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大根とアニメと1日の終わり

夕方のアニメがテレビに流れる時間
夕飯の支度をはじめる。
換気扇をつけるとアニメを見ている子供たちは音量をあげる。
子供たちにとっては、休日の一日が終わる前のリラックスタイム。
ゴロゴロと寝転んで”ドラえもん”を見ている。

今晩のメニューは焼き魚にした。
ホッケや鰯、秋刀魚には必ず大根おろしを付け合わせる。
大根を擦る。
最近のおろし器は歯が鋭い。よく擦れる。もう少し錆びた感じでも良いのだが‥。たまに手を切ってしまうことがあった。

アニメを見ている子供に
「大根擦ってくれ」
と頼んでも一向に作業は進まない。大根がテーブルに置いたままになっている。

しょうがなく大根を擦る。
擦りながらアニメに夢中になる子供たちの後姿を見る。

”そういえばこんな時間あったな。”

自分が子供の頃を思い出す。

炬燵に暖まり
ゴロゴロしながら兄弟とアニメを見る。
休日の日中は外で遊んでぐったりだ。夕方には疲れ切ってゴロつくのだ。
暗くなる時間。
それが今のようなアニメの時間になる。
一度ゴロつくともう、動けない。
母親の晩御飯の支度する音が何となく耳から入ってくる。

母親が言う。
「ねー。大根おろし擦ってくれない?ここに置いとくね」
僕らは返事もしないで、そのままアニメを見ていると母親は決まって、僕の目の前に太い大根とおろし器を強調して置きなおす。
「やっといて!」

僕はその大根おろしがめんどくさかった。
起き上がりたくもない。
それでも炬燵の天板上で言われるままに、やった。
ガシガシとやった。
炬燵が左右に揺れる
大根の飛沫が炬燵から顔を出す姉にかかる、
「つめたいよー」
嫌味を言われる。
アニメを見ながらやるもんだから、たまに擦り終えた部分を器からはみ出してるのに気づかない時もあった。
慣れるとコツを知る。
大根の余った部分を出来るだけ最後まで擦り切るのがコツだ。
小指と親指で掴むと効率良い。

母親はどこで、それを見ていたのか僕が擦り上げたタイミングで、すぐにそれを取り上げ台所へ持っていった。
「今日の大根は辛いかもね」と言う。
いつも”辛い”と言う。
母は辛い大根おろしが好きなようだった。

そして今、
大根を擦りながら過去の思い出を思い出す。
僕は母親に大根を擦れ、と言われ大根を擦っていた。それはよくあった夕方の時間。アニメの時間。

窓の外は暗くなり寂しい時間になっていた。
一日の始まりは躍動に溢れ
終わりは感傷的になる
それが一日のサイクルだ。

何ともいえない寂しい時間と大根おろし。
僕のその時間の記憶はアニメを見た記憶よりも大根を擦る記憶の方が頭の中に残っている。

ガシガシ
大根を擦る。
ガシガシ
あの頃大根を擦っていた子供は
今は上手に大根を擦っている。



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