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keiunji
恋をしていた
それは約束じゃなかったけど、きっと約束だった。
毎朝、一緒に登校すること。
わたしはあなたが好きだったから、朝いちばんにあなたに会えることをすごくすごく楽しみにしていた。けれど、必ず会おうとすることは照れくさいような、そしてもどかしいような気持ちになったから、時間どおりに行くとは言えなかった。
「行けたら、行くね」
そう、答えるしかなかった。
いつものように自転車を慌ただしく漕ぎそうになる、早く会いたいと急く想いを押さえて。空回りしそうになる心をなだめすかして、自転車のペダルを踏む。
待ち合わせ場所にいなくても、きっとこの時間なら、あなたはゆっくりとあの道を歩いているはず。
赤信号。停車。遠くに見える背中。揺れるポニーテール。行き交う車たち。再度停車している。
青信号。車が来ないうちに渡る。耳の横をびゅうびゅうと風が通り抜けていく。彼女の鞄が大きくなる。彼女の革靴の色、靴下。きれいに見える。
私はスピードを落とした自転車からとび降りて、急ぎ足で自転車を引きながら彼女を追う。
「おはよう!」
息を弾ませながら、隣に並ぶ。
「おはよ」
ようやくあなたはこちらを見た。
私ばかりが、恋をしていた。
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