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誰も教えてくれないコンサル転職の心構え~ケース面接の考え方③新規事業立案シナリオ


新規事業立案シナリオ

ケース面接における前提

新規事業立案シナリオは出題率5%程度という感覚ですが、全くないわけではないです。
短時間で新規事業の構想を検討して、現実的なビジネスモデルを構築することは経験を積んだコンサルタントでも難易度が高いので、ここで問われていることは、基本的なビジネス知識を有しているかや論理的な思考ができているか、という準備面や素質面を評価していると考えるのが妥当でしょう。

コンサルティンファームで実際に行う新規事業立案のケースは、ほとんどの場合ある企業の一部門をクライアントとして、成熟期を迎えた(もしくは迎える直前)の市場において次の一手を検討する、というものです。

したがって全くゼロベースで事業構築する起業家ではなく、ある程度アセットを有する企業がクライアントだという前提を置くことになります。
そもそもスタートアップの創業時にコンサルをつけるような起業家はレアケースです。


基本的なフレームワーク

例題:ある業界で今後5年間で年商10億円のビジネスを構築するにあたって、どのようなことを検討する必要があるか?

基本的な考え方として、新規事業立案の場合には川上事業や川下事業に参入して垂直統合していく方向性が鉄則です。
またアンゾフのマトリクスでいうところの、事業の多角化がこれにあたります。通常、多角化は難易度が高いためトップライン向上においては、スコープアウトさせて考える方が楽になりますが、事業開発がそもそも難易度の高いことですので、この領域に取り組むことになります。

新規価値提供についても新規事業のように思えるのですが、この象限に関する一般的な解釈としては既存サービス・商品の品質向上やラインナップ充実であって、事業戦略の位置づけではありません。

アンゾフのマトリクス

また、10億円という定量目標を考慮することが必要なので、どの程度の規模感なのかを軽く推測しておくことも重要です。
10億円という数字ですが、これは10人(法人)が1億円を支払うビジネスなのか、10,000人(法人)が10万円を支払うビジネスなのか、はたまた1億人の国民全員が10円を支払うようなものなのか、で検討する方向性が全く異なってきます。
漠然と10億という数字を捉えるのではなく、どういう意味を持つ数字なのかを自分で考えておくことも、解像度を上げていくために必要です。

こうしたことを念頭に置きながら、以下のステップで検討します。

①市場環境分析

②競争優位性の構築

③リスク


①市場環境分析

まず重要なことは、進出しようとしている業界・マーケットの市場環境をよく理解する必要があります。
このステップは一番最初に実施する事業Due Diligenceとして重要です。

・外部環境(市場全体に影響を与える要素)分析
PEST分析やSWOTのOpportunityやThreadについて分析することが基本です。
税制改革や規制緩和、補助金といった政策的な要素や、インフレ、金利上昇、国民可処分所得といった経済的な要素、人口動態や社会イベント、ライフスタイルの変化といった社会的要素、SNSや生成AIの普及、IoT、技術革新などの技術的な要素を、業界に関連する範囲で分析していきます。

・顧客・競合を含む市場全体の分析
✓市場規模・・・
参入しようとしている業界が10億円に満たない場合、そもそも目標値までスケールしないビジネスになる可能性が高いため、どれくらいの市場規模があるのかを販売数量ベースや金額ベースで知ることが重要です。

✓市場のトレンド・・・
新規事業立案に限らずですが、プロダクトライフサイクルとしてどの状態にあるのか(成長期、成熟期、衰退期)によって取るべき施策は異なります。
例えば、成長期においてはモノは作れば作るだけ売れるため拡大戦略が有効ですが、成熟期や緩やかな衰退期においてはマーケットシェアの奪い合いになるため差別化戦略が求められます。

✓競合及びパートナー・・・
マーケットにはどんなプレイヤーがいて、どのようなシェア構造になっているのかをよく理解することが重要です。
圧倒的な首位企業(一般に40%のシェアがあれば盤石な首位企業といえる)が存在するのか、多数のプレイヤーがシェア数%で凌ぎを削る競争市場なのか、競合各社はどのような強みや特徴を持ち、どのような差別化をしているのかについて理解します。

またパートナーとなりうるプレイヤーを特定しておくことも有効です。
パートナーとは6forces' modelにおける補完者のことで、例えばフードデリバリー業者であれば商品を顧客に届ける配達員は最重要パートナーですし、口コミサイト等であれば口コミを記載する消費者は顧客であると同時にパートナーでもあります。

✓顧客・・・
マーケットにおける主要な買い手(ユーザー)はどのセグメントなのかを知る必要があります。
デモグラフィックな指標(年齢や性別、婚姻状況)とサイコグラフィックな指標(価値観や趣味、ライフスタイル)がありますが、どのような特性のユーザーが何を買っているのか、主流となる購買スタイルはどのようなものか、を理解します。

・バリューチェーン構造
価値提供の一連の流れ(フロー)をバリューチェーンといいますが、おおまかに需要サイドや供給サイドのバリューチェーンに着目して、自社はどこに入りこむべきなのか、という視点を持つことも重要です。

上記のような一連の市場分析を経年で比較することも重要です。
なぜかというと、市場規模や競合や顧客などの数値データは比較することで初めて意味を持つからです。単なる数字があっても、比較対象がなければその数字は拡大したのか、縮小したのかが不明ですし、顧客のライフスタイルや技術革新の状況も経年で見ないと変化の度合いや方向性が掴めないため、分析としての有効性が小さいからです。


②競争優位性の構築

①の市場環境分析を踏まえたうえで、どのようにして市場で勝っていくのかを決めます。

・ターゲットユーザーは誰か?
ビジネスにおいて総花的なターゲティング(全方位戦略)は筋が悪いですし、それはリーディングカンパニーのみが取り得る戦略です。新規参入していくチャレンジャー企業は、セグメントを絞って差別化戦略を行うのが定石です。(STP)

・どんな価値を提供するのか?
この時に重要な視点は、現在どんなユーザーがいて、彼らが抱えている課題(=不)は何かということです。
スマートフォンのように今までに無かったものを作ろうとする必要はなく、コンサルタントは課題解決の仕事に専念すべきなので、既存の商品・サービスの課題を特定することが普通ですし、検討しやすいでしょう。

例えばコロナ禍におけるホテル業界への参入ケースにおいては、対面型のチェックインに対する心理的な抵抗がユーザーの課題として想定できるため、非接触チェックインサービスの導入というのも有効ですし、輸送業界のケースであれば陸海空運ともに稼働の効率性を高めることは共通の課題としてありそうなので、ローカルでのスポット輸送やto C向けのデリバリーサービスを展開することもできそうです。

・競争優位のポイント
誰にどんな価値を提供するのかを検討した後に、それを自社で行うための競争優位の源泉は何か?という視点も必要です。
これは、クライアントが有するユニークなアセットをベースに考えることが必要です。
例えば、市場での採用力が高く有能なタレントが安定的に供給されることや、特定の企業や業界とのパイプが強いため流通や販売チャネルに支配力を持つことなどが強みとして挙げられます。


・ビジネススキームとステップ
ターゲットユーザーと提供価値、そして競争優位の根拠が特定できたら、具体的なビジネスローンチの方法を検討します。
スキームについては、金流・商流・物流を決定します。
すなわち、どのようにサービスの源泉を調達して、どのようにターゲットユーザーに届け、どのようにマネタイズをするのか、キャッシュポイントはどこに置くのかということを検討していきます。

ステップについては、ローンチ初年度にはリスクを最小限にしてスモールスタートすることが鉄板です。
新商品や外資の新規参入においては、いきなり全国展開するのではなく、特定の地域に限定してスモールスタートすることで改善点を洗い出し、改良を加えてから一気に展開するという手法もよくあります。


③リスク

忘れがちなのはリスクです。
企業に対してコンサルティングサービスを提供する以上、どれだけ革新的なアイデアであってもリスクが極めて大きい提案は避けた方が無難です。
コンサルティングファームはその提案に際して、極限までリスクを減らして90%以上の確度で成功するだろうレベルまでブラッシュアップすることが求められますので、リスク分析、リスクマネジメントという視点は非常に重要です。
一方で起業家はリスクを取って事業にコミットする必要があるため、コンサルタントの多くが起業・独立で成功できないのは、リスクに対する感応性が全く異なるというのもあるかもしれません。


・ノックアウトファクターは無いか?
医療や金融などのライセンス規制が強い業界や、通信・放送などの許認可制の業界については参入したくてもその障壁は非常に高いでしょう。
また中国市場等での外資規制がある場合は、たとえ魅力的なマーケットが存在していても、参入が不可能という場合もあるかもしれません。
こういったノックアウトを特定して、それを避けることはまず重要です。

・他事業とのトレードオフ
新規サービスを提供することで自社の既存サービスと競合することにならないかどうか(カニバリ回避)、垂直統合する局面で既存のサプライヤーや代理店と競合関係になることにより、安定的な供給やチャネルの使用ができなくなる可能性はないか、といった検討をします。


・ファイナンス
新規サービスを実施するにあたって、どの程度初期投資が必要なのか、市場から調達するのか、借入ができるのか、有利子負債の増加は許容範囲かなど資金の工面は必ず必要です。


・顧客の離反
新サービスの提供によって既存の顧客が離反しないかどうかも気にするべきポイントです。例えば有名ブランドが別レーベルの低価格帯ブランドをローンチするときに、安売りしないブランドポリシーが好きだった顧客はイメージ低下を嫌って離反してしまうかもしれません。こうした離反は一定数起こるものとして、どれくらいなら許容できるのか等のシミュレーションも重要なタスクになります。


検討すべき要素を羅列してきましたが、こうしたフレームワークを特定業界に当てはめて考えていけば、ある程度のレベルの新規事業アイデアは導出できるかもしれません。

そもそも綿密な収益シミュレーションは不可能なので、検討すべきポイントを押さえているか、課題の特定はできているか、リスクを考慮した現実的な打ち手を出せているか、という視点をクリアすれば問題ないでしょう。









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