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筆ペンから生まれたオーダースーツ
株式会社ワールド、株式会社フクフクプラス、専門学校桑沢デザイン研究所、渋谷区、そして渋谷区内の障がい者支援施設と共に取り組んだカスタムセットアップのスーツが誕生した。「シブヤフォント」という障がいのある人の絵や文字を、デザインを学ぶ学生がフォントやパターンにするパブリックデータを使ったスーツだ。
顧客が裏地を自由に選べるというものだが、シブヤフォントのパターンから7種類が選ばれた。
先日の「超福祉展」では、カスタムスーツに採用されたパターンの原画を鑑賞しながら、その物語を辿るというオンラインイベントを行った。
原画からのインスピレーション
当社のオンラインサービス「アートでおしゃべり」をカスタマイズしてご提供したのだが、特に下写真のアートについて深掘りをしていった。
一通り、参加者から、この原画に対する感想を伺ったのち、この原画を元にパターン制作した桑沢デザイン研究所の学生からコメントをもらった。
「原画を制作した中村さんは、今までの作例からパターンを描くことを得意としていると感じました。そこで、渋谷らしいモチーフを探した結果、ビルを描いていただくことにしました。」
「これまで細いペンやカラーマーカーなどを使われていたのですが、モチーフの写真を見て “筆ペンで描きたくなった" とおっしゃったと思います。早くさっさと描くのではなく、一筆一筆ゆっくりと丁寧に描かれていました。」
「その原画を見るうちに、無機質なビルが有機的な木のように見えました。まるでジャングルでビルがニョキニョキ生えてきているように。渋谷は雑多なところも魅力です。そして、渋谷はいろんなビルが同時多発的に生まれている印象があります。そこで、街全体を木の根っこのように見立て、そこからお互いに絡み合ってビルが育っているようなイメージでパターンをまとめました。」
どうだろう、確かにビルがニョキニョキ生えてきているようにも見える。
常にビルの開発が進んでいる渋谷らしいパターンが出来上がった。そして、このパターンが生まれるプロセスにおいて、デザインを学ぶ学生の役割にも特筆すべきものがある。
障がいのあるアーティストの特性を見極め、”渋谷らしさ”を表出するのに相応しいきっかけ(ビルの写真)を提示し、出来上がったアートワークの有機的な印象(筆ペンによる筆跡)から、ジャングルというコンセプトを抽出した。アーティストとデザイナーが、互いに刺激を受け合い、高め合っていくコラボレーションが成立している。
私自身、デザイン専門学校で教える立場として、これこそデザイン教育の現場で足りていないことであろうと痛感する。そして、これこそ、実際のデザイン現場で必要な共創関係ではないか。
学生にとってシブヤフォントは、単なるボランティアではない。プロとして育っていくための、とても必要な要素が詰まったアクティブラーニングの機会を提供していると自負している。
作品名は「growing」(意:成長)と名付けられた。
デザイナーは福田 稜子(桑沢デザイン研究所)、アーティストは中村 如雄(ワークセンターひかわ)である。
そして、とても多くの企業に評価され、まさしく大きく成長することとなった。
筆ペンから、オーダースーツが生まれる。
そういう奇跡が生まれるのが、シブヤフォントの魅力であり、大いなる可能性だと思う。