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2024/9/29(日)の宿題:美しい顔

 『今日の宿題』(Rethink Books編、NUMABOOKS)に毎日取り組んでみる71日目。本日は暁方ミセイさんからの出題。

最近出会ったうつくしいものを思い出して、それではなく、それを見ているあなたの心に浮かんでいた連想や想像や妄想を、包み隠さず書き出してください。
うつくしいものの輪郭となるよう、全部。

『今日の宿題』Rethink Books編,155頁

 高校には剣道をやるための武道場があって、一学年の集会のときにはよくそこに集まっていた。生徒たちは体育座りでクラスごとに座っている。教師が生徒たちの前に立ち、何かを喋る。その目線は生徒をくまなく見渡すように動き続けている。まじめな生徒が多い学校だったから、多分他の多くの生徒も同様に教師を見上げていたと思う。他の教師は生徒の横や後ろに立ったり座ったりしていた。生徒がきちんと話を聞いているか見張る役割もあったと思う。
 私は生徒しかやったことがないから、話を聞く間、教師の方をじっと見上げていた視点しか知らない。生徒たちが一心に何かを見つめる横顔を見て、教師たちは今の私が考えることと同じことを思っただろうか。



 大学1年生になってバイトを始めた。広い居酒屋のバイトだった。他に大学生のバイトは多分いなかった。ビルの上の方にあったから、働いた後、ベテランのスタッフさんたちと一緒にエレベーターにぎゅうぎゅう詰めに乗って降りなければならなかった。私は隅っこに押しつけられていた。隣に立った30代くらいの女性が私の横顔を間近で見て「肌がきれい」と呟いた。その人も肌がきれいだったしお化粧もきちんとしていて、一方の私はろくに化粧もしていなかったので恥ずかしくなった。
 今ならあのときの女性が言いたかったことがわかる。



 昨今、というよりは一昔前から、高校生でもメイクをするのは当たり前だ。それどころか小学生だってメイクをする。カラーコントロールに始まり、コンシーラー、ファンデーション、シェーディング、ハイライト……たくさんのものが肌に乗せられ、きれいでかわいく小顔になっていく。
 でも私は、本当は高校生くらいまではメイクをしてほしくないと思っている。



 まだ多くの失敗を知らないまっすぐな瞳。通学や適度な屋外での活動で健康的に焼けた肌。おでこや頬のにきび。かたくとじられた、あるいはとじることも忘れて薄く開かれたくちびる。水分をたくさん含んだはりのある肌。剃られていない産毛。整えられていない眉毛。自分の色のままの髪の毛。



 ここまで私が書いていたのは、18歳くらいまでの少年少女の美しさについて。
 地域のニュースで中学校や高校の催し物に関する映像が映されたとき、素顔のままの学生の尊い美しさを感じた。顔の造形云々ではない、どの子供持っている、何かに守られているような気高い美しさ。
 その特有の美しさを台無しにしないために、メイクはしてほしくないし、髪も染めてほしくない。しかし当の本人たちはその美しさには気づくことができない。顔の造形の良し悪しとか、肌質、髪型、そういう外側の部分にしか目がいかなくて、だからメイクをしたりヘアカラーをしたがったりする。それはもう仕方のないことだ。
 でも大人になって、子供のもつそのままの美しさに気づくと思う。もう戻ってくることのない、そのままでも完璧な美しさに。

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