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愛犬・外飼いトイプードルの思い出28
毎朝、30gの朝食を食べていた。
愛犬の食事担当は、二人の高齢家族が担っていた。そのうちの一人は毎朝、キッチンスケールできっちり計って用意していた。その量は30g。カリカリのドッグフードに犬用のふりかけ、それにいつからか犬のおやつ1本、をキッチンばさみで小さく切って加えるようになった。全部合わせて30g。
ある時「なんでわざわざ切るの?」と聞いたら、「そのほうが食べやすいでしょ」という答え。確かに、自分の食事も小さく切って食べているなぁ。シニア犬の気持ちは、高齢者のほうがよく分かるということか。
その30gの朝ご飯は散歩から帰ってきたら食べられる。でも、その前に「お手」と「おかわり」をしなければいけない。でも愛犬は目の前のごはんが気になって仕方がないから、「お手」も「おかわり」もひどくぞんざいだ。だから時々「ダメダメ、ちゃんとやって。はいもう一回」と、「お手」と「おかわり」を二回させたりしていた。
その時の切なそうな顔といったら……。
夜ご飯は別の高齢家族が用意していた。こちらは目分量。マジックで線を引いた計量カップでカリカリのドッグフードをすくい、缶詰の餌を混ぜてるのが定番だった。時々、出汁をとった後の削り節をトッピングにしたり、シーチキンやサバ缶の汁をかけていることがあったっけ。
夜ご飯のほうがいつもちょっと豪華で、たぶん量も多かったはずだ。
愛犬が唯一まともにできる芸?が、ご飯の前の「お手」と「おかわり」だった。その「お手」で大笑いしたことがある。あれは今年の冬のことだ。散歩から帰り、用意された30gの餌をお皿に入れる。その様子を見ていた高齢家族に、何の気なしに「お手って言ってみて」と言ったのだ。
私:「いいから『お手』って言ってみてよ」
私:「ほら『お手』って」
高齢家族:「お手」
その瞬間、愛犬は二人の顔を見上げて慌てた様子で右手と左手、正確には右前足と左前足を、バタバタと交互に差し出し、その反動で前につんのめりそうになった。
わはは、と大笑いする人間。あれは可笑しかった。
もっとも犬にとってはいい迷惑だったと思うけど。ごめんよ。