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<連載短編小説>クレヨン・アイ -3

(エピソード-3) ぼくって、どんな色?


 さいしょにアイを見つけたのはトンボでした。

 トンボは、草むらのかげに隠れていた宝石のように美しいクレヨンを見つけると、急降下してひろいあげて、仲間のみんなに自慢してまわりました。

「どうだい! キレイだろう。
 オイラがひろったんだ。

 オイラ、
こいつがあんまり綺麗なもんだから、ずーっと見てたんだ。
 そしたら、突風が吹いてひっくり返って、人間がいなくなったあとに落っこちていやがった。
 へへぇ~、
――いいだろう!」

 アイをひろって自慢しているのは、トンボたちのなかでもひときわ赤い〝夕焼け太郎〟でした。

 アイは、生まれてはじめて舞う大空に、
まるで自分が吸い込まれていくようで、
たのしくてたのしくてしかたがありませんでした。

 そして――、
『空こそが、ボクのほんとうの住処なんだ!』
と、思いました。

 そこでアイは、トンボにたずねてみました。

「太郎さん! ボクもお空が飛びたいの!
 どうやったら飛べるようになれるんですか?」

「・・なんだ、なんだ、なんだ!
 おまえ――、喋るのかよ。
 オイラもう少しで、
おまえのこと海の中に落っことすとこだったぞー!」

 しかし、海を知らないアイには、そんなことはお構いなしでした。

「ねぇーってば、太郎さん。
 太郎さんはどうしてお空が飛べるの!」

「なんだよ藪から棒に。
 ん~と、それはだな。たぶん……、
 いやつまり、その、
オイラも、オイラの父ちゃんや母ちゃんも、
そしてそのまた祖父ちゃんや祖母ちゃんも、ずうっと、ず~っと昔から、
空のことばっかり考えてきたんだな。
 そしたら、
いつのまにか飛べるようになってた――、ってなわけさ。へへ。
 ところで、おまえはなんでそんなにキレイな色をしてるんだい?」

「えっ、ボク?
 ぼくって、キレイなの?」

「ははははは、なに言ってる、綺麗にきまってる。
 だって、
空の色にそっくりじゃないか!」

「空の色に?
 ボクが。ボクが空の色に似てるの! 
 でも……、
 ボクわかんないよ。
 ボクのどこが空に似てるの?
 ねぇー、太郎さん、おしえてください!
 ボクのおとうさんとおかあさんって、空なんですか。
 ボクも、いつか飛べるようになれるんですか!」

「そういう意味じゃないよ――」

「えっ、嘘なの!
 ボクのおとうさんとおかあさんって、空じゃないの……」

「あー、残念ながら、そいつはありえないはなしだね。
 キミは空に似てる。
 だけど空じゃない。
 だから空も飛べないのさ。
――でも、いいじゃないか、
そんなにキレイな色してるんだもの。
 オイラなんか逆に、キミのことが羨ましいよ!」

「う、ウソだ。そんなの!」

「ウソなもんか。
 だってオイラたち、じきに死んじゃうんだぜ。」

「死んじゃう?
 死んじゃうって……、どうなっちゃうの?」

「もう、二度と空を飛べなくなるのさ。
 それだけじゃないよ、
 この世界から、いなくなるんだ……」

「えっ! 本当になくなっちゃうの?」

「土に還るのさ。」

「…………」

「キミにはわからないと思うけど、
生きものはみんなそういう運命なのさ。
 キミなんか綺麗な絵になって生きられるんだもの、
そのほうが、ずーっといいに決まってる。
だろっ――、」

「でもそれって、
キレイな絵にならなくちゃならない。ってことなんでしょう? 
 もし、キレイな絵になれなかったら、どうなっちゃうの?」

「ハハハハハハ、ハハハハハハー。
 そのときは、キミもお払い箱だね。
いずれ、みんな土に還るのさ! 
 けっきょく、おなじだね、はははははははっ――」

「土にかえるって?
 どうなっちゃうの、」

「しつこい奴だな!
 オイラ、しつこいのが大きらいなんだ。
 せいぜい、おはらいばこにならないように頑張るんだな。
 じゃーね、」

 そう言ってトンボは、アイをほうり投げて飛んでいってしまいました。

 アイは、ふたたび見知らぬ草むらのなかへと落ちてゆきました。

 こうしてアイは、だれに気づかれることもなく、季節はめぐってゆきました。

――やがて、寒い風にこごえる長い夜がやってきました。

 アイは、深い眠りにすいこまれるように、闇の中に溶けてゆきました。

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