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金城一紀『友が、消えた』読了後に噴射した感情の殴り書き

こんばんは。26です。
楽しみにしていた念願の読書週間、初日で1冊読み切ったので垂れ流される昂奮をここに叩きつけてから寝ます。
ちゃんとした作品の感想や評価(レビュー)をするものではありません。ひたすらわーとかきゃーとか言っているだけです。

1月19日、外出の帰り、乗り換え待ちの赤羽駅ecuteの書店で偶然見つけた。

13年ぶりの新刊。
帯に書かれた謳い文句に、恥じることなく齧りついた。
金城一紀さんだ。
金城一紀さんだ。
金城一紀さんだ!!!!
忘れない、若くて幼くて不確かに尖っていた当時、彼の作品は私にとって〝理解してくれる大人〟だった。
窪塚洋介さん主演の『GO』という映画を観た。友人の家で見せてもらったのか、VHSにダビングしてもらったのを家で見たのか、もう憶えていない。背中の長いブラウン管の、緩やかな凸状に膨らんだほとんど正方形の小さな画面で、ひとりで何度も見返した。好きなシーン、艶めかしい場面、一番最後の拳を突き出すところ。
再生しなくても瞼の奥に映像が浮かぶようになるまで見て、それから、解剖欲求が芽生え、『GO』原作を続けて読んだ。それが始まりだったと思う。

私に読書を教えたプリンさんも、映画は原作を読みたくなる種類の人間だった。彼女がもっとも力を入れて読んだのは『風と共に去りぬ』、当時高校生だったプリンさんは試験勉強そっちのけでそれを貪るように読み、見事に成績を落っことし、祖母から大目玉を食らった話を何度もしていた。
その話を聞きながら、私も同じ種類の人間になるんだなと思った。映画や芝居は原作を読みたくなるのもまあそうなのだけど、試験の成績を落っことす方について、特に。

金城一紀作品との13年ぶりどころではない再会に、私は素直に高揚した。期待値はあまりに過剰で心配するほどだった。直近のタスクを片づけて、いちばんの褒美を釣り糸に縛って走っていた私は、今日、それに舌を伸ばすことを許した。
2月3日月曜日。乗車した通勤電車はいつもより二本早かった。大事に大事にあたためていた『友が、消えた』を読み始めた。

はじめの17ページ、呼んでいる途中で、鼻が熱くなり手がぶるぶる震えた。我慢していなければきっとマスクの中で泣いていた。話に感動するにはまだ早かったけれど、この作品に接地しているところがあると思うだけで泣けた。
幸せ者だなと正直に思った、華美な装飾ではなく、朝の正直な感情で。
『ハンチバック』の時はもっと、むちゃくちゃに嫉妬して、今、この作品を中学高校の時点で出会い、吸収できる無垢な世代のことが羨ましかった。当然に大人になる前の過程でここを通過できるというだけで、彼ら世代が私と別の生き物に思えた。
今回は、また別の感じ。情報の飽食時代といえる今のたくさんの選択肢の中にこの小説がある。貴方の手の届くところに置くから、見つけたら開いてみて。そう言って差し出して、仲間を作りたくなる。私が遥か昔に通過したこの瞬間を、これから迎えるひとの手に乗せ置いてにっこり微笑しながら渡したくなる。

せりふの多い、軽快な文。そこに薄い安っぽさが出ない、的確な重さの語彙。魅力的な登場人物、そうだ、アクションがぴかぴか光る文だった。昔と同じ感動を思い出す。いい意味で描かれたひとがみんな尖っている。物語の進行は現実離れしたドラマチックで満ちているのに、不敵に笑う説得力がある。

通勤電車、昼休み、乗り換え中の構内、ホームに降りてからの下り階段、ところかまわず活字を終える時間をぜんぶ費やした。最寄り駅で下車してから、やや暗い線路わきの歩道で帰る時、街灯が影になって読めなくなるのが嫌で、スマホのライトでページを照らしながら帰った。
最後まで読んで安心したかった。それが何なのかわからないけど、仲間に入れてもらいたかった。考察の余地なく答えはひとつの筋書きなのに、いかようにでも解釈できるせりふひとつひとつのことをずっと考えていたかった。

最後のページをめくって、二行だけの短い文を読んで、終わってしまった、まだいかないで、って無性に縋りたくなった。

きっとしばらく思考はふわふわしたままで、そうだあの場面のあれは何だったかな、と時折スポットで読み返して、ぱらぱらページをめくるだけとか、表紙の素敵な絵を眺めるだけとか、私が満足するまでかけら拾いは何度か行われるだろう。そうやって、語彙も記憶しないまま、知らない間に読後の空気だけがなんとなく自分の体の中にすうっと吸収される。そうすれば自分のうちがわに入っていって読書という行為が終わるのだろうと思う。

それでも、あまりに強烈で忘れられないものはある。
今回の主人公は会話の外側でひどく饒舌だった。感情を押し殺す場面も多かったけれど、重要な局面に対峙した時の、まっすぐ書かれた折々の本音は素晴らしかった。

背筋に電流のようなものが駆け抜け、全身が小さく震えた。やばい。楽しい。

金城一紀『友が、消えた』

強くて柔らかい言葉が眩しい。いつまでも追いかけていられる。

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