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【一次創作】彷徨い歩く、壺の中【#ガーデン・ドール】

「ここ、は……?」

俺は先ほどまでガーデン内のとあるドールの部屋にいたはずだ。
壺の形をした不思議な道具、マギアレリックを見つけて、それを覗き込んだら吸い込まれて……。

ここは、どこだろうか?
今まで見たことがない場所だ。
仮想戦闘で飛ばされるような空間とも違う。

岩と土に覆われて……そう、冒険譚を綴った物語に出てくる”洞窟”と呼ばれる場所とでもいうのだろうか。

「__おい、お前」

俺が辺りを見回していると、どこからともなく声が聞こえてくる。
声の主を探すためにさらに見回してみるが、どうにも他にドールのような人影は見当たらない。

「???」
「どこ見とんねん。節穴か? こっちやこっち」

どことなく、とあるドールを思わせる口調でその声は語り掛けてくる。
そのドールとするには、少々荒っぽい物言いであるようにも思うのだが。

「……?」
「よぉ」
「うわぁ!?」

さらに辺りをきょろきょろと見回していると、いきなり青くて羽の生えた……なんだこれ。
小さな不思議な生き物?が目の前に現れた。

「お前が今回の猫か?」
「ねこ?」
「せや」

猫っぽいだとか、そんな風に言われたことも今までないのだが。
いったい何の話だろうか。

「俺はドールだけど……?」
「んなもん見たらわかるがな。ジョブの話や」
「じょ、じょぶ?」
「なんや自分、ジョブも知らんのか? ほんましゃーないやっちゃな……」

首を傾げるのと同時に、俺の視界の端で何かが揺れる。
ひょろりと、ふわりと、何かが揺れる。

「な、なんだこれ!?」
「尻尾やろな」
「誰の!?」
「自分のに決まっとるやろ、見たらわかるがな」
「はぁ!?」

よく見ると、手もおかしいし服も違う。
持ち込んだ荷物に加えて、いつの間にか剣まで持っている。
猫の手のようなものが柄についている剣のようだ。
……これらも全部、壺型レリックの効果、ということ?

「ええか? 外から入ってきたやつには、毎回勝手にジョブっちゅーんが割り振られる。んで、お前は今回猫ってわけや」
「は、はあ……」

そんな話を聞きながらこっそり反射魔法でも使って自分の姿を確認しようと試みるが、何故か使うことができない。
魔法の使用まで、制限されているのだろうか。

「自分、何も知らんとここ来たんか? か~……こらすぐいってまうなぁ」
「俺はイヌイさんを探しに来ただけでこの場所の詳しいことなんて何も聞いてなくてだねえ!」
「……は?」

そう、俺はイヌイを探しにここまで来たのだ。
自身のツノを残して消えてしまったイヌイを、探しに。
不思議生物に言葉を返した後、鞄に入りきらずはみ出てしまっている大きなツノをそっと撫でる。

「ほんまに何も知らんのか?」
「知らないよ、壺のレリックでここに来たってこと以外」
「は~~~~……何? 自分死にに来たんけ?」

死?
命の危険があるような場所でもある、と……?

「ま、何がどこで死んでもわいには知ったこっちゃないわ」

やはり、この不思議生物の話す口調だけは、イヌイに近いものを感じる。
しかし態度から何から、この生き物が実はイヌイでした、という気配は今のところ感じない。

「進むねやったら案内したる。一応そういう役割やしな」
「あ、ありが、とう?」
「お、礼くらいは言えるみたいやな。えらいえらい」

なんだろう、この……なんだろう……。
癪に障るっていうのはこういうことなのだろうか。

「今お前は1層に居る。こっから下に降りてって、ボスを倒したらクリアって感じやな」
「くり、あ……イヌイさんは??」

説明を続ける不思議生物に俺は尋ねてみた。

「知らんがなそんなやつ。誰やねん」
「え!?」

イヌイを、知らない?

「俺の前に誰か来ていないかい?」
「誰かって?」
「いやだからイヌイ、さん……」
「やからそんなん知らんて」

態度は気になるものの、嘘を吐いている様子はない。
ここにいる生き物も知らないとなると、本当にどこにいるのだろう?
この中にいるのだけは間違いないはず……なのだが。

「えー……と、とにかく進んで探してみるしかないか……」
「待て。お前ひとりか?」
「え?そうだけど?」
「…………」

何か、問題でもあっただろうか。
俺が手こずったら他のドールが来てくれるかもしれないけれど、今は1人だ。

「ま、精々よぉやったらええわ」
「あ、ああ。ここはそんなに危ないのかい?」
「当たり前やろ。何言うとんねん?」
「当たり前なのか……」

だから、武器となる剣を持たされているのだろうか?

「お前が何さんを探しとるとかは知らんけどやな……ここに来たらやることは1つや」

俺の周りを飛び回りながら、不思議生物は言葉を続ける。

「ええか? ここは魔獣がぎょーさん住み着いとるダンジョンや。お前がやることは、このダンジョンのボスを倒すこと。さっき言うたやろ。わかるな?」
「まじゅう……え、魔獣?角とか羽とかあるあの?」

魔獣、と聞いて俺たちドールが思い浮かべるのは神話の本に出てくる魔獣だろう。

むかしむかし、どーるとよばれるいきものがいなかったころ
さまざまなまほうをつかういきもの
まじゅうがすんでいました

すきとおるはねのはなし
じぶんのうつくしいめのはなし
じまんのつののはなし

省略してはいるが、概ね、そんな風に書かれていたはずだ。

「そんなもんそれぞれやがな」

どうやら、それとはあまり関係がない様子だが。

「そういうものなの、かい……でも、とにかく行くしかないんだろう?」
「せやな。行くねやったらはよ行ったらええわ」
「うん!……で、まずはどっちに?」
「……?」

俺はどこから来たのか分からない。
どっちが前でどっちが後ろなのかさえも。

壺に飲み込まれて、いつの間にかここに立っていたのだから。

「どっちもなんも、行く道は一本やろ」
「あ、ああ……迷子は卒業したはずなんだけどな……」
「しゃ~~~~ないなぁ……地図出したるわ。感謝せぇよ?」
「おっ、ありがとう!」

どういう原理なのかは分からないけれど、不思議生物から地図が出てきた。
この場所を表しているらしいそれに対して、不思議生物は現在俺がいる場所を教えてくれた。

どこからともなく聞こえてくる音楽と共に、俺は行動を開始した。


「お。さっそくやな」
「え!?」

最初の空間から通路を通って別の広い空間についた時、急に不思議生物が声をかける。
すると、奥から一匹のこうもり……こうもり?がキィキィと飛んできた。

「戦闘やな。頑張れよ」
「が、がんばれって……!」

咄嗟に俺が手元の剣を構えると、目の前に【戦闘開始】の文字が広がり消えていく。
それと同時にどこからともなく流れてくる音楽は別のものに切り替わる。
……恐らくレリックから流れてくるものだ、もう何が出ても驚かない。たぶん。きっと。

こうもりのような不思議生物曰く魔獣は、こちらに向かって何から音波のような物を発してくる。
その音で、なんだか頭がぐるぐると”混乱”してしまった。

そんな中でもどうにか俺はこうもり型魔獣を攻撃できてはいたのだが、
時折剣が自分に向かってしまう。

とはいえ、どうにか討伐に成功した。
目の前に【戦闘終了】の文字が広がって消えた。

……驚かないぞ。

「や、やったー!」
「お前もうぼろぼろやないか。そんなんで大丈夫なんか?」

あんなに色々言っていたというのに、心配してくれているのだろうか?

「まるで捨て猫やないかい」

前言撤回。

「そう言われても……そういえば包帯とか持ってきてたんだけど……」
「ただの包帯やなぁ、まあないよりはましか」
「ははは……ただの、なあ……」

バグちゃんの包帯。
瞬時に、というと言い過ぎかもしれないが驚異の回復力を持つ不思議な包帯。
それも今はあまり関係ないらしい。
それでも、先ほどのこうもりからダメージを負った傷口に巻いておくことにする。

「そういえば時計使えば良かった」

時計、というのは俺の相棒ともいえるマギアレリック。
正式名称は【VSヒーロークロック-ラビットムーン】という、懐中時計の形をしたレリックだ。
10秒間周囲の時間を停止する力を持ち、かつ、正確な時間を刻み続けている時計だ。
前者の力を使うと、13時間は同じ力を行使することはできなくなるのだが、何度その力に救われてきたか分からない。

「……あ、れ?」

しかし、その時計の様子がおかしい。
正確に動き続けていた時計の針が、止まっている?

「なんやそれ、壊れとるやん」
「そんなはず……」

時を止めるためのボタンを押してみるが、周囲の時間が止まっている様子はない。
この中ではマギアレリックは効果を発揮しないのだろうか?

「ゴミなんか持ち歩いとるんか、しょうもないやっちゃなぁ」
「違う!これは絶対正確な、はずで……うん?」

止まっているように見えた時計の秒針が、カチッ、と時を刻む。
通常の1秒ではないが、動いてはいるようだ。

「1、2、3、4…………9……あ、大体10秒で動いてる?」

自分の体内時計ゆえに正しさに自信はないが、およそ10秒に1秒分、秒針が進んでいる。
このマギアレリックの特性として、時間停止が強すぎて忘れがちではあるが、【必ず正確に時を刻む】というものも内包しているのだ。
その時計が10秒を1秒だと示している。

それはつまり、ここでの10秒が実際の1秒。
10倍の時が、この場所では流れているということを表していた。

「お、それよりなんか落としとるみたいやで」
「え?」

俺が時計に気を取られていると、不思議生物が声をかけてきた。
先ほどのこうもりが何かを落としていたらしい。

「これは、さっきのやつのかさぶたやな」

……はい?

「ゴミやな」
「いらないんじゃない、かな……それは……」

そんなどうでもいいものは捨て置きつつ、俺は地図と実際の道を見比べる。

「さてと、分かれ道か」
「どないする?迷子の子猫ちゃんさんや」
「ははは……とりあえず、右に行ってみよう」

迷子、と聞いて思わず俺は肩をすくめた。
その後も空っぽの箱があったり、きのこのような魔獣と戦闘したり。

そんな中行き止まりになっている小部屋に俺は到達した。
そこにあったのは箱。
ここまで似たような箱を見つけても中は空っぽばかりだったけれど……。

「お、開けてみ」
「ん、剣?」

先端が少しだけ曲がった猫の尻尾……所謂、かぎしっぽのような剣が入っていた。
今の剣が猫の手のような飾りのついた剣だから、これは”かぎしっぽの剣”といったところだろうか。

「持っていくゆうんやったら今持っとるのは捨てていこなあかんな」
「せっかくなら、交換していこうか」

俺は今まで使っていた剣をその場に刺し、代わりに新たな剣を手にする。

「フフッ似合っとるで」
「そうかい?」

本当にそう思ってるのかなこいつ。

「とにかく、ここにもイヌイさんは居なさそうだ……」
「やからそのいぬいぬいぬいぬゆうのはなんやねん」
「俺の友達」

歩きながら俺がうーん、と唸っていると不思議生物から問いかけられる。
それに対して、俺は即答する。

少しばかり複雑かもしれないけれど、そうとしか言い表せない。
イヌイはどう思っているか分からないが、即答してしまうくらいには俺の中ではとっくに友人だった。

「猫の友達が犬ぅ?」
「犬って言うかあの子はツノ的に鹿……?」

そんなことを言っていると、今度は骨のような魔獣が現れた。

「ま、また魔獣!?」

そんな骨が踊ると、俺の体も釣られて踊ってしまう。
俺自身の意思とは関係なく、だ。

「か、身体がいうことをきかない!?」
「何ふざけとるん?」
「違うって!!」
「ああ、ええねんええねんそういうのは」
「ち・が・う!!」

俺”で”遊ぶ同期たちがこの場にいなくてよかったと、少しだけ思った。

とにかく、目の前の敵をどうにか一撃で。
強い力があれば。
……爪?

「はぁぁああ!!」

俺は変化している猫のような手の爪に力を込める。
魔力のような、似て非なる力を使ったような気がするが、強い一撃を出すことに成功した。
その一撃を受けた骨は、黒いドロドロになって溶け、そして消えていく。

「か、かった!」
「骨も残っとらんな」
「な、なんか力が入ったんだよ」

そんなことを言いながら次の部屋で水の入った小瓶を手に入れたり、
骨(がいこつ、というらしい)やきのこの魔獣と戦ったり、
その戦闘の間隠れていた不思議生物(妖精というらしい)と言い合いをしたり。

「か、った……」
「お前ならやってくれると信じてたで。さすがや」
「分かってきた。絶対嘘だ。」
「はて」

……概ね、こんな感じの。
それでも次の層へ進むための階段を見つけたときには、俺はだいぶくたびれてしまっていた。

「……ちょっと、休んでも、いいかい?」

俺が1日戻らなければ、きっと親友が他のドールにも声をかけてくれる。
……1日、かあ。
声をかけてからすぐに、とも限らない。

「さすがに危ないんとちゃう?」

ここは、外の10倍の時間が流れている。
1日待つだけでも、体感で10日間。
3日で体感、約1カ月。

その間に体力が回復すればいいのだが、如何せんマギアレリック。
何が起こるか分からない。

「まあええか」
「まあ、その時はその時だよ」
「おん!やすみ!」

この後、俺はこの口の悪い妖精と2カ月弱この場所で過ごすことになる。

お腹は空かないが、体力も回復しない。
そんな状態で。

そこからのイヌイ救出までのお話は、別の機会に。

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