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【一次創作】弐拾肆。忘れられないのならば語ろう【#ガーデン・ドール】

それもまた、選択なのか。

これもまた、選択なのだ。


B.M.1424 11/15 夜

其のドールは空を見ていた。
其のドールは夜空を見ていた。
其のドールは夜空に流れる星を、見ていた。

ビーチキャンプ、というイベントへ其のドール・ジオは他のドールたち同様に参加をしていた。
イベント開始早々に箱庭には他の星なる場所からの飛来物は来るわ、マギアビーストは来るわと何かと騒がしい始まりだった。

しかし、後半に差し掛かるであろう今夜はとても静かで。
今度はどんなドールたちの感情変化ドラマが視られるだろうかと参加したのだが……少しばかり期待しすぎただろうか。

浜辺にはぽつぽつとドールたちが立てたテントが並んでいる。 

そんな中、ゼロとは言わないまでも外に出ているドールは少ない。
しかし少ないドールの中にも其のドールのように、空を見上げる者はいる様子だった。

もう彼のことすら知らないドールもいる。
そんな中で、彼への手がかりとなる流れ星を見上げるドールもいる。
それを視て其のドールの口元が自然と緩やかに上がったのは……認めざるを得ないだろう。

"好きな空を一緒に見てくれ"

先にも述べた飛来物とともに来訪した者にそんなことを言われたのだが、この夜空は1人で静かに眺めていたかった。
広義の意味で好みの空である夜空は一緒に見上げたのだから恐らく許される、とは思う。
興味深い知識も得ることができた。

このままでも、充分得られるものは多い。
わざわざ一等大切なものを、美しいと感じるものを作る必要があるのか?
ただでさえ、ずっとついて回る"何かが欠けている"というこの感覚が増えるようなことをする必要はあるのか?

このまま得られるものがあるのであれば、その必要はないのだ。

……。

そんなことを話したい相手は、もう手が届かないところにいる。

これだけではない。
今から1か月経つか経たないか……少し前に起きた、自らの違和感だとか。
今行っている実験相手の様子だとか。

存外、ちょうどよい出力先だったのだなあ、と今更ながらに思う。

何度も。
何度も振り切ろうとした。
忘れようとした。
縋ってはいけないと。
もういない相手を想うようなことをするのはやめようと。

それでも、この空を見るたびに。
流れる星を見るたびに引きずり戻される。

「……しつこいな、貴方は」

振り切れないならば、引きずっていこうか。
想いを継ぐなんてことはさらさらする気はないけれど。
あれの綺麗事エゴを理解する気も受け入れる気もないけれど。

そんなものがいた、と伝えていく語り部にくらいはなれるだろう。
あれがどんなものだったかという真実ではなく、あれが存在した軌跡の語り部に。

……自ら語る気も、ないのだけれど。

より一層強い光が流れて、その日の流星は止んだ。

それでも其のドールは、自分・・は、朝まで空を眺めている。
星が流れるその夜はいつもそうだ。





翌日。
睡眠不足を補うため海から寮へと戻った其のドールに尋ね人がやって来たのは、別途報告とさせてもらう。

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