特撮怪獣の泪よ、何処へ ‐後編‐
第七話 <大抜擢>
こうして、TプロとアメリカのRプロとの日米合作を撮り終えたわたしに、Tプロから「次のマンを、是非、瀬﨑でやりたい」という、本当に夢のような話を頂いたのです。
少年時代のヒーロー“U”。
その子供達のヒーローに、抜擢されてしまったのです。
その瞬間、芸能界に対して鬱積していた心の中の暗がりから、眩い光が放たれたのでした!
今度こそ、作品として生涯残るであろう仕事が巡り来たのだ!!
今、思い起こせば、それは、バミューダーから還ってくるなり醒めてゆく夢物語を、すっかり吹き飛ばしてしまうほどに衝撃的な出来事でした。
なにしろ、幼い頃からの憧れの、ヒーローになるのです!!
きっと自分の演じる〝U〟も、それを見る少年にとっては、生涯の思い出として残るに違いありませんでした。
〝U〟にはそんな、いつの時代であろうと、――そのような存在であって欲しい! という、作る側と見る側とで創り上げる力強い姿がありました。
頂いた話では、何年ぶりかの〝U〟だから、Tプロも相当に力を入れるらしい……とのことで、先ず、ゴリラの時のように、全身の石膏取りから始まり(だったと思うが〝U〟の時は顔のみだったかもしれない)、スーツはわたしの体にぴたりと合わせた厚手のダイビングスーツで、三着用意されました。
このスーツを身につけるとき、海パン一つになり、全身にベビーパウダーをまんべんなく擦り込ませて、ぴっちぴっちのスーツを指先でつまみ上げながら身体を潜り込ませてゆく。
潜り込んだら、大きく息を吸い込み、胸を張って……立ち上がり、背中のジッパーを上げられた――そこで、〝U〟になる。
もはや、自分が自分でなくなり特撮中のヒーローと化す。
思いもしない力がそこに漲るのでした。
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