誰も教えてくれないコンサル転職の心構え~ケース面接の考え方②利益改善シナリオ
利益改善シナリオ
利益増加にはコスト削減が近道
再生系のコンサルティングファームや戦略系コンサルティングファームの一部において、利益改善シナリオでのケース面接の出題があります。利益改善系は考えることが多く難しいという印象があるようですが、利益改善はケース面接に限らずやることはある程度決まっているため、知識があれば対応しやすいと思われます。
そもそも実際の企業経営においても、企業再建や事業再生の文脈においては利益改善のためには売上向上よりもコスト削減の方が手っ取り早いです。
トップライン向上に関しては市場の状況や外的環境にも影響されますし、人員採用や店舗拡大等の投資も必要になるためROIの視点も重要になることから、経営者としてはその見極めが非常に難しいこともよくあります。
一方で、コスト削減については基本的に固定費・変動費を削減するだけなので、聖域へのメス入れやモチベーションマネジメントなどを除いて非常にシンプルかつ利益インパクトも大きいという認識です。
利益の悪化原因を分析する
例題:あるキャンプ用品店が利益率の悪化に悩んでいる。利益向上のためにどのような施策が有効だと思われるか?
いきなり施策を考えるのではなく、まずは利益率が悪化している原因を仮説ベースで検討していくことが必要です。
また、利益向上の定量的な目標(5年後に10%の利益率向上を実現する)を確認することも重要なのですが、ケース面接において厳密な数値目標を設定することはあまりないですし、そんなことまで実施しようとするとキャッシュフローのシミュレーションが必要ですし、そんな時間もないことが多いです。ただ資料分析等のケースであればあり得ます。
利益率=営業利益 / 売上高ですので、利益率悪化の原因は営業利益の減少か売上高の減少しかありえません。
※面接において経常利益までスコープにすることは稀です。
①営業利益の減少
売上高が一定であると仮定すると、営業利益の減少は営業費用の増加です。
営業費用は売上原価、販管費など本業に係るコスト項目です。
営業外費用は支払金利など本業以外に係るコスト項目です。
②売上高の減少
売上高は販売数量と販売単価です。
①もしくは、②もしくは、その両方が考えられますが、真の原因は何か?というところを突き止めるには市場全体を広く俯瞰することが重要です。
ここで簡単に外部環境分析/市場分析をしてみます。
キャンプマーケットは過去10年くらい緩やかな増加傾向だったが、コロナによる渡航制限や密回避の政策・社会的情勢を期にに急拡大した。もともと存在していたコアなキャンパーに加えてブームに便乗したライト層がキャンプレジャーに参加するようになり、急増した需要に応えるべく商品仕入れや生産能力の拡大、販売網の拡大などサプライチェーンを肥大化させて急成長した。インフルエンサーによるYoutube等のSNSでの拡散によってマーケットが増大した。
しかし、コロナが終息して他のレジャーが営業再開すると一気に顧客が流れてライト層が激減したため、販売量が落ち、拡大したサプライチェーンの稼働率が悪くなり売上高に占めるコスト比率が高くなり収益性が悪化した。
上記の仮説に基づくと、売上高の減少とコストの増大という窮地に置かれているという状況が浮かび上がります。
コストを削減する
冒頭にも書きましたが、利益改善はコスト削減に着手することが鉄則です。
(事業再生のシチュエーションにおいては、まずはキャッシュを確保することが必須であるため、当面の資金繰りを最優先します。)
コストは固定費、変動費に分けて議論を展開することが伝わりやすいです。
まず固定費については本社オフィスや店舗維持費、固定人件費、水道光熱費(製造に係る光熱費は製造原価)、減価償却費に分けると良いでしょう。
変動費は、原価と販管費に分けられ、販管費は販売費、営業人件費、広告費、保険料、役員報酬等があります。
これらを減らします、という回答は答えになっておらず、もう一歩踏み込んで具体的にどう減らすのか、まで言及することが重要です。
+固定費を減らす
++本社オフィスや店舗維持費を減らす
・まず都心の一等地にオフィスを構えているのであれば、二等立地へ移転することでテナント料を削減する。
・店舗については、収益性の低い不採算店舗はクローズさせたり、稼働率の悪い駐車場等のハードインフラがあれば売却する。
++固定人件費を減らす
・本社間接部門や製造・販売部門のリストラを含む人員削減やボーナス削減などを実施する。
ただしモチベーションへの配慮等人材のリテンション策は極めて重要。
++減価償却費(償却対象の固定資産)を減らす
・生産ラインを統廃合して拠点を集約して、余剰生産設備を売却する。
・カスタマーサービスやサポート部門を統廃合する。
・物流・営業拠点を統廃合して共同倉庫や共同配送へ切り替える。
+変動費を減らす
++売上原価を減らす
・インフレや円安による原材料費高騰は制御不能だが、仕入先の選別や大量購入によるディスカウントで限界費用を下げる。
・原価計算にABCを導入するなど、管理強化、責任体制を構築する。
・製造の能率差異、価格差異を減らす。
・製品ラインナップのうち収益性が悪い商品を削減して、SKU(Stock keeping unit)最適化を図る。
※ただし今後の成長戦略を鑑みて、何を削り、何を残すかを判断することが重要です。その意味で、コスト削減策と成長戦略策は同時進行で実施するのが好ましいでしょう。
++販管費を減らす
・営業活動や販売に係る諸経費を統制し、精算ルールを厳格化する。
・広告媒体と流入結果を分析し、費用対効果の悪い広告出稿をやめる。
・店舗オペレーションの最適化、効率化を実施することでアルバイト人件費を削減する。
・保険料等の見直しを行う。
売上拡大策を描く
次に、売上拡大についても言及する必要があります。
ただし、単純に販売量と販売単価の向上策を羅列するのではなく、冒頭で構築した仮説をベースにしないといけません。
そもそも既存のビジネスモデルで利益が悪化したのですから、また同じ枠組みの中で販売数量と単価に関する議論をしてもあまり意味がありません。
このケースでは、今後この企業はどこで戦うべきなのか?という視点を持つことが重要です。
ブームが終わってピーク時に比べて激減したキャンプマーケットが今後急拡大していくことは当面考えにくいことはある程度想像できます。
また、中長期的に国内人口が縮小していくことが確実ですので、国内マーケットにおいて再建を果たしてもビジネスがスケールしていくことはあまりなさそうです。
一方で、これまで培ったブランドや商品開発力、自社ECサイトといった強みがあるため、キャンプから派生した商品・サービス開発と流通ノウハウについては有効に活用することが可能だと想定できます。
+国内市場で新規サービスを展開する
++コアなキャンプファンをターゲットとして、キャンプ場において道具のお試しサービスやレンタル・買取サービスを開始する。
++すでにあるブランドを活用して、キャンプ以外の日用品(文房具やオフィス用品)やアパレル(機能性やファッション性をより重視)分野に参入して、自社ECサイトやコンテンツマーケティングで拡販する。
+海外市場でキャンプ用品を販売する
++今後も人口増加や所得増加が見込まれる東南アジア等の海外マーケットにおいてキャンプ需要を開拓して商品販売を行う。
++既にキャンプ文化が定着している国や地域では、現地の企業や商社とジョイントベンチャーを設立してシェア拡大を行う
因数分解では対応できない
ここまで見てきたように、まずは客観的な事実や観察事項に基づいて仮説を構築し、それに応じたコスト削減と売上拡大策を考えていくことが必要です。
今回のシナリオにおいて、売上拡大施策について販売数と販売単価に細かく分解していくことは無意味であり、より広い視野で考えていくことが重要です。
そうした既存のビジネスモデルをベースにして議論を展開していった後に、「それができれば利益率下がってませんよね?」と突っ込まれます。
なぜ?の思考で真の原因に迫ること、そして現実的な施策を検討すること、
これを意識するようにすると回答の精度が高まります。
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