないとまで思ってる。
そんな作家さんのエッセイなんて、元気の出る源でしかない。エッセイほど人の中身を覗けて、生き方を、毎日の生活を真似できるものはない。
私はいつも映画と本から、「この世界で起こる出来事は、ここに生きる人達は、決して一つの目線からは語り尽くせなくて、もっと複雑でぐちゃぐちゃしてる」と思わされる。そして、西加奈子さんはそこでいつも、「どんな『私』も『私』やねんから、『私』が『私』と思う『私』が『私』やねん」ということを教えてくれる。
心の水面に、黒い斑点のようなものが、ポツポツと垂れてきては、時間をかけて薄れ、やがて消える。でもそれら一つひとつは、完全に消えることはなく、消えたと思った瞬間にまた上から同じ位置を目掛けてポツリと落ちてくる。そんな斑点を心の中にいくつも持っている。
でもそれでも、毎日が楽しいから不思議だと思う。周りにいてくれる人は好きだし、ご飯は美味しいし、今日も野球を応援するし、好きなお笑いを観てゲラゲラ笑う、ものすごく平和に生きていると思う。
別にパラレルワールドではなくて、楽しい平和な私と、黒い斑点が、いつも共存してここにある。そしていつも、心に落ちてくるそれを気にしないようにしながら、消したふりをしながら、結局また落ちてくるそれに、ほとんどどうしようもなく途方に暮れながら、それでも毎日を一応前向きに歩いている。
でもそんな私も、どうしようもなく私自身なのだと思う。うまく説明できないけど、幸せな私も、何が1番幸せかわからない私も、うっとりする私も、かと思えばもがき苦しむ私も、どうしたって私なのだからもうしょうがないのだと思う。
どんな感情も、どんな今も、この私と一緒にくらいついていくしかない。
音楽は生きることだし、言葉は人間が得た最も最強な武器であるということ。
「この世界を生きていくのは辛いから」「上手く現実から目を逸らしていかないと、潰れてしまう」はもう分かったから、みんながみんなそう唱える世の中はやっぱり寂しいと言いたい。
だからこそ人を救う音楽が、言葉が、物語があることに少しは寄りかかっていたい。
このクソみたいな世界に存在してくれてありがとうと言いたい。