「マッタナシ」は「待ったなし」?ニンジャスレイヤーにおける言語カタカナ化法則

1 始めに


 ニンジャスレイヤーにおけるカタカナ表記は忍殺語の中核を成す要素の一つと言えるの存在である。「アイエエエ!ニンジャナンデ?!」「ドーモ、〇〇=サン、××です」等、人口に膾炙した表現も少なからずカタカナ表記化した表現が用いられていることからもそれは明らかだろう。一方でそのカタカナ表記の生成法則の確かな定義は寡聞にしては未だに目にかかれていない。
 本稿はこれから新たに二次創作を始めんとするヘッズやエミュレート精度に悩むTRPGマスター、何よりこれらの分野を研究せんとするニンジャ研究者各位のため、現状筆者の知見から推測し得た限りのカタカナ表記の法則をまとめたものである。忍殺語の法則を論じるため、造語への文字あてや固有名詞の強調等、現代日本語でも見られる特徴については本稿では取り上げずに進めさせていただく。
 これはあくまで筆者の私見からの推測に過ぎず、公式の見解ではないため、いかなるDIY活動に対しても拘束力をもたず、また内容の正確性に筆者の拙い知見以上のいかなる保証も持たないことを留意頂きたい。

2 本論  形骸化と意味の再付与を表すカタカナ表記


 結論から述べると忍殺語における奇妙な「カタカナ表記」は意味が形骸化した定型句の平坦な発音を再現したものであると推測できる。「待ったなし」が「マッタナシ」になる過程で元の意味を喪失して「ポイントオブノーリターン」のような意味を獲得したように、元の意味を喪失して1単語として認識されるようになった成句の平滑な発音をこのカタカナ表記が表現しているのだと考えられる。そうと考えうる理由をこれから説明していこうと思う。
 そもそも日本語に限らず、およそ言語とは意味情報に発音が影響を受けるものである。例えば「カミノメグミ」と発話した場合、「神の恵み」という意味で発話するのと「紙の恵み」という意味とでは発音が異なる。これは発音を文字に起こすとおよそ同じものに見えても言葉が伝達したい情報が異なっているがため、文節を構成する単語が異なっているからである。これらの情報は発音の微妙な差異やイントネーションによって話し手から聞き手に伝達されてゆき、聞き手は言語から情報を取得する。これらを滞りなく取得できた場合、聞き手は話し手から受け取った情報を発話で再度伝達できるだろう。ではこの情報取得がうまく機能しなかった場合はどうだろうか?「カミノメグミ」が「神の」か「紙の」かがはっきりわからなかった場合、発音もまた再現が難しくなると言えるのである
 通常の発話においてはこのプロセスはおよそ滞りなく進行し、話し手と聞き手の間で情報がほぼ完璧にやりとりされるため、このようなことはあまり頻繁には起こらない。しかし成語、定型句では事情が異なってくる。
 
定型句は決まった一定の単語の塊に、その塊が生まれた背景等の非言語的情報を共有している者同士で用いることで、その背景情報を言語に上乗せすることができるというものだ。故事成語の「朝三暮四」が「朝に3、日暮れに4」という文字上の意味情報から「口先のごまかし」という意味を伝達できるのも「故事」というバックグラウンドを共有しているからであろう。では逆にこのバックグラウンドを共有していない者に定型句を用いたらどうなるだろうか?その場合この言語の持つ意味は十分に伝達できず、また意味に依拠する発音もまた不確かになってくると言える。そして定型句や故事成語は、通常の単語や文節よりもより多くの背景情報の共有を必要とし、この伝達不全が起こりやすいと考えらえる
 ここで忍殺語に話を戻したい。ニンジャスレイヤーにおけるカタカナ表記は多くが定型句に用いられている。「アブハチトラズ」「マッタナシ」「ハジメマシテ」等、例を挙げれば限りがない。そしてこれらは皆、「意味情報の伝達不全が起こりやすい定型句」なのである。つまり、これらの言葉は皆発音情報が伝達不全を起こしている可能性が考えられるのである。
 以上のことから、忍殺においてカタカナ表記化される言葉は「発音情報が完全に伝達していないほどよく用いられ、意味や発音が変質した定型句」であると考えられる。ではどのような定型句がニンジャスレイヤー世界において「変質した定型句」となっていると考えられるか?この点について正確な判別には更なるニンジャ社会学的研究を待たなければならないだろうが、現時点では「ネオサイタマの社会において用いられる機会の多い定型句」であるかどうか、また「皆があまりよく知らず伝達不全が起こりやすい定型句」そして「使用頻度が特別高く変質が起こりやすい定型句」が判別の基準となるだろう。よく用いられるアイサツの「ハジメマシテ」、危機的状況の「マッタナシ」、元の意味を想像しにくい「ハゲミナサイヨ!」等がこれらにあたるだろう。

3 結びに


 今回は駆け足ながら忍殺語におけるカタカナ表記化についての類推を行ってみた。本稿は当然ながら完全とは言い難く、AoMの多彩化した状況においてはさらなる分析を要する興味深い現象も観測されている。

「死にたいのか? もはや待ったなしだモータルよ。このまま放置されれば私とて危険だ。諸共にオシマイだぞ」

『プラグ・ザ・デモンズハート』より

 以上のように「マッタナシ」ではない「待ったなし」が用いられながら「オシマイ」のようなカタカナ表記が混在しており、さらなる分析が待たれる。
 本稿を契機にさらなる議論が生じ、新たな発展がもたらされることを祈って結びとさせていただく。


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