【美術ブックリスト】 『アーティストになる基礎知識』(BT BOOKS)
ネットの古い記事を見ていたら、美術手帖で以前「アーティストになる基礎知識」という特集を何度かやっていたと知った。
これはその2回分を合わせて再編集したらしい。
ざっと内容はというと、村上隆とカイカイキキに取材して、そこでどんな「修業」をしているか、初個展までに何をしているかを解説。次に小山富美夫さんがアーティストの自己プロデュースの必要性を説く。プレゼンの道具としてポートフォリオとDMを簡単に解説。コンクールやコンペの受賞者に受賞理由を聞く。審査の様子をレポート。小沢剛、曽根裕、田中巧起、三瀬夏之介らによる海外留学体験レポート。アトリエの作り方。海外の美大事情。辛美沙さんによるポートフォリオの海外共通ルールの解説。確定申告、著作権の基本ほか。ここまでが概要。
ここからが感想。
登場するギャラリーの半分以上が移転していたり、海外のアートマーケットが変動していたり(アートフェアの見取り図は変わったなあ)と、発行から9年たつと、こんなにも状況が変わるんだなあと実感した。
主にコンテンポラリー系のアーティストが体験談を語っている。ただしそれがこれをやれば上手くいくという「具体的ノウハウ」にまで普遍化というかルール化になっていないので、読者の読解力によって得られるものが違ってくると思われる。
プレゼンテーションの項で、アーティストの青田真也さんがギャラリーの青山目黒に「持ち込み」をしたり、増村千鶴さんがニュートロンにアプローチした体験談があるけども、これを読んで、ならば自分もと行動する人が果たして何人いるだろう。あるいはポートフォリオの重要性に気づき、自分なりに工夫することが求められるが、実際に何人が実行しただろうか。
本という媒体の良い点は、著者もしくは登場人物の体験を疑似体験できること。これはリテラシー(読解能力)がある人が読めば、人生を変えるほどの力になる。だがそうでない人にとっては結局他人が体験した、他人の意見であって、自分には関係ないと見なされても仕方ない。そのギャップを埋めるには、アーティストが語る具体的な体験とそれを抽象化しルール化するメタレベルの視点が必要ではないかと思った次第。
そういう意味では参考にはなった。2013年の発行なので情報が古くなっているけども、アーティスト志望の人は読んでおく価値はある。
個人的には、海外留学経験者が異口同音に「人に伝えること」「プレゼン」「ディスカッション」の大事さを語っていたのが印象的だった。つまり作品を作っているだけではダメだということ。これは私の意見とも重なります。
1980円 169ページ 美術出版社