サンタ・ニンジャ憑依ニンジャ説に対する3の反論
1 始めに
昨今のニンジャ学会におけるサンタクロース・ニンジャ(以下サンタ・ニンジャ)議論の高まりは探求の徒の一人たる自分を大いに刺激し、知識深淵の探求者庶子の建てた学説の数々は常に私の目を開き、新たな段階に導いてきた。この分野の発展を願い未熟を晒す心持で拙著を公開した筆者としては望外の報酬を得たような喜びを抱いている。
しかし、その中に一つ、無視できない誤謬を孕んだ学説が生まれ、受けるべき先達の導きを得ぬまま一人歩きしているのを最近目にする。産みの親の責任を自称することの傲岸を承知の上で、この説が抱えたいくつかの問題点を指摘し、彼らの説の正しき発展を願うために今回筆を執ることを決意した。
2 「サンタ・ニンジャ憑依ニンジャ説」のおさらい
本題に入る前に、今回の説がいかなるものかを軽く説明しておく。見識の深遠に至るヘッズ庶子の中にはすでに浅学の私より本説に詳しい方もおられようが、今や広く開かれた学問の扉を閉じぬため一時お付き合い頂きたい。
ことの起こりは資料研究の中からだった。サンタクロースこと聖ニコラウスの伝承を纏めた子供向け書籍複数が、異口同音にこのような内容を語っていたのが発見された。
「聖ニコラウスが10代の頃、貧しい家の娘3人が貧窮によって身を売らなければならない事態に陥り、それを救うために彼が『夜中に、頭巾のついたマント姿になって』彼らの家に数夜に渡って金貨を投げ込んで彼女らを助けた。それがのちに伝わるサンタクロースのプレゼント伝承の走りの一つとなった。」
ここに含まれる1つの情報に憑依ニンジャ論者は強く惹きつけられた。それは「夜中に、頭巾のついたマント姿になった」という点だ。この記述にはヨルイチ(2008)が指摘した典型的なニンジャ化、ニンジャ装束の暗喩が多数含まれている。頭巾という頭を隠す格好がメンポ、マントという体全体を纏う衣装は装束、そして夜中はニンジャの暗躍する時間帯でもあるウシミツ・アワーを示しているとされることから、これは聖ニコラウスがこのとき「ニンジャになった」という内容を暗示した伝承であると憑依ニンジャ論者は主張している。この一件が聖ニコラウスの伝承における最初の目立った活動であることも、彼らを後押ししている。
3 憑依ニンジャ説への反論
3-1 憑依ソウルの元が不明である
いうまでもなく憑依ニンジャであるならば、聖ニコラウスになんらかのニンジャソウルが憑依したことになる。そして憑依ニンジャが憑依したソウルの影響を受けてジツやカラテを選択することから、サンタ・ニンジャに類するジツを有したリアルニンジャ、それも死亡したリアルニンジャの存在がこの説には不可欠となる。しかし現在、サンタ・ニンジャに類するジツや逸話、即ち「クリスマスの一晩で世界中の子供にプレゼントを配って回った」「トナカイがひくソリで空を飛んでいる」といった情報を持つニンジャは一人も確認されていない。これからの研究でそのようなニンジャが発見されるか、伝承解釈の変化で合致する、または類するものが見つかるかしない限り、この点は解決されないだろう。
3-2 資料解読が多面的でない
彼らの資料解読を恣意的であると謗ることを避けるためこのような表現をとらせていただいたが、実際のところ先に記した資料解読は些か憑依ニンジャ論に固執した色眼鏡を通したものだと言わざるを得ない。なぜなら彼ら折に触れて引き合いに出すヨルイチ(2008)の暗喩分析には、彼らが引用した以外の例が存在しているにも関わらず、上記の例のみを強調的に扱っているからだ。以下に当該の暗喩分析論における問題の部分を抜粋する。
『故に纏うだけで即座に着ることのできるマントは、装束を生成して一瞬で纏うことを暗示するのに極めて合理的であり、メンポを暗示できるフードつきのものは特に重宝された。そしてこれは転じて即座にニンジャを象徴する姿になることから、ソウル憑依やカイデン儀式を経てのニンジャ化現象の暗喩にも用いられる。』
御覧の通りフード付きのマントを纏うという行為自体は、原文ではあくまで「装束生成」を意味する暗喩であり、ニンジャになるというのは派生的な用法に過ぎないというのが論旨である。それを無視したニンジャソウル憑依現象への暗喩一本化は、正確性を欠いた読解であると言わざるを得ないだろう。
またそもそもの伝承記述自体にも、憑依ニンジャ化を疑わせる記述がある。それは彼の身体能力だ。資料には聖ニコラウスはフード付きマント姿で金貨を投げ入れた後の晩に、救い主を知りたがった娘たちの父親が夜中に施しの訪れを待ち、即座に出てきて逃げるニコラウスを捉えたとある。これによって聖ニコラウスの行いが後世に伝わったのだと資料には記されているのだ。聡明なる読者庶子には明らかなことと思うが、モータルが憑依ニンジャを追いかけて捉えるなどということは不可能である。ソウル憑依と同時にニンジャ身体能力を手に入れたであろう憑依ニンジャが、ただのモータルに徒捉えられたと考えるのは、あまりに現実的でないだろう。
以上のように、彼らの資料解析は、十分な多面性・公平性を有しているとは言い難く、それに依拠する彼らの論もまた同様であると言える。
3-3 ソウル憑依現象の発生条件不一致
ニンジャソウル憑依によるニンジャ化現象は今日においてはありふれた現象となりつつあるが、本来はそう起こりうるものではない。憑依現象が起こるのはまず、バトル・オブ・ムーホン最後のハラキリ・リチュアル以降であると考えられる。所謂ニンジャソウル憑依現象で憑依するニンジャソウルがアセンションした最古の例がこれだと考えられるからだ。
オヒガンの現実世界時空に対する斜めな交差によって、ソウルのアセンションはハラキリ・リチュアル以前のソウルでも起こっているのは確認されているが、ディセンションについては未だ一般例は確認されていない。(ナラク・ニンジャの例はニンジャソウル憑依ではあるが、オヒガンを経由していない可能性があるため、この例からは除外した)よってニンジャソウルのオヒガンを経由した憑依現象は、あくまでハラキリ・リチュアル以降であると考えるべきだろう。しかし聖ニコラウスは紀元3~4世紀の人間であるとされており、平安時代と江戸時代の間にあったバトル・オブ・ムーホンの最後に行われたというハラキリ・リチュアルの発生より後の人間であるとは考えにくい。このことから、聖ニコラウスがこの瞬間にニンジャソウル憑依を受けたと考えるのは不自然であると言える。
4 結びに
このような点から、「サンタ・ニンジャ憑依ニンジャ説」は現在未だ弱い論拠に基づいた不自然な学説であると言わざるを得ない。しかし誤解しないでいただきたいが、筆者は何もこの学説を抹消するためにこのような論駁を繰り返したのではない。むしろこの学説の斬新な視点と、これが肯定された際に開けるさらなる探求の可能性に、初読時は胸を躍らせたものだ。
しかし弱い土台に建てられた建造物はいかに構造を補強しようと、その土台弱さゆえにいずれ崩壊の憂き目を見ることになる。これはそのまま学説にも当てはめられる。そして学説が崩壊するということは、この可能性を追求する研究者が激減することをも意味している。それはこの斬新な学説を通して歴史を紐解き直す人間が減り、それだけニンジャ真実解明の機会を喪失することに他ならない。
筆者はむしろそういった学説の崩壊を招く土台の脆弱性を今のうちに洗い出し、この反論をたたき台にしたさらなる憑依ニンジャ説の発展を祈っているし、それが可能だと確信してもいる。事実筆者は既にここに挙げた反論に対しいくつかの合理的な答えと、合理的な答えを生み出しうる可能性のある説を自らのうちに見出しつつある。この論を主張する探求者達が筆者同様にこの問題を克服し、強固な土台に建てられた新たな「サンタ・ニンジャ憑依ニンジャ説」を誕生させてくれるよう心から願いつつ、結びとさせていただく。
5 参考文献
サンタクロース関係
1988 ロビン・クリストン 著 尾崎 安 訳 「サンタクロースって、だあれ?」 教文館
2015 ジョゼフ・A・マカラー 著 伊藤はるみ 訳 「サンタクロース物語 歴史と伝説」 原書房
ニンジャ関係
2008 ヨルイチ・ダケダ「黒衣とニンジャ、星とスリケン~世界伝承におけるニンジャ暗喩基礎理論~」バンブー書房
2001 Brandon Bond, Hidden history of NINJA. Lucky Press
2016 レイモンド・アラキ 「ニンジャソウル憑依現象に対する諸考察」 ダイザキ出版
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