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ラストパイ大阪公演




"極限まで追い込まれたその先には、
ダンサーではなく1つの生命体としての
姿が露わになる"


その言葉の意味を、本質を、
まさかこんなに魅せられるなんて。



2023年3月14日~17日
大阪・森ノ宮ピロティホール


『黒田育世再演譚 vol.2』
「波と暮らして」「ラストパイ」



3月14日


初日、1幕の「波と暮らして」で
穏やかながらも切なく、
生々しい世界観に触れ

今まで自分が見聞きした事の無い体験を
消化する間もなく2幕開演とのアナウンスが鳴った。



20:25
休憩が終わると共にゆっくりと会場の灯りが落とされる。

非常灯も何もかもが落とされて真っ暗。
むしろ、真っ黒な状態に目が慣れないまま、
しんとした空間に突然響くリズム。

ぼんやりと人影を感じるところから響く、
ギターの音色


そして、下手側ステージにゆっくり現れた影が
前触れなく踊り始める。

足音と、空を切る音が響きながらも
照明はつかないまま、
輪郭が掴めないその影を見つめていた。


一瞬、白く光った瞬間照らされたその姿は
紛れもなく"織山尚大"。
けれど、"織山尚大"では無かった。


それなら、何?


そんな疑問が浮かんでも、考える間もなく


段々と明度が上がっていくステージで
繰り広げられているのは

あまりにも異質で
けれどどこまでも現実的な
ひとつの、生命体が織り成す表現で。



何かに憑かれたように舞う織山尚大の姿は狂気。



正直、かなり衝撃的だった。


絶えず動いては高く跳び、
空気を撫でるようにしなやかに手を広げ、
高く脚を上げては舞台を踏み鳴らす。


ふと脱力するかのように
ステージに倒れ込んでは
歯を食いしばって立ち上がり。


自我を保とうとするかのように頻りに
自分の体を叩く、その度に響く音が
正直悲痛で、見ていられなかった。



でも、

涙と汗でぐちゃぐちゃになりながら
呼吸が乱れながらも
力強く踊り続けるその姿が


どうしても、どうしても美しくて、


目が離せなくて。



台詞のない舞台



踊りと、音楽のみで絶え間なく
繰り出される表現を、


あまりにも純粋で生々しくて、
邪気のないその表現を、


具体的に表す言葉を私はまだ知らない。



長くも、一瞬にも感じた40分。


1人で立つことすらままならないほど、
肉体も、精神も削って
織山くんが挑んだこの作品。



彼がこのラストパイを演じるのは

紛れもなくきっと"今"だったんだと思う。


少し早くても、遅くても、
あの表現は出来なかったのではないかと
個人的に思っている。



こどもと大人の狭間にある
たった19歳の少年が
自分の身体がどうなってもいいとまで言いながら
限界を突き詰める姿


そんなのを見せられたら、
どうしたって心が打たれるよ。

生きようって、生きなきゃって思うよ。


大袈裟に聞こえるかもしれない。

けれどそれほどの力が、

生命力が、

織山くんが演じたラストパイにはあったんだ。



東京公演の千秋楽までに
さらに磨かれるのだろうと思うと、
また少し、手が震えてしまうけれど。




大阪公演、お疲れ様でした。

東京公演もどうか、

どうか、怪我なく駆け抜けられますように。

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