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白雪姫になれなかった

白雪姫にはなれなかった。
私はただの村娘だった。魔法にかかって、もっと夢をみていたかったのに。

今日は何にもない日のはずだったけれど、それでも、せっかくお休みなので、ちょっと前に買ってもらった青いスカートを着ることにした。白いレースのついたかわいいの。これを着るとまるで自分は西洋のお嬢さんにでもなった気になれる。

いつもはこれに、リボンのついた白いブラウスをあわせるのだけれど、今日はいつもと違う人になりたくて、茶色のTシャツを着てみた。

本当は、この前お母さんにもらった長袖の白いブラウスも着てみたかったのだけれど、まだ秋になりきらぬうちで、少し暑くて、散々迷って辞めてしまった。しかし、思いのほか茶色のTシャツがよく似合っているように思った。そうして、姿見の前でくるっと一回転してみせて、スカートのつくる風を楽しむ。

「秋になりきらぬ」と言ったが、それでも暦の上ではもう秋だという。やはり、秋は茶色か。

「そうだ」と思い立って、茶色のコーデュロイのカチューシャをつけてみた。

うん、いい。今日はこんなかんじ。一人で自分の姿を見ながら微笑んでいるのは少し気持ち悪いかもと思ったが、まぁいいか。

ふと、お姫さまみたいと、我ながら子供みたいなことを思った。お姫さま。
シンデレラでもない、オーロラ姫でもない…。

あ、白雪姫。
今日は、スノウホワイト。

今日の私は白雪姫だと暗示をかけて、気分をあげてみる。

もう12時になる。お昼ごはんを食べに、カフェに行く。髪をとかして、お化粧して、靴を履いて、もいちど鏡の前へ。

あれ? なんだろう、違う。
もう魔法が解けてしまったのか。

そこにいるのは、「お姫さま」なんかではなく、普通の女の子。

つまんないの。

こんな短い時間でも、私は姫になりきれないのだと、ちょっとばかり悲しくなった。

あぁ、もっと夢をみていたかったな。


[END]