映画「グリマーマン」
スティーヴン・セガール。
俺の大好きな俳優の1人だ。
80年代後半から俳優として活動を始めた、2m近い巨大な体躯に強面が特徴の男である。
'19年の作品「沈黙の鉄槌」で俳優業を引退してしまったが、合気道7段の腕前と強引すぎる主人公補正をベースにしたセガール拳を生かし「どこからどう見ても強そうな男に喧嘩を売ったらやっぱり強かった」みたいな映画をストイックに世に送り出し続けていた。
流行の波に乗れない中学生だった俺はひたすら当時のトレンドに逆らい続け、セガール主演作をざっと20本ほど観た。
確かに、手放しに褒められる作品は決して多くないし鑑賞中に寝落ちすることも正直あった。
ある時期から作品の多くがアメリカ本国では劇場公開されずにビデオスルーだったという事実からも、高い評価は受けていなかったことが伺える。
だが、ムカつく野郎を手加減せず半殺しにする(場合によっては殺す)セガール先生の姿を見ると「なんか、いい映画観たかも」という気分にさせられてしまう。
セガールは日本で武道を学び、大阪で自らの合気道場を開いた実力者だ(合気道のみならず空手や剣道、柔道でも高段位を持っている)。
武道の達人だし人格者なんだろうなぁと思っていたらセクハラ疑惑が浮上するわ、「スタローンが嫌いだからエクスペンダブルズには出たくない」と発言するわ、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった際プーチンを褒め称えるコメントを残すわで心底がっかりさせられたのも記憶に新しいが。
とはいえ、セガールが映画を通じて俺の中学時代を彩ってくれたのは確かな事実。
彼の映画の中でも面白い作品は記事を書くなり人に勧めるなりして恩を返すのが人の道ではなかろうか。
セガール映画は数多く存在するので俺も「初心者におすすめのセガール映画はどれだろう…」と日頃よく考えているのだ。風呂に浸かってるときとか、便器に腰掛けているときとか。
そんなわけで今回は、セガール映画の中でも特にセガール節が強い作品「グリマーマン」を紹介します(若干ネタバレあり)。
セガール映画≒沈黙シリーズと認知されているくらい彼の作品の邦題は「沈黙の〜」とつけられることが多いが、グリマーマンは数少ない例外。
〜以下「グリマーマン」のあらすじ〜
ロサンゼルスにて、カトリック教徒の家庭を磔にして殺すという連続猟奇殺人が発生。
ニューヨーク市警から転勤してきたジャック・コール刑事(演:セガール)はファミリーマンと呼ばれる殺人犯を検挙するべくジム・キャンベル刑事(演:ウェイアンズ)とタッグを結成。
捜査を進める中、別れた元妻までもが磔にされて殺害されたことに衝撃を受けるコールだったが、これがファミリーマンの犯行でないことに気づく。
果たして元妻を殺害した真犯人は誰なのか、その目的とは……。
と、あらすじをざっくり書いてみたが、連続殺人に紛れて行われる犯行やら裏に隠された陰謀やらのストーリーはハッキリ言ってホントにどうでもいい。
とにかくセガール先生の傍若無人な暴れっぷりを収めたパニック映画として鑑賞するのが適していると俺は思う。
刃物を仕込んだクレカというトンデモ小道具を使ったバトルや、教会の中で「ここは神の家だ、俺に拳銃を使わせるな!」と言いながら躊躇なく相手の心臓を撃ち抜くセガールをぜひ見届けてほしい。
特にレストランでの戦闘シーンには、セガールのやんちゃっぷりが凝縮されている。
ある上院議員を訪ねるためにclosedと表示されたレストランに強引に入り何も悪くない店員を張り手で失神させ、攻撃されたわけでもないのに上院議員のボディガードを全員しばき倒す。
ボディガードを殴る前に炸裂するセガールジョークも必見だ。
ひと暴れするついでに店の窓やテーブルも破壊しまくり、レストランにかかってきた電話に勝手に出て「この店はしばらく閉店です。改装するんですよ」と爽やかな笑顔で電話対応する始末。
また、その一部始終を見届けた上院議員が「セガール君いつも通り元気そうやね」みたいな悠長な顔をしているのが何とも味わい深い。
部下がボコボコにされてんだから止めに入ってやれよと観るたびに思う。
ラスボス戦ではセガールが元妻を殺害した実行犯とタイマンで勝負するのだが、セガールがマジで強すぎて良い意味で緊張感が全くない。
むしろ犯人が可哀想でハラハラさせられるくらいだ。
大抵の刑事映画では犯人に苦戦しながらも最後には機転を効かせたりラッキーパンチで刑事が勝つのが定石だが、セガールは違う。
涼しい顔で攻撃を捌き、その合間に重い打撃を容赦なく食らわす。
笑っちゃうくらいの強さを誇るセガールが、横綱相撲で相手をボコボコにしてしまう。
特に、わざと自分の顔を殴らせ「お前のパンチはその程度か。ならお前は死ぬしかない」と言い放つセガールを見ると、どっちを応援すればいいのか分からなくなる。
気の毒なくらい一方的に犯人をコテンパンにした挙げ句、2階から放り投げ串刺しにして殺すという警察としてはアウトだが映画としては120点な決着のつけ方も必見だ。
そして今作の見どころはセガールの暴力だけではない。
セガール映画にしては珍しく、相棒が魅力的なキャラクターでいい味を出しているのだ。
相棒のキャンベル刑事はタフな男をアピールしてはいるものの、セガールに勧められた漢方薬を素直に買って飲んだり、中華街のオバチャンに勧められた恋愛映画を観て涙したりというツンデレっぷりを発揮。
今作のヒロインみたいなポジションである。
脚本の上で必要なのかはさておき、キャンベル刑事の良い人そうムーブを観れば確実に「いい映画だったな…」という気分になれる。
本作はわざわざ映画館で観るべき超大作ではないかもしれないが、土日の昼過ぎとかに家でゴロゴロしながら観るのにもってこいの作品だ。
みんなも、中学生の頃の俺のように暇な時間にセガール映画を20本くらい観てくれ。
そしてこう思ってほしい。
「ムダな時間だったなぁ……!」と。