SV650X(2018モデル)と言うバイクについて
日本国内では500〜800ccの所謂ミドルクラスのバイクは大型バイクにカテゴライズされるが、
メーカーも利益は低価格帯よりも得ることができて、
価格帯もユーザーが手を出しやすく、ユーザーにとってもメーカーにとってもフレンドリーなクラスだと思う。
また、モーターサイクルイベントがあれば、国内4メーカーは新車種やモデルチェンジと、何かと話題に上がることが多いクラスだ。
しかし、日本で言えば大型バイクは趣味性に特化した乗り物であり、
趣味としての大型バイクを所有するのであれば、排気量、スペック、装備等ハイクラスである方が、訴求力の高い商品かつ、ステータスの一つとしても魅力的な趣味として目に映るではないだろうか。
そう考えると、ミドルクラスはどうか?
ハーレー等の一部を除けば、排気量にしてもスペックにしても、中途半端な印象を抱かずにはいられない。
金銭面でハイクラスを買うには…と考える人もいるが、
実際のハイクラスとの価格差を比べてみると大きな差は感じない。
例えば、カワサキのZ650を例に取ると、
Z650が 税込 858.000円 で販売されており、
ワンクラス上のZ900で 1.166.000円
ツークラス上のZ1000で 1.188.000円 と
価格差で言えば両者とも、凡そ30万円の差である。
この差をどうと捉えるかにもよるが、少し無理をすれば届かない数字ではない。
つまりは、日本で大型バイクを乗るにあたって、ミドルクラスは価格差を埋める程の魅力を持ったバイクでなければ、
このクラスは売り辛いのが常なのかもしれない。
SV650Xというバイクとは
このバイクが発表されたとき、私はこんなことを思った。
ネオレトロ系のデザインで、狙って作ったとしては古臭さしか感じず、ヘリテージと言うには先鋭的。
先に販売していた無印のSVも、時代錯誤のデザインで出てきたが、Xは時代についていけなくなったカスタムショップのデモカーの様な見た目だった。
だからこそ惹かれるものもあったが、当時の私はZX-6Rで派手に転び、大型バイクは辞めてKLX250だけで満足しようと思っていた。
しかし、懇意にしているバイク屋から試乗してみないか?と言われ全く期待せずに乗ったところ、後々に繋がることになった…
エンジンを掛けた瞬間、一瞬ドキッとする様な排気音が聞こえた。
加速騒音規制が撤廃され、各社今まで以上の排気音のバイクを出していたが、一緒に試乗が可能だったZ900RSよりも一撃の重い排気音を響かせていた。
意気揚々と跨り、勢いよく走り出した。
最初の信号までの100mで、トルク感が強く乗りやすさを感じ、メインの試乗コースまでに、心地良いパルスを感じることができた。
信号が変わり、目の前がクリーンになった時、スロットルをガサツに開けてみると、
SVは蹴っ飛ばすように加速を始め、シート下から重たいピストンの動きを感じる振動が身体を揺さぶった。
ハンドリングも小気味よく、ちょっとした交差点やカーブをリーンウィズで曲がると感覚的に曲がることが出来た。
ある程度の気だるさを感じることはあるが、却ってそれが扱いやすさと楽しさを両立していると感じる。
コースを一周終えて、他にも試乗車があったので、それら全部に乗って帰ってきても
最後には再度SVに乗ってしまうほどに、このバイクに取り憑かれてしまった。
思い立つと人間は早いもので、店の在庫となっていたSV650Xを購入していた。
年式は2018年式で、馬力こそ76馬力を発生させクラストップだったが、片押し2ポッドのフロントブレーキだった。
翌モデルから対向4ポッドにアップデートされたが、所詮トキコキャリパーなので乗り比べても、ブレーキタッチの差しか感じることはなかった。
片道200km程の諏訪までツーリングをしてみて、このバイクの印象が少し変わってきた。
今まで乗っていたZX-6Rは正真正銘のスーパースポーツ。
キャッチにもなっていた正確無比の名の通り、スロットルの開度から身の入れ方、ステップの踏ん張り、ギアの選択等々、全てが決められたポイントに有ることで完璧なパフォーマンスを発揮するバイクだ。
完璧なトラックツールではあったが、雑に扱えば雑に返してくるので扱いやすさと言った点では、素直に褒められたものではなかった。
では、SVはどんなバイクなのかと言えば、
スーパースポーツの様な実直さは感じないが、確実にスポーツバイクとしての乗り方を指定してくるバイクだ。
方向性としてはスポーツだが、スーパースポーツというよりストリートスポーツまたはボーイズレーサーと言ったほうが良い。
セパレートハンドルのポジションは思っている以上に低く、前輪に荷重を掛けて旋回しろとバイクから発してくる。
しかし、スーパースポーツのような気難しさ(正確さ?)はなく、スポーツバイクの乗り方をすれば、とことんイージーライドで、思ったように曲がってくれる。
等身大の旋回性能がバイクとの一体感を与えてくれて、スポーツライドが上手くなったと感じさせてくれる絶妙な乗り味。
また、トルクもあるので一段、二段上のギアでコーナーを曲がる懐の深さもある。
だがその分、鋭さを感じる所はあるにはあるが、スーパースポーツの様な全てがハマった時にある"ゾーン"的な部分はあまり見受ける事はなかった。
どこまで行ってもストリートスポーツの域は飛び出して行かないナンバー付きであるが故の実直なバイクと言った印象。
そんなスポーツライクなSVだが、意外にも市街地は走りやすい。
Uターンや路地裏では流石に辛いが、県道や国道を流しているぶんにはセパハンがネガな印象になることはなく、
バーハンドルのSVの良さを受け継いでいる印象だった。
それどころか、交差点を曲がったり緩いカーブをそこそこの速度で抜けるのはSV650Xの真髄ではないかと思うぐらいだ。
車線変更も細い車体と160サイズのタイヤでヒラヒラと進路を変え、少しオーバー気味に車線変更をした時に振り子のように車体を戻すのも楽しい。
トルクもあり、信号待ちからの加速や追い越し、坂道については流石大型バイクと思わせる瞬発力を持っているが、
急に飛んでいってしまうような危うさもなく普段使いも卒なくこなせるオールラウンダーらしい顔つきも持っている。
エンジンと車体と不満と…
言わずもがな、スズキのVツインエンジンはハッキリ言ってマスターピースだ。
ホンダの4気筒、ヤマハのクロスプレーンクランクと、このクラスは何を買っても正解は無いのだが(カワサキのパラツインが普通か)
あくまで並列に拘る各メーカーに対してスズキの答えはVツインエンジンだった。
スズキはいつも他とは違うズレた感覚でバイクを作る。
しかし、それは業界の中での立ち位置がそうさせているとSVは訴えてくる。
正攻法でホンダやヤマハに太刀打ちしても、ホンダには魔正面から殴られヤマハには搦手で足元を掬われ、カワサキとは土俵が違う。
だったら元より勝つためではなく生き残る選択がVツインだ。
ホイールベースは長くなりハンドリングに不利だろうと振動面でも並列機に比べて大きく手に痺れが残るエンジンだが、
スズキはこれを個性としスリムな車体にインストールし乗り手のプリミティブな感性に訴える乗り物とした。
腹底から和太鼓を鳴らすようなビート感はアクセルを自然に捻らせ、人間の狂気を呼び起こす。
スピードを出したら不味い…と思っていてもエンジンの鼓動を楽しめる領域へ踏み込みたくなる、そんなエンジンだ。
加速感は鞭を打った競走馬の如くトルクがタイヤを蹴って加速していく。
高回転まで回すと気持ちの良い抜け感もあるのも楽しい。
ただ、個人的にはあと500回転ほどピークパワーを上に振って、レッドゾーンを引き上げてくれれば最高に嬉しかったのだが…
車体に関してはエンジンパワーで破綻することなく、しっかり受け止めてくれるトラスフレームを採用している。
普通に乗っていれば撓るなんて事はなく、硬すぎる印象も受けない良いフレームだと感じる。
トラスフレームはその見た目からデザイン性にも寄与しており、飾り気のない丸目一灯のバイクがオシャレに見えてくる。
また、Xについてはフレーム色をあえてニュアンスカラーにすることで主張しすぎない所も良い。
フロントフォークもスタンダードな正立フォークで不満に感じる所は無い。
不快な硬さもなく、路面に対して素直な追従をしてくれる。
Xにはプリロード調整が付くが、兎に角走りたい!と言う訳でなければ、そんなに締め上げなくても程よく硬さがある絶妙な設定。
リアも同様で吊るしのままでも普通に乗るなら十分な追従性がある。
正直、車体にもサスペンションにも不満を感じることはなく
バイクとして及第点は余裕で上回ってくるが、どうしても旋回性に疑問が残る。
好みの問題もあるが、旋回ポイントが尻の下にある感じで、
フロントから切り込もうと意気込むとワンテンポ遅れて切り込む感覚。
セパハンなので基本的に食ってかかるポジションだが、
前のめりに身体を沈めてもステップやシートに荷重を強めに乗せないと曲がろうとしない。
否、曲がろうとはしているが反応がナローなのだ。
今まで乗ってきたバイクがそんなバイクだけだった(カワサキばかりではあるが)のかもしれないが、
個人的にはフロントを押しつぶすようなコーナリングをするバイクが好みで、ここだけは最後まで慣れなかった。
まだまだあります不満点…
乗っていたからこそ出てくる不満点だが、
本当に気に食わなかったのは、純正ヘッドライトバルブ。
純正はハロゲン球だが、本当に暗いし照射範囲も適当すぎて酷いの一言。
安いLEDに変えたが、これだけで夜に走るのが苦ではなくなった。
また、ウインカーもやたらに大きくて嫌いだったので変えた。
テールランプはLEDでデザインもGSX-Rを彷彿させるデザインだっただけに、ヘッドライトとウインカーだけはいただけない。
ホンダやカワサキの様な凝った丸目にしろとは思わないが、21世紀も1/4が過ぎようとする最中にしては、なかなか酷いヘッドライトで正直記憶に留めておきたくない代物。
他にはミラーの位置には不満であった。
スイッチボックスは恐らく無印と共用だと思うがハンドルとの位置関係が悪い。
垂直に手を挙げると当たる位置に固定されており、後方視界も良いとは言えなかった。
SV-Xの定番カスタムでバーエンドミラーにする人は多いと思うが理由はカッコいいだけでなく、視界性能と位置関係の都合もあると感じる。
あとは純正タイヤである。
ダンロップのロードスマート3を履いているが、グリップ感が希薄すぎる。
というのも今までBSのバトラックスやピレリのロッソコルサとグリップ感が強いタイヤを選んで履いていたのもあるが、それから比べると余りにも感覚の掴みづらいタイヤで
どれだけ倒して良いのかがわからなかったのだ。
ツーリングタイヤとハイグリップ寄りのタイヤで何を言ってるのかと思うが、やっとの思いで履き潰した後にミシュランのロード5に変えたが
今までが何だったのかと思うぐらいグリップを感じるタイヤだった事もあり、どうしてもネガな部分に感じている。
ただ、グリップ感が無いだけで実際にはしっかりと路面を捉えているのも感じるところは多々あった。
倒し込んだ際、滑ってしまう恐怖感は無かった。
倒し込みが軽く、車体をヒラヒラと翻す様な走り方をする
SVにとってはベストな選択だとは思う。
ゴムを潰して走るようなハイグリップはスポーツとツーリングバイクの境界線に立っているSVに過剰なグリップ力は軽快感を削ぐ要素になる。
すっと乗っていられるからこそ手放したバイクだった
最終的に最初の車検を通した半年経った辺りで乗り換えてしまった。
トータルバランスの良さと懐の広さ、個性的な面も含めて完璧とは言わないが良いバイクであることには変わりない。
初めて大型バイクに乗ると言うなら、間違いなくSVに乗って欲しい。
個人的な所見を言わせてもらうなら、良いバイクだからこそ自分には乗り続けることに疑問を覚えてしまった。
バイクのみならず車もそうだが、趣味として乗るときに刹那的な快楽を求めるきらいがある。
それは制御不能な程のパワーであったり、手に余る性能だったりと自分には辿り着けない領域を見せてくれる魅力だ。
いつか破綻するとわかっていても乗りたい、乗ってやると思わせる力はSVには無かった。
簡単に言えば面白くないの一言で済んでしまうのだが、そんな簡単な言葉でSVを手放したとは思えない。
どこまで行ってもSVはSVであり続けてくれるバイクで、どこを走ってもついて来てくれる、相棒となれるバイクがSVだった。
良いバイクと好きなバイクは似て非なるもの。
それを教えてくれたSVは自分の人生の中で価値のある選択をしたと自信を持って言える。
20世紀末から始まったスズキのミドルVツインの歴史は
21世紀も四半世紀過ぎようとしている時に、今だに進化を続けている。
世界中で愛されているVツインはドゥカティなど数多くあるが、SVほど人間に近しい感性を持ったバイクも無いであろう。
あと数十年生きているかは分からないが、人生の最後に買うとしたらSVであって欲しいと思う。
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