Next Lover
すっかり 陽の沈んだ 夕闇の先に『あなた』が 待っている。
ちゃんと区切りをつけたことを報告しながら 新しい日々を初めよう。
改札口の端で 何かを見ていた。
後ろ姿を少しだけ 見納めた。
「待たせたね。」
「もういいの?」
「始まりの場所で 手を振って 別々の道を歩き出した。」
「そっか。」
自然な笑顔を浮かべるには 少し時間がかかるかもしれない。
無言で 掌を重ねた。
聴こえてくる駅前の喧騒さえ 見失ってしまうほど 自然と あなたから。
「ゆっくりいこう?」
察してくれた声色に誘われた。
隣から香る匂いが 変わった。
それが 僕の進路を 本能が 認知した。
「ゆっくりでいいの?」
逆に 尋ねてしまった。
歩幅とリズムを感じ取る あなたを 愛しいと 改めて 感じた。
寒暖差が激しい初秋の道。
お互いの掌から伝わる熱が 程良く心地良かった。
「お腹空いたね。」
「僕も 緊張が解けたら いきなり お腹空いてきた。」
あなたが 行きたいと話してくれた イタリアンレストラン。
「今を楽しんで。」
僕の雑念を消すように後押しする。
「ありがとう。」
運ばれてきた あなたのオススメが 新しい夜を教える。
〜Meet you Before〜
(ちゃんと言えるといいな…)
私は あなたを待つ。
しっかりとケリをつけたいと 意思を示したあなたを。
「本当は もう会いたくないんじゃないの?」
悪戯な言葉で あなたを惑わせたよね。
「でも しっかり 伝えなきゃ…それが 僕なりの向き合い方なんだ…分かってほしい。」
そんな真剣な眼差しで 懇願されたら 許すしかないじゃない。
ホントは 会ってほしくなんてないけど。
それで 諦めが付くなら あなたの背中を押したい。
その気持ちを推すように。
あなたとの待ち合わせまで 1時間を切った。
あなたは 来るのかな?
私を選んでくれるかな?
心変わりしないかな?
尊重したい。
でも 不安で。
天使と悪魔の鍔迫り合いの狭間で 私は あなたを待つことしか出来ない。
どうか 来てね。
沈み始めた太陽に ただ 祈ったまま。
〜First meeting〜
春風が 桜の花びら達を 躍らせていた。
そんな季節に『あなた』に出逢ってしまった。
優しく桜の樹を見上げていたよね。
恐る恐るの口調で 顔を覗かせたよね。
「あの…」
「?」
「どうして 桜の樹を そんなにマジマジと見ているんですか?」
「あぁ…彼女が トイレに行ってしまったので 桜を味わっていました。」
(彼女さん持ちなんだ…)
「綺麗ですよね…きっと お兄さんの心も。」
心を惹かれた理由が 私には 分かったよ。
冷静なフリをしてたけど そんなことを言われたのは 初めてだったんだ。
数分の何気ないやりとりで お互いの心は ジリジリと 音も立てないまま 近づいていた。
「スタンプ送りますね。」
恋をしたことを隠したまま。
「また…また会えるかもしれないね。」
愛する存在がいながら 揺らいでしまった 心を隠したまま。
〜Tonight〜
海鮮が食べたかった 僕のグラスには 白ワインが。
お肉を食べたい あなたのグラスには 赤ワインが。
軽くぶつかると 赤と白は 調和して 薄いピンクを描いた。
「あのね…」
「どうしたの?」
「本当はね…あなたが来なくても おかしくないと思ってた。」
一瞬 黙り込んだあなたは 選ぶように 瞳を動かした。
「約束は 守るよ…あなたにも 彼女にも…それが 僕のケジメなんだから。」
惹かれる正体が 判明した。
この人なら。
「そうだよね…あなたは そうだろうね。」
「納得してくれたかな?」
「乾杯しよう。」
綺羅びやかに 輝く 頭上のシャンデリア。
光が反射したナイフとフォーク。
グラスに 注がれた白と赤。
その どの輝きよりも。
向け合った笑顔が 世界で1番輝いていることを 僕達は 忘れないまま。
終わりなど考える暇すらないまま。
笑っていこう。
いきたい。
※この物語は『Cross mind』後の男性サイドを描いた作品になります。