【一次創作】三者三様、意気揚々?【#ガーデン・ドール】
さて、PGPと呼ばれる運動会も最終日。
結局俺は最後まで実況に呼ばれた時に声を貸したくらいで、自分自身は競技に参加していなかった。
ガーデンが執り行う行事に懐疑的であることが一番の理由ではある。
しかし、ここまで盛り上がっていると多少なりとも体がうずうずしてきてしまうのも確かである。
「……最後くらい何かやっておくか!」
ともすれば、相手として思いつくのは……。
俺はグラウンドからとある3人に向かって念話魔法を飛ばした。
『ヒマノくんにククツミさんククツミちゃん、グラウンド集合!』
何故呼ばれたやらと言った様子の3人は間もなくしてグラウンドまで来てくれた。
同じクラスコードグリーンのヒマノ、クラスコードイエローのククツミ。
ククツミは現在2人いるが、どちらとも揃って来てくれている。
「ありがとう、来てくれて」
「集合なんて言うから何事かと思いましたよー?」
「てっきりプロテクトがかかる内容かと思ったら……」
「"競技をしよう"、とは……随分と急な話ですね?」
3人とも呆れてはいるようだが、否定はどうやらされないようだ。
「ははは……思いついちゃったから仕方ないよね。きみたちならノってくれるかと思ってさ?」
俺は3人が来るまでに考えていたことを説明する。
「競技内容は、"二人三脚"と"飴食い競争"」
「ん、今から2種類もやる感じ?」
俺の案にふわりと笑うククツミが尋ねる。
その疑問は最もだろう。
「いや?合体させるのさ」
「合体ですかー?二人三脚で飴食い競争まで一緒にやってしまう、と。そういうことですー?」
「そのとーり!」
変則的ではあるが、2つ以上の競技を組み合わせることも可能である。
これは先に板切れへ確認済みだ。
「最終日だしさ、変わったことをしたくてね」
「他の方の競技を実況されていたのは聞きましたけれど……シャロンさんが競技そのものをしている姿は見ていませんでしたね?」
「確かにー?」
からころと笑うククツミの問いに、ヒマノが同調した。
「実はその通りでもあるんだよ。それもあって、せっかくならって」
「ふふ、いいんじゃないかな?」
「ええ、私も構いませんよ」
それぞれ小さく笑いながら同意してくれたククツミ達に対し、ヒマノは小首を傾げていた。
「そうなると、ぼくとシャロンさんがペアで、ククツミさんたちを相手する、とー?」
「そのつもりだったけど?」
「……うーん、勝てますかねー?」
「だからこそ、挑むんじゃないか!」
元は同じドールだったククツミたち。
纏う空気に差はありつつも、根本は同じククツミである。
こと息を合わせる、となれば強敵であることは間違いないのだ。
「……まあ、シャロンさんとペアであれば最悪……ふふ、いいですよー。やりましょうかー」
……ヒマノがこうやって笑っているときは何か良くないことを思いついた時だ。
俺で遊ぶとか。
俺と、ではない。
俺 "で" 遊ぶ。
……。
…………。
俺は考えるのをやめた。
「よし、決まり!」
そもそも言い出したのは俺だし、それで勝てる可能性があるのならこの際それでも構わないだろう。
「じゃあ、詳しいルールなんだけど……」
今回の競技のルールはこうだ。
基本は二人三脚。
スタートからしばらくすると、飴食いゾーンがある。
飴食いとは、四角い容器いっぱいに入れられた白い片栗粉の中に隠された飴玉を口だけで探し出す、というものだ。
飴食いに挑むのは二人三脚のペアのうち、どちらかだけで構わない。
どちらも、は認められない。
どちらがやるか、即断即決が求められる。
飴を探し出せたペアから、また二人三脚でゴールを目指す。
「……って感じ!」
「なるほどー」
「思っていたよりシンプルだね」
「ルールは把握できました。……ふふ、手加減はしませんよ、お二方?」
「もちろんそのつもりさ!」
「ヒマノくんも大丈夫?」
「ええ、全力でやりましょー」
こうして、俺たちは板切れへ競技をすることとスタートの合図を依頼する。
徒競走等でも使われるコースの中間地点に、飴食い用の台が置かれた。
スタートラインに立ち、各クラスコードと同じ色をしたハチマキでペアの足と自分の足を結ぶ。
「それではぼくは右から出しますのでー」
「じゃあ俺は左から!」
そんなことをクラスコードグリーンペアでは話し合っていたが、さすが元同一人物。
ククツミたちは目配せだけで意思疎通を図ったようだ。
[それでは位置について。よーい]
板切れの無機質な声が響く。
俺たちは各々走り出すために構えた。
――パァンッ!!
けたたましい音によって、スタートが告げられる。
「「「「せーの!」」」」
それぞれ違うペアだというのに、1歩目の合図は4人綺麗に揃った。
「「いち、に、いち、に!」」
そして俺とヒマノは声をかけながら順調に走り始める、が。
てっきり横、もしくは前を走ると思っていたククツミたちはというと。
「わっ」
「きゃっ」
あろうことか、1歩目でズッコケていた。
「え、えぇ!?」
「これは意外ですねー」
思わず俺たちも振り返ってしまう。
息が合っているように見えたククツミたち。
何故こけてしまったのか。
実は息が合わなくて……と、いうわけではない。
寧ろその逆。
息が合いすぎていたのだ。
後に聞いたククツミたちの思考はこうだ。
((あれどっちからだっけ?/でしたっけ?))
((多分きっと右のはず!/右ですね!))
二人三脚は、足の動きを鏡映しにしなければならない。
全く同じであれば、当然片方がつんのめってしまう結果となる。
「ともあれチャンスですよー」
「ああ、手加減はなし、だったもんな!」
わたわたと起き上がっているククツミたちを置いて、俺とヒマノは距離を稼ぐ。
程なくして飴食いゾーンにたどり着いた。
「よし、俺がやる!」
「お任せしまーす」
俺が白い粉と戦いながら飴を探していると、遅れてククツミたちもやってきた気配がした。
「飴探しはどっちがやろうか……」
「えっと……私がやってみても?」
飴を探している俺は、ククツミたちの会話に耳だけを傾ける。
「ふふ、じゃあ信じて任せようか」
「はい!」
隣でわふわふと俺と同じく片栗粉に苦戦している気配がしだす。
「シャロンさーん、ファイトですよー!」
「がんばれー、シャロンくんに負けるなー」
飴食いに参加していないペアの片割れたちがそれぞれ応援しているのが聞こえる。
そして、
「あっは(あった)!」
ずいぶんと大きな飴玉を探し出し、俺はそれを噛んで顔を上げ、ジャッジの板切れへ見せる。
[問題ありません。飴は無駄にならないよう食べてください]
「ほれ、へっほうへはいんらけど(これ、結構でかいんだけど)」
そう言いながら俺はそのままその飴を口内へ含み、片方の頬への押しやる。
「っ、ふふふ、シャロンさん顔……ふふふ……」
その姿がおかしかったのだろう、ヒマノが肩を震わせている。
「わらっへるばあいじゃあ……!」
「ありまひは(ありました)!」
俺たちが再スタートをする前に、続いてククツミも飴を探し出したらしい。
つられてそちらをむけば、頑張って探した証拠に顔が真っ白になったククツミがいた。
もう一方のククツミもそれを見て笑っている。
「おっと、まずいですね。飴は美味しいかもしれませんがー」
飴は桃の味がした。とても美味しい。いやそうじゃない。
「はやくスタートしないと!」
「では、あれをやってしまいましょー」
……いやな予感がする。
隣に立つヒマノが、ふわりと僅かに浮かぶ。
「おいおいおいまさか」
「グラウンドで魔法を使うのは、禁止事項ではないですもんねー?」
そうしてそのままゴールに向かって全速力で文字通り飛び始める。
俺?
当然のように引きずられているけど。
「ちょちょちょストップストップすとーーーーーっぷ!!!!」
さすがに速度を落とさせようと、俺は反対側に向かって浮遊魔法を使う。
浮遊魔法とは、飛びたい方向への指定が大事。
2人以上で同じものに浮遊魔法をかけるときは尚更、指定する方向が一致しないと100パーセントの力が出ない。
今回はそれを逆手にとってブレーキをかけさせたのだ。
「あわわわシャロンさんー?急な別方向への指定はやめてくださーい?」
「俺元々魔法苦手なんだって!」
「だからってこんなことをしているとー……ほらー」
ゴールの少し手前。
そんなところで俺たちがわちゃわちゃしているとまるで1人が徒競走でもしているかのようなスピードでククツミたちが走り去る。
「あっ」
「もー、シャロンさんがおとなしく引きずられてくれないからー」
「それは違うよな!?」
ククツミたちから少し遅れて俺たちもゴール。
「はあ、結局ククツミさんたちには敵わないか」
「そんな気はしていましたけどねー?」
「まぁ、最初を合わせてしまえば後は流れるようにできたかな。でも大体はヒマノくんのイタズラのおかげ……ふふ、シャロンくんの顔、すごいことになってる」
「えぇ、本当に……くしゅんっ」
自分を私と呼ぶククツミがくしゃみをすれば、顔についたままだった白い片栗粉が、ぼふ、と宙を舞う。
4人は顔を合わせた後、思わず吹き出した。
4人の笑い声は、快晴の空までしばらく響いていた。
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