【一次創作】秘密を暴きに【#ガーデン・ドール】
B.M.1424 10月18日 夜
板切れから聞いた情報をもとにイヌイの自室へ……行かず、まずは俺自身の部屋へと戻っていた。
ノートを1ページ切り取り、そこに簡潔なメモを書く。
このメモを持って俺は2つ隣の部屋へと向かう。
2人のククツミのうちの片側、からころと笑うククツミがいる部屋へ。
なぜ2人のうちそちらなのか。
わざわざ、より繊細な方のククツミ"ちゃん"に。
理由は単純明快だ。
ちょうど先日、人格が変わったロベルトと出会ったときに思考の交換を行ったのがそちらのククツミだったというだけ。
何か分かったら伝える。
そう、約束をしたから。
そういう意味ではヒマノもそうなのだが、彼は彼で大事なことを抱えているらしい。
ならば、今はそちらに集中してほしいから。
だから今回は、ククツミ"ちゃん"にこのメモを託す。
少しだけ深呼吸して、扉をノックした。
「はい……あら、シャロンさん?」
「こんばんは。すぐ済むんだけど……今大丈夫かい?」
部屋の中に入るまでもない。
メモを託すだけなのだから。
「もちろん大丈夫ですが……急ぎの用ですか?」
「このメモを、きみに託す」
そう言って、俺は目の前のククツミに4つ折りにしただけのメモを渡した。
「……このメモは、今読んでも……?」
「ん?ああ、もちろん」
そう言ってククツミはメモを開く。
最後に足された1文と、記憶にないレリック。
それらだけで、きっとククツミは察してくれる。
何が、起きたのかを。
「それで、レリックですか……」
メモを読んで、ククツミが呟く。
恐らく自身が持つ傘のレリックを思い出していることだろう。
「これは、その……帰る方法、は……?」
「破壊をするのが1つの方法、とは聞いている。でもそれだけじゃない」
ククツミに俺は簡単に説明をする。
「破壊をしてしまったら、マギアビーストが出てしまう。それはきっとイヌイさんが望んでいることじゃない。だったら……それ以外の方法を探しながら、俺はイヌイさんに会いに行く」
「……シャロンさんに、その手立てがあるのであれば……私は、明日まで待ちます」
俺の説明を聞いていたククツミは、少しためらいながら答えてくれた。
「……シャロンさん、が……」
言いかけて、言葉を止める。
その表情を見るだけで心配してくれているのは分かる。
それでも。
いちど目を伏せてから再びこちらに向けられたククツミの目が、一瞬強く、しかし優しく輝いた気がした。
「……いえ、私は。シャロンさんを、信じていますので」
「ありがとう、ククツミちゃん」
信じてくれる。
それだけで、どれだけ心強いか。
「けれど……募集文は私と一緒に、気合を入れて書かせていただきますね?読んだ方が、誰しも参加を希望するほどに」
「ああ、頼んだよ」
ニッと俺は笑って、その場を後にした。
ククツミの部屋を後にしてから、再度俺は自室へ戻った。
置いておいたあの子の大きすぎる落とし物と、いつもの探索セットが入った鞄を持ってイヌイの部屋へと向かった。
「鍵は……」
部屋の扉のノブに手をかける。
ガチャガチャと、虚しく音が鳴り響く。
「あー……開いてない、よなあ……」
ここで扉を蹴破ることもできるが……それはさすがに、な。
ともすれば、俺にできること。
転移奇跡。
消費魔力が大きすぎて滅多に使わないが、指定した座標へ自身や他者を転移させる奇跡。
これを使うのであれば、念のため直前に買ったアレを飲んでおくのがいいだろう。
マキシウム。
飲むと丸一日魔力が尽きなくなるが、眠れなくなって、次の日とてつもない寝不足になるドリンク。
「ま、緊急事態だし。寝れないくらい、な」
この後何が起きるかわからないし、眠れなくなるくらいどうということはない。
それを一気に飲み干した後、容器を鞄にしまってから転移奇跡を使用する。
刹那、ふわりと光が体を包み、次の瞬間には部屋の中にいた。
辺りを軽く見まわしただけでも、部屋の中は酷く散らかっている。
イヌイの部屋は何度か訪れたことがあるが、綺麗に整理されていたはずだ。
ここまで散らかっているのは、やはりイヌイらしくない。
ククツミに託したメモのこともあり、俺は念のため内側から鍵を開ける。
壺……壺……。
それらしいものは、見える範囲にはなさそうだ。
「見えるところにはない、か……」
ベッドの下を念のため覗いてみるが、そこにもそれらしいものは見当たらない。
見えない場所……クローゼットか……?
クローゼットの扉を開ければ、空っぽの空間が広がる。
その中に、1つ見た事のない物が置かれていた。
明らかに異質なそれ。
俺が目的としていたもの。
「あった!これか……!」
俺は軽く深呼吸をしてから、その壺を覗き込んだ。
その瞬間。
「うわぁぁぁ……――」
俺はみるみるうちに壺の中に吸い込まれていく。
「ってて…………ここ、は……?」
――――ポケットの中で俺の相棒だけが、正確に、時を刻み続けていた。
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