太陽と水死体
イメソン
『水死体にもどらないで』
突然現れたセイレーンは悲しいぐらいよく知っている顔をしていた。こんなのは呪いだ。
目の前から太陽が暗闇に沈むのを見てしまった。そう、確実に見たのだ。
確実に、僕の目の前で、青い闇に包まれていった。救えなかったのだ。手を伸ばし掴もうとした。しかしその先には何も無かった。太陽がとても身近にあったから失明をしていたと言い訳ができない。出来ないほどハッキリと闇に沈む太陽の姿を覚えている。
しかし、なぜ、目の前にその太陽に似たセイレーンがいるのだろうか。
朝起きたらそこにいた。なぜなのか分からない。微笑んでいる。
こんなのは呪いだ。何も言わずにただこちらを見ている姿は本当に誰よりもよく知っている顔だ。忘れられない。太陽の姿をしていた。
おかしい。
動かなくなる時を見たというのに。動いていない姿を見て。一酸化炭素中毒になりかけたと言うのに。
何故そこにいるのか分からなかった。
「えっと…その、どこから…来たんですか…?」
問いかけても返事が来ず、ただそこに居座って微笑んでいるだけだった。
太陽である"彼"に置いていかれたが、迎えに来てくれたのか?と思った。だが、そういう訳では無さそうだ。
何度も目をこすっても間違いなく彼だ。
全部、全部、全部、忘れられたら、良かったというのに、セイレーンは離してくれないみたいだ。
没後も俺に影響を残す太陽は厄介だ。
ずっとずっとそうやって残っていくのだ。2人で撮った写真は紙になって濡れて消えるように記憶の中からも消えれば話は早かったというのに。
たしかに、本当はずっと一緒にいたかったんだ。最後まで一緒に、終わりを一緒に見たかった。
こっちを見るな。こんなのは呪いなんだ。
こんな幻をずっと見させてくれ。呪いであることが救いなんだ。ああ、頼む。
泡にならないで、泡になって消えて、また、消えて沈むのは、見たくない。
そう願っても
太陽は泡になって消えた。
「っていう夢をね、見たんだよね」
「キショー!」