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妻 vol.1 -弁慶妻-

弁慶と言われると、何を想像するだろうか。
私は「白い頭巾」を想像する。
あの「白い頭巾」が、弁慶の堂々たる仁王立ち、雄であることの存在をより象徴してる気がしている。

とある夜。
消灯の時間になると、
妻が「ない!ない!」と急に騒ぎ立てた。

妻は毎夜、穴の空いた古びた可愛らしいタオルを寝室に持ち込む。
妻曰く「それがないと寝れない」となるもんだから、私は「あゝまたか」と目を細めた。
せっかくベッドメイクした寝床を乱暴に払いのける妻に清々しさを感じつつ、無事にタオルを見つける。

妻はいつも、タオルを丁寧に四つ折りにし、顎と頬がちょうど当たるその位置にセットしたり、時には鼻まで覆いスヤスヤと寝ていくのだが、その夜は違った。

直前まで温めていた部屋を一気に冷ましてしまうような寒い夜、見つけたタオルを丁寧に四つ折りに…ではなく器用に頭を覆い、目を覆い、口を覆い、鼻だけ出た状態で寝ようとしたのだ。
まさにその姿は弁慶の「白頭巾」を彷彿とし、戦さに駆り出す気迫さえ感じた。

寝る=休むのでは無く、動→静に脳内スイッチを切り替えただけで、隣に寝そべる獣がいつ何時襲って来てもいいように状態を整えたのだ。

今日は静かに寝よう。私は自戒した。

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