<連載短編小説>クレヨン・アイ 最終回
(エピソード-8) 虹色の秘密
――アイは目覚め、自分のからだを見てびっくりしました。
なぜなら、自分が、あの美しい星や、空と、同じすがたであったからです。
そのときアイは――、
青い色の〝秘密〟を識りました。
すると不意にからだが持ち上がり、上へ上へと昇りはじめました。
「えっ! 風さん? 風さんなの――‼」
顔を上げると、そこに大きな翼が見えました。
「わたしは鷹。
……風の遣いだよ。
おまえさんを迎えにきたのさ。
ずっとずっと上のほうまで昇るから、ふり落とされないようにしっかりと掴まっているんだよ――」
そう言って鷹は、大きな翼をぶんぶんいわせて高い空へと駆け昇ってゆきました。
「……鷹さん、どこへ行くの?」
「もちろん――、
おまえさんのいちばん行きたい場所さ。」
「えっ、ボク……、またみんなのところへもどれるの?」
「は、は、は、は、は――」
*
それより少し前のこと――、
人間も同じように夢を見ておりました。
それは……、
自分がクレヨンになって、
まだなにも描かれていない広大な真っ白なキャンバスの上を一人で歩いている夢でした。
――そこへまず現れたのは、
黄色のソリティでした。
ソリティは、キャンバスの上に立つと、少しとまどいながらも……、
しかしすぐに笑顔になってキャンバスの上を滑りはじめました。
ソリティは、
キャンバスの上をどこまでもどこまでも滑りながら、
望みつづけていた自由な気分を思いっきりたのしみました。
しかし――、
どこまで行っても、だれも観てくれるクレヨンたちがいないことに、ソリティは哀しくなってしまいました。
「どうしてだれもいないの?
おねがいだから、だれか……、
わたしといっしょにダンスを踊りましょう!」
そのことばに応えて先ず現れたのは、
風に運ばれてやってきたアイでした。
青色のアイは、
ソリティに呼ばれてあわてて来たので、
思わずキャンバスの上で転んでしまいました。
「青色さん、あわてないで!
さぁー、わたしの手をとって。エスコートしてあげるから。
力をぬいて、こうよっ――、」
アイは、ソリティの手を汚さないように、指の先でそっと触れました。
すると、
アイの遠慮しがちな薄い青色のひろがりが……ソリティをつつみこみ、
黄色の色を……光のように際立たせてゆきました。
アイは、輝いてゆくソリティに見とれて、またなんども転びそうになりました。
ソリティは、薄くひろがる青色のなかに包まれながら――、
「見て、見て、青色さん!
わたし、なんだかお空を飛んでいるみたい。
こんなのはじめてよ――、なんて気持ちがいいんでしょう。
……フフフッ」
しかし、空の色がだんだん濃ゆくなるにしたがって、
「青色さん、わたし……、
なんだか息が苦しくなってきたわ。
それになんだか、自分がじぶんでなくなってゆくみたいで、とっても怖い!
おねがいだから、もとの場所におろして!」
しかし、アイの力はますます強くなるばかりでした。
「おねがいよ!
青色さん。息が・・できない!」
アイは、ソリティの苦しいすがたを見ながら、じぶんまで苦しくなって、
「……だれか、だれか、たすけて!」
思わず叫びました。
と、そこへ、
「わたしを、呼んだのかい?」と、響きわたる声がして、
「あっ――赤色さん!
ソリティもボクも、息が苦しくって……、
おねがいです、たすけてください!」
「よしきた――、まかせなさい。
ただ、わたしに直接触れると、火傷をするからね。そこには、じゅうぶん注意をするんだよ。」
そう言って赤は、空のなかに一つの点を打ちました。
――と、
キャンバス全体に衝撃がはしり、
アイと黄色はものすごい力で引き戻されてゆきました。
「わぁーッ!
なになに、なにがはじまるの――、」
赤は、
「わたしの力が、ふたりを地上へとみちびいているのさ。
わたしはこうやって、現実の力にすがたをかえるのだよ。
しかし、わたしにたよりすぎると、
その力に押し潰されることになるからね。
そこにはくれぐれも、くれぐれも、気をつけるんだよ――」
そう言って赤は、土色にすがたを変えました。
ソリティとアイは、地面があらわれたことで、息ができるようになりました。
しかし……、それとは逆に、
自分たちの力がどんどんどんどん弱くなってゆくのを感じました。
そこでソリティとアイは、
おたがいの掌と掌をしっかりとつなぎ合わせて、
力強いダンスを踊りはじめました。
ソリティは、
「なんて素敵なの――!
わたし知らなかったわ。
まさか……あなたと、こんなに楽しくダンスが踊れるだなんて。
青色さん!
ありがとう――」
アイは、ソリティの喜ぶすがたに、
「赤色さん。――ボク、
青色に生まれてきて、ほんとうによかった‼」
こうして、赤の力によって、〝時〟がはじまり、キャンバスの上に〝光〟と〝空間〟と〝地上〟があらわされてゆきました。
するとそこに〝重力〟が生じて、
別の色たちもつぎつぎにすがたをあらわしはじめました。
赤色と青色の作りだす影の中から輝くようにすがたをあらわしたのは――、
紫色でした。
紫色は、優雅に舞いながら、影の中に
〝ゆたかさと深さ〟をもたらしました。
赤色と黄色の触れあうところに躍り出たのは――、
オレンジ色でした。
オレンジ色は、その躍動的な身のこなしで
〝よろこびのダンス〟を披露しました。
それらの色たちにみちびかれるようにあらわれたのが――、
群青色でした。
群青色は、青よりも紫よりもさらに深く、
宇宙にまで届く〝祈りのダンス〟を披露しました。
……そして、
青色と黄色から生まれたみどり色は、
みんなの踊りをたのしみながら、最後に踊りはじめました。
それは……、
そうすることで、
みんなもじぶんも愉しくなれる……と、識ったからでした。
そして――、これら全ての色たちを赤紫色がつつみこみ、
――キャンバスは、
ゆたかな彩りに満たされてゆきました。
……こうして、アイと人間は、虹色かがやくうつくしい世界を視ました。
……とさ
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