<連載長編小説>黄金龍と星の伝説 ‐第二章/ふたつの葛藤‐ 第34話
七人の友 -4
星々から新たな力をうけとった男たちは、立ちあがると、朝陽の昇る方角に顔をむけて、颯爽と、その一歩を砂の大地に踏みだしました。
男たちのだれもが、
そこに……宇宙の目を感じておりました。
それから四日目――、
まだ太陽が中天にかかるまえ、
一行は採掘場の見おろせる丘の上に立っておりました。
この採掘場には、第三の階層に属する者たちのなかでもとりわけからだの丈夫な者と、コボル社会に生まれ育った元気のいい若者たちが大勢働いておりました。
ここで掘りだされた鉱石が、ラクダの背に括られ、砂漠のなかを何日もかけて高い塔の街まで運ばれて、
そこで〝マギラ〟の原料がとりだされ、世界中の国々へと売り捌かれてゆきました。
……この原料に人の手を加えることで、
〝マギラ〟は生みだされ、
人間の望むかたちへとすがたを与えられてゆきました。
ここではたらいていたシロによれば、
ラクダ一頭が運ぶ鉱石には、馬の引かない車(エレタクル)数台分にも相当する高価な原石が含まれていて、
そのため警戒は厳重で、
無闇に近づいて撃ち殺された人間の数は知れない。
と、何人もの人間からきかされた……とシロは、身ぶり手ぶりでうったえました。
サムと一行は、少し下ったところに岩穴を見つけ、交替で見張りを立てることにして、水売りの現れるそのときを待つことにしました。
最初の見張りにはシロが立つことになり、サムと男たちは穴の中に入って横になりました。
皆が眠ってしばらくすると、
「キングキング、見てください。
……ロバの背中、」
と、突然ロバの背中をゆびさしたのはナダクルでした。
サムはまぶたを見ひらき、隣に居たロバの背中に目をやりました。
そこには一匹の虫がとまっていて、
サムはからだを起こすと、顔を近づけて、
「蜂ですね。どうしてこんなところに?」
「蜂の吸う蜜が近くにあるのです。待っててください、わたしが探してきます」そう言って、
ナダクルは水袋ひとつを肩に背負い、ロバの背の蜂をそっと追いたてて、そのあとを追いました。
しばらくして戻ってきたナダクルの手には、たわわに実った果実のように脹らんだ水袋がぶら下げられておりました。
その後、サムと男たちは代わり番こに水を汲みに行き、それを命綱に、時のおとずれをまちました。
それから五日目の早朝――、
滲みだす水は底をつき、
ぐったりと転んだ男たちを岩穴にのこし、
サムはひとり、丘の上の見晴らしのよい場所に座って、彼方の地平に目を凝らしておりました。
あたりはめずらしく澄みわたり、夜通しつづいた岩を切り出す音だけが、耳鳴りのように、荒涼とした空間に響きわたっておりました。
採掘場に目をもどすと、
いつのまに開いたのか、門のむこうにラクダの姿が見えました。
コブの両側に大きな荷物をいくつも括りつけられたラクダが、
とぎれることなくつぎからつぎに姿をあらわし、
砂埃を巻きあげながら、ゆっくりとした速度でサムの居るほうへ近づいてきました。
ラクダの数はゆうに百頭を超え、まわりには、肩から銃を提げた三十人ほどの護衛兵たちが、等間隔にならんで馬に揺られておりました。
サムは思いました。
『これだけの人とラクダが、砂漠の中を何日もかけて移動するのだから、
きっと水や食料も大量に持ち出したにちがいない!』
サムは男たちのもとへ駆け下り、
「さぁー、しゅっぱつです!
急いでください――。
まもなく水売りが来ますよ!」
と叫びました。
その声に、男たちはムクムクとからだを起こすと、フラフラになりながら荷物をまとめて、
ヨロヨロヨロヨロと丘の上へと這いあがってゆきました。
ラクダの隊列は、
サムたちの居る丘の近くまで来て右に折れると、
サムたちがやってきた岩かげの方角に隠れて見えなくなりました。
その様子を、腹ばいになって見送りながら、やがて最後のラクダが見えなくなると、サムたちは一斉に立ちあがり、正面に広がるはるか彼方の地平に目を凝らしました。
するとシロが、
「水売りだ――!」と叫びました。
そこには、わずかに煙る一点があり、どうやら砂の舞いあがる跡のようでした。
サムは、
「さぁー、いそぎましょう!
なるだけ砂埃をたてないように、細心の注意をはらって全速力で駆けおりるのです!」
言うなり、
岩肌を蹴って駆け下りはじめたので、男たちも慌ててそのあとにつづきました。
「キング!
なぜ走るんです!
水売りはまだあんなに遠くじゃありませんか。
とてもじゃないが、あんなところまでは走れませんよ!」
ヨーマが叫ぶと、
「丘を駆け下るところを見られたら盗賊にまちがわれます!
水売りに気づかれるまえに、
向こうの岩かげにかくれるのです!」
「しかし、ヨブはどうします――、」
ふり返ると、……ヨブは、
おそるおそる足もとを確かめながら、歩くよりもゆっくりとした速度で動いておりました。
「あれなら、だれに気づかれることもないでしょう。
さー、
われわれは急ぎますよ!」
男たちは、いわれるまま岩の上をとび跳ねました。
ところが、岩場はともかくも、
砂のなかに足を踏み入れたとたん、
渇きと疲労でくたびれた足はたちまち砂にとられて……、
前のめりにつんのめり、頭からすっ転んでしまいました。
しかも、
砂の中から顔をあげると、
なんとそこに、第二陣のラクダの隊列が、
こちらを目がけてやってくるではありませんか!
「キ、キング、どうします。
――護衛兵が来ます!」
隊列の先頭にいた馬たちが、
砂煙をまきあげながら、どんどんどんどん近づいてきました。
「――いいですか、わたしのするとおりに真似てください!」
叫ぶなり、サムは肘のあたりまで服を裂き、ひざまずき、頭を低く垂れました。
それを見て――、男たちも、着ている服を引き裂き、砂の上に頭をこすりつけました。
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