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【一次創作】見慣れた地を離れるきみへ【#ガーデン・ドール】
ぴぴ、と小さな鳴き声が聞こえて開けたままだった窓の方を見れば、そこには小さな来訪者がとまっていた。
「鳥?綺麗な青……なんて鳥なんだろ」
とあるイタズラ好きなドールからもらったビスケットの残りを崩して、鳥がとまっている窓のフチに少し散らしてみる。
するとその青い鳥は小首をかしげてから崩したビスケットを食べ始めた。
そんな鳥をしばらく眺めてから、俺の元に届いた早すぎるクリスマスプレゼントに視線を移す。
「『いつもありがとうございました』、か……」
それは、少し寂しい、手紙のプレゼントだった。
一時は敵対する形となった教師AIアルゴとの戦闘もひと段落ついた頃。
いつも通りの体を取り戻した俺の元に、とあるドールからそんな手紙が届いたのだ。
「そう言ってもらえるほど、俺はあの子になにかできたかなあ」
部屋の窓から空を見上げる。
きっと彼は、今俺の知らない光景を、世界を見ているのだろう。
放送委員であることは、ガーデンから与えられた俺の役割の中で唯一と言っていい誇りだ。
そんな放送委員ではあるが、何かとそれを行なえないこともあるわけで、そんな時に縁の下で力になってくれていたのは間違いなく同じ委員会であった彼だった。
そんな彼が12月の頭に『イルカになってしまいたい』と海へ沈もうとしていたのには驚いたものだ。
それは決して、グリーンの魔術・獣化魔術による一時的なものだとかそういう意味ではなさそうで。
彼に『ここでの生活がつらいものなのであれば、他の世界へ旅立つ選択肢もあるようだ』と伝えたのは、紛れもない俺だった。
"同じ委員会である"ということ以上の付き合いはなかったかもしれないけれど、俺がボクであった頃から、"シャロン"として自覚した一番古い記憶の頃から一緒にやって来た仲だと勝手に思っている。
そんな彼に俺が示した"道"は、間違っていなかったかと少し考えてしまう。
「……ま、あの子ならどこでもうまくやるだろ」
な?、と俺は青い鳥に向かってニッと笑う。
彼だけでなく自由な彼女も旅立ってしまったから、しばらく放送室から離れられないかもな。
ぴぴ、と訪れた時のように鳴いてからその鳥は再び旅立つ。
どこまでも続く空を、彼の目の色によく似た綺麗な青色の鳥が気持ちよさそうに飛んでいった。