雨上がりの帰り道、あの頃僕らは勇者だった。
雨上がりの帰り道。小学生当時それが好きだった。傘を差す必要が無くなると、想像力豊かな僕は傘を武器へと変えることができた。いや、僕だけではないと思う。
あの頃僕らは、勇者だった。
登校時に差していた傘は、下校時には勇者の剣になる。雲間から差し込む太陽が、冒険に向かう僕の背中を押してくれる。校門で見守る先生は、旅立ちを後押ししてくれる村人だ。
校門を離れ道の角を曲がると冒険は始まる。いつもの帰り道が見知らぬ世界に見えてくる。
水溜りは毒の沼地だ。気を付けないと。これを軽やかなジャンプで次々とかわしていく僕。大きい水溜りは要注意!でも大丈夫。今日は、特殊装備のハイパーシューズ(長靴)がある。堂々と無傷で水溜りを横断してやるんだ。
ブーーン。車が急に横を通り過ぎる。
バシャ!うわ!水をかけられた!ダメージをくらってしまった。ここは急いで水筒のお茶を飲んで回復。しかし帰り道はお茶が少ない。慎重に行動しないと・・・
あっ!これは蜜を吸える花だ。これはラッキー。ここでMPを補給しておこう。この先何があるかわからない。
想像上でモンスターはでてくる。傘ソードを振りかざし、お弁当袋を盾にする。弾き飛ばされてもランドセルアーマーがダメージをやわらげてくれる。今日の装備はカンペキだ。がんがん攻撃するぞ!
ジャンプ斬り!!連続突き!!(水溜りの水を弾いて)必殺水流剣!!
次々と襲い来るモンスターをばったばったとなぎ倒してずけずけと先へ進む僕。そこらへんに生えてる木枝を切り裂き、うっそうと生い茂る草木をはじく。普段とは違う道を通ってフィールドをくまなく探索する。よく遊ぶ公園も、今日はお宝が眠っている秘密のダンジョン。
傘で雑草を掻き分けながらあちらこちら歩いていると、ついに見つけたビニール袋。しかし中身はごみだらけ。どうやらこの辺りはすでに盗賊に荒らされたみたいだ。仕方ない、今日はこのへんにして家に帰ろう。
そんなことを思い出した、雨上がりの帰り道。
足元の水溜りには毒におかされたような顔をした自分の姿が写っていた。僕は手に持つ傘で、それをぐちゃぐちゃに弾いてみた。けれども必殺技はもう出ない。
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