誰も教えてくれないコンサル転職の心構え~ケース面接の考え方①売上向上シナリオ
ケース面接の前提を理解する
ケース面接の位置づけ
ケース面接という言葉の説明は省き、コンサルティングファームをはじめとした企業の就職面接の際になぜ、ケーススタディを実施するのかについて書きたいと思います。
ケース面接を実施する最大の理由は、面接官が候補者と共に働きたいと思えるかどうかを、実際の仕事に近似した形式で判断するためです。
つまり、思考力を問うとかコミュニケーション能力を評価するとか、プロフェッショナリズムを評価するとか色々あると思いますが、一番の理由としては、候補者のことが好きかどうか、です。
これはかなり重要な前提で、極論ケーススタディとして秀逸な回答があったとしても、面接官が「なんかこいつ、好きじゃないな」と思えば、適当に点数を下げて不合格とすることが可能です。
したがって、受験や資格試験のような厳密な数値基準による評価ではなく、どんなに頑張っても面接官との相性が良くなければ普通に落ちるという事実認識をまずは出発点にしてください。
運の要素が支配的な面接という場ですが、それ以外のコントローラブルな要素である基本的なケース面接のお作法を理解して、実践できるようにしておくことが、面接突破の近道であることは事実でしょう。
基本的なケース面接のパターン
現在多くのコンサルティングファームで実施されるケース面接のパターンは、ビジネス系と公共系に大別されます。
ビジネス系というのは、ある業界全体や特定の企業のおかれた状況を踏まえて、いくつかの前提を置きながら成長(稀に撤退)戦略を検討するものです。
公共系というのは、クライアントを自治体やNPO等に設定した場合のケースで、首都高の朝の渋滞を緩和するための施策や、特定地域における感染症ワクチンの接種率を向上させるための施策といったようなものです。
実際の面接、特に中途採用においては公共系のケースはあまり出題されないと思って良いと思います。
なぜなら、公共系のケースはコンサルタントの中でも経験している人が少ないですし、彼らが持っている知見もそこまでないため、候補者に対してマウントを取れるだけの知的アセットがないことに加え、ビジネスケースよりも筋の良し悪しが判断しづらいものであるため、あえて出題する面接官は非常に少ないと思われるからです。
一方でビジネスケースの方は、大きく4つの出題パターンがあります。
①売上向上シナリオ(確率80%)
②利益改善シナリオ(確率10%)
③新規事業検討シナリオ(確率5%)
④M&Aシナリオ(確率5%)
売上向上シナリオ(成長戦略)
最頻出のパターンです。考えるべきことがある程度明確で、解法がある程度確立されているので、候補者の抜けモレをチェックすることが容易だからです。フェルミ推定とセットで出題されることも多いです。
例題:ある地方の水族感の売上が年々減少傾向にある。売上向上のための施策として何が考えられるか?
初期仮説を作る
まず検討すべきことは、なぜその水族感は売上が年々減少しているのか?ということです。売上が減少する要因としては、①市場全体が縮小している、②シェアを落としている、③その両方の3パターンです。
まずはこの原因に触れることが必要です。
ここの原因仮説によって取るべき戦略が大きく変わってくるため、ここの前提条件(初期仮説)を抑えずに議論を進めると、ケース面接としては非常にまずいでしょう。
具体的には、業界の市場規模を経年で見る(できれば直近3年くらいを比較)、特定のベンチマークとなる企業との比較をする、売上増加企業と売上減少企業を特定してその共通項を特定する、といったようなところを述べるだけでも印象は良いはずです。
そのうえで、外部環境分析の視点を持つことが重要です。
PEST分析が最も汎用性が高く、考えやすいフレームワークなのでこれを用いて議論を進めることが良いでしょう。
P(政策的な要素)・・・
・政府や大学との共同研究が打ち切られ、海洋生物の飼育コストが増加したため、収益の柱となっていた生物を手放した。
・地方自治体からの団体法人客の斡旋を受けられなくなった。
・用地買収によって、一部の施設を閉鎖する必要があった。
E(経済的な要素)・・・
・その地域の住民の所得水準が低下している。
・1人あたりレジャー支出総額、もしくは水族館への支出割合が減少した。
S(社会的な要素)・・・
・周辺の小学校等からの需要がなくなった。
・商圏人口(特にファミリー層)が減少した。
・社会的なイベントや事件、感染症によってレジャーを回避する風潮。
T(技術的な要素)・・・
・SNSの広告によって周辺ニーズが他に流れている。
・WEBサイト等の集客ツールが相対的に弱く、集客が弱い。
・広告媒体を従来の新聞等に依存し、ネットを活用したマーケティングができていない。
このように色々売上減少の可能性があるということを示した(幅出し)うえで、自分なりに初期仮説を構築(絞り込み)していきます。
施策の方向性を検討する
売上向上の施策として、客数を増やすか、単価を上げるしかありません。
いわゆる因数分解をしていき、売上向上のバリュードライバーを特定していきます。
※+は構造化した階層を表しています。
+客数を増やす
++ユニーク来場者数(純数)を増やす
+++商圏人口を増やす
⇒商圏人口を増やすことは、一企業の施策としては不可能なので、除外します。ただし、これを言及することは重要です。言及していない=考えられていないと捉えることが多いです。
+++商圏人口のうち水族館に来場する割合を増やす
⇒これは主にファミリー層や若年カップルといった従来のターゲットユーザーの他に、男性グループや女性グループ、シニア層といった新たな層を開拓するという意味です。なかなか難しそうだな、というのは感覚的にわかると思います。
++来場頻度を増やす
+++他レジャーから奪う
⇒原因の初期仮説にも依りますが、映画館やテーマパーク、キャンプ、温泉といった他のコンテンツに流れている客を取り戻すという方向性です。
+++来場目的を多角化する
⇒水族館に来る目的(=海洋生物の展示やショーを楽しむ)を色々用意することで、何度も来るように仕掛ける方向性です。
+客単価を上げる
++チケットで単価を上げる
⇒基本的に値上げをできる場合は付加価値の向上とセットです。一部価格の弾力性が低い商材であれば値上げは可能かもしれませんが、基本的に値上げをメイン施策とすることはないです。
ただし、言及することは重要です。
++物販・飲食で単価を上げる
+++顧客の滞在時間を増やす
⇒基本的にテーマパークなどのレジャー施設においては、顧客の滞在時間に比例して支出する金額も増えます。
USJやディズニーランドで何も飲食しない人は稀ですし、映画館であれば何も買わないという人も多いと思います。
+++単位時間あたりの支出額を増やす
⇒何か買いたくなるような仕掛け(マーケティング)や買うためのスポットや動線を用意するといった方向性です。
課題仮説を検討する
初期仮説に応じて議論を展開していくことになりますが、ここでは「他のレジャーに客を奪われている」、「顧客の滞在時間が減少or増えていない」という前提を置いてみます。
他のレジャーから奪うといった方向性を深堀する前に、なぜ他のレジャーに需要が奪われているのか?という原因を考える必要があります。
コンサルに限らず世の中の仕事は課題解決で成り立っている部分が大きいので、課題を明らかにせず施策を立案することは、通常ありえません。
課題仮説①
「なぜ他のレジャーに顧客を奪われているのか?」
・ひと昔前と違ってレジャーが多様化している一方で国民一人当たりレジャー支出額は変化しておらず、財布の奪い合いが激化している。
・相対的にコンテンツとしての魅力が低下しており、飽きられやすいレジャーとなっている。
・基本的に見るだけであり、大人は娯楽として物足りなさを感じる。
・営業人員が不足して法人営業が弱体化した結果、地元の小学校や幼稚園の遠足需要が減少している。
課題仮説②
「なぜ来場客の滞在時間は増えないのか?」
・コンテンツの展示数が少なく、館内を回るのに時間を要しない。
・展示や順路の工夫が少なく、最短経路での設計になっている。
・イルカショー等のコンテンツ数が少ない、また1回の時間が短い。
施策に落とし込む
原因と推定されるボトルネックを解決するために何ができるか、をリアリティを持って検討します。
ここで重要な点は、本当にその施策をすることで集客でき、売上が上がるのか?という自己批判の姿勢を持つことです。
ケーススタディとはいえ、ビジネスを扱うものである以上自分自身が本当に売上が上がると思えるようなレベルまで具体化していくようにします。
それぞれの施策について、リスクを同時に考えることも重要です。
ビジネスにはリスクは付き物であり、リスク評価をすることもコンサルタントとしては必要なスキルです。
+来場頻度を増やす
++他レジャーから需要を奪う
施策①
動物触れ合い型の体験型コンテンツを拡充したり、実際に水槽の中で見た生物をそのまま購入できるサービスをリリースしたり、専門的な海洋生物に関する知識の学習コーナーを設けたりすることで、大人も物足りなさを感じないような魅力を作る。
※リスク
設備投資が必要なこと、体験型コーナーでは人件費や安全管理コストが上昇すること。
+物販・飲食で客単価を上げる
++顧客の滞在時間を長くする
施策②
展示の順路を工夫して総距離を長くすることや、キャッチーな大型水槽を館内の一番奥や上階に設置して、休憩できるスペースを設けたうえで、軽食やドリンクを購入できるポイントを充実する。
※リスク
大規模水槽や休憩スペースが無い場合は莫大なコストがかかること。
本来は実現可能性や想定効果(売上へのインパクトの大きさ)、効果発現のタイミング、リスクを考慮して施策の優先順位付けまで行いますが、そこまで実施する時間的余裕はあまりないでしょう。
基本的に幅出しして、絞りこむ、というプロセスを網羅的に実施することがポイントです。
よくある因数分解して思いつきの施策を提示するという流れは、仮説という一番重要な考え方を無視していますので、市販の参考書等を盲目的に暗記することはおすすめしません。
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