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仲が良かった訳じゃ無い。だけど、思い出す人

私は小学校高学年の頃、同じクラスだった人を今でもふと思い出す事がある。

その子の名前はK子ちゃん。
K 子ちゃんとは、特別仲良しというわけでは無かったけど、全く話さないという仲でもなく、席が近くなると話したり、班が一緒になれば一緒に掃除をしたり発表を一緒にしたり可もなく不可もない仲だったと思う。
でも、話が合わないなと思う節があったり、少し話し方が大人っぽいを超えて、なんだか叔母ちゃんぽい子だなと思っていた。

小学5年生の冬に班のみんなと「クリスマスは、サンタさんに何をお願いするか?」という話で盛り上がっていた。
階段掃除をしながらK子ちゃんに「K子ちゃんは、サンタさんに何をお願いするのか」聞いた。
少し気まずそうな雰囲気でK子ちゃんは「うちにはサンタが来ないんだ」と返してきた。
「それは今年だけ?それともずっと来てないの?」私は目を丸くして質問した。
「うちは、1回もサンタが来たことがないんだ」と言っていた。
私は自分で言うのもなんだけど、めちゃくちゃ貧乏な家に生まれて育た自覚があった。
それでもサンタは毎年来ていたし、K子ちゃんは正直まじめな性格で、何故悪いこともしていないのにサンタが来ないのかが凄く気になった。
K子ちゃんが、気まずそうな顔をしているのに私は、サンタが来ない事が理解ができなくて、さらに質問をする。
「なんでサンタが1回も来たことがないの?」
少し、掃除の手を止めて何とも言えない表情でK子ちゃんが口を開く。
「うちは、キリスト教では無いから」
私は、正直あんまり頭がいい方ではなかったけれど宗教でキリストがある事は知っていた。
ただ、キリスト教とサンタに何の関係があるのかが当時は分からなかったし、それでサンタが来ないなんて初耳だった。
だって、TVでもそんな話見たことが無かったから。

そして、翌年にそんなK子ちゃんと新聞係になった。
私たちは、クラス新聞の一部に4コマ漫画を掲載することにし、私は『かみまる』という名前の自分に似たキャラクターで漫画を描くことにした。
でも、『かみまる』は当時NHKで放送されていた『おじゃる丸』の完全なパクリだったし、自分を主人公に漫画を描くなんて相当なメンタルかと思われるかもしれないけど、当時小学生の私は控えめで、自分の意見を言うタイプでは無いけれど、サービス精神の多さから面白いと周りから言われていた。
その影響でか、自分を主人公にした作品を描く事への迷いなどは無かった。

因みに、K子ちゃんがどんな風な内容の漫画を描くのかも全然わからなかったけど、私自身は普通の漫画は読むけど4コマ漫画ははほとんど読んだ事が無かった。
でも、かみまるを書くことにワクワクしていた。
初めて、黒板の横に張り出されたクラス新聞の左下には私とK子ちゃんの4コマ漫画が並んでいた。
私は正直自分がどんな作品を作ったのか、全く思い出せない。
だけど、K子ちゃんの4コマ漫画は頭の中に微かに映像で思い出す。
彼女が描いたのは、トランクスが主人公の4コマ漫画だった。
トランクスって、ドラゴンボールのキャラクターではなくて、パンツそのものに手足が生えていて、眉毛と目はとても凛々しい。
内容までは思い出せないけれど、その斬新なオリジナルティ溢れるキャラクターの隣に、おじゃる丸のパクリを描いている私は、子供ながらに少し負けた気がした。
私は、その後もたぶん『かみまる』を変わらず新聞に描いていたけど、負けた気持ちで描くそのキャラクターにワクワクや楽しさを見いだせないまま、描いていた感覚がする。

そんな中で、小学校の授業では総合みたいな準備があり、自分の好きな人とグループを作ったりして何でもいいから出し物をする事になった。

私という人間は、あまり自分の意思が無い。
周りの人と楽しくやれればいいという感覚だったと思う。
その時組んだグループでは、マジックを披露する事になった。
マジックのやり方は、学校の図書室の本の中から参考にして覚えた。

その頃、K子ちゃんはグループを作れなかったのか、それとも作らなかったのか?
グループ決めの時間、ポツンと1人で立っていた。その時の顔は、顔は赤くなっていて、気になる表情だった。
特に、K子ちゃんはクラスでいじめられていたりはしていない。
だけど、特定の人といるというイメージもなかった。
ここのグループに入る?
そう言おうか悩んだけど、何故か言えなかった。

それを、発表会の日までずっと頭の片隅で気にしていた。
1人で大丈夫かと。

発表日当日、私はハンカチの上にあるコインをハンカチを畳むと消せる。というマジックをしたけど、緊張のあまりスムーズにできなかった。

そして、違うグループの人が私と同じマジックを、たまたましていた。その子はスムーズにできていて、周りに比べられてはいないか?と、心配しても意味がない事を考えていたのを覚えている。

そして、K子ちゃんの順番が回ってきた。
クラスで1人で出し物をするのは、K子ちゃんだけだった。
K子ちゃんは、自分で描いた人や動物の絵に割り箸を貼り付けて持っていて、私は一体何をするのだろう?と不思議でならなかった。

K子ちゃんは、教室の1番後ろの机が少ない所で地べたに座り皆んなが見えるように誘導した。

上手に、足と手4本使って割り箸付きの絵を動かし始めた。
そして、独特のお婆ちゃんの様な話口調で紙芝居が始まった。
堂々とした声と、足を上げているのに安定感がある彼女の物語に皆んなが釘付けだった。
彼女の声以外聞こえない。
彼女がクラスの全員を、自分に集中させ、夢中にした。

あの会では特に誰が1番とかが、決まるわけでは無かった。
だけど、私はどのグループよりも彼女の発表が1番輝いて見えた。

そんな彼女とは、中学では全く接点は無くなり、SNSでも同窓会でも全く見かけ無い。

私は、時々彼女を思い出す。
彼女はどんな大人になっていて、どんな仕事をしたり、どんな好きな事に触れて生きているのかと。
もし、今大人になった私達が話しをしたらどんな気持ちになるのだろうと。


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