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<連載短編小説>クレヨン・アイ -5
(エピソード-5) 風のことば
――そのころ、
風に運ばれたアイは、風とおしゃべりしながら空の旅をたのしんでおりました。
「ねー、風さん。風さんって、ボクらをひっくり返したあの風さんなの?」
「……ああ、そうだよ」
「ボク……、またみんなのところにもどれるの?」
「さあー、それはどうかな。なにごとかを学んだら、また、よい場所へと運んであげるさ――」
「風さん!
ボクだけ、どうしてみんなとはなればなれになっちゃったの?
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「だれもが、望む場所へと運ばれているのさ。
それは、儂のせいではないのだよ。
大体は、おまえさんの望んでいることが、おまえさんを行くべき場所へと運んでいるのだから」
「ボクには、なにがなんだか解らないんだ。
ボクはどうして生まれてきたの。
何のために?
苦しい思いをするのはなぜなの?
ボクが、なにか悪いことをしたから?
ねぇー、おしえてください、風さん!
ボクは……、
これからどこへ行くの」
「だれもが識る場所さ。
行けば、その答えもすぐに見つかるよ。
そこへ行けば、ほんとうの自分に会えるのだから。
それまでは、いろんな苦しみも味わうが、それは、おまえさんにとって、〝永遠の証〟になるために必要なことなのさ。
これから先、おまえさんは、
いろんな色と交わりながら、
苦しみも喜びも分かち合い、
そして……おまえさん自身に近づいてゆくのだよ。
儂たち自然のものは、そうやって、おたがいに関わり合いながら、どこまでも美しく磨かれてゆくのだから。
――虹を見てごらん。」
「……虹? にじっ……て? どこ、どこにあるの?」
「はははは……、そのうちに見るときがくるさ。
そしたら思いだしてごらん。
虹は、そのことを世界中に告げしらせる〝しるし〟なのさ。
……おまえさんは、
その虹のことばを、人間につたえるために遣わされたのだから――」
「えっ、……僕が!」
「そうだよ。
……人間は、
虹にしるされた秘密のことばを解き明かすために、おまえさんを必要としたのさ。
だから、
おまえさんが心配することは、なにもないのだよ。
おまえさんは……おまえさん自身であれば、それでいいのだから。」
アイは、風のことばに、勇気と希望をもらいました。
「そうなんだ!
ボクは、思うまま、感じるまま、
楽しいことはたのしいって。
嬉しいことはうれしいって。
そして、苦しいことは……くるしいって。
そのことに正直であれば、それでいいんだね。
わかりました風さん。ありがとう――!」
こうしてアイは、海の向こうの、陸の上の草むらのなかに下ろされ、
そこで、風とさよならしました。
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