デジタリアン・ファンタジア -A01-

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「よおおおおおおおおおおおっしゃ!!!これがヒーローの力だー!」
一際大きな彼女の声が響くと私たちは画面の景色とともにクリアを確信した。
「見た見た見た見た見た今の!?」
興奮気味に彼女は誰に向かってていうわけでもなく呼びかける。
「すごいすごいおめでとう!!」
「いや〜、ありがとうございます本当。」
すでに開始から5時間経過しており、彼女の集中力はどこまで機能しているのかわからないけれど、それでもここまでの結果を出せたのが彼女の凄さを物語っているだろう。
「先輩も応援ありがとうございます!みんな交代交代できてくれたんですけどね、まさか最後に来てくれるとは。」
「いやいや〜。実際に仕事がちょうど空いていたというのもあったんだけど…」
そのまま私は続ける。なんか息遣いすら筒抜けなのが今になって恥ずかしく思えた。
「仲間のことならね、なおさら頑張ってる人を応援するのは当然かなって思うんだ。」
大切な友達であり、仕事の同僚でもある彼女を応援するの当たり前であり、ほとんど当然の様なことだった。特に私、ゲームなんかからっきしだし、そういう面での才能があるのがちょっとだけ羨ましかった。
「皆さん聞きました!!?もういい先輩がいてくれて私は本当果報者ですよ。」
「自分で言うかなぁ、それ。」
苦笑いを挟みつつ私はいい後輩をもったものだと私自身が思うのだ。

一頻り彼女の画面の中での健闘を称えたのち、再び彼女との通話上での世間話に入った。
「最近どうなんですか?」
「うん。忙しいのは嬉しいんだけどね…」
少し濁した態度をとっていたのに彼女は怪訝な顔をしていたんだと思う。通話上だから顔を見たわけじゃないけど、なんとなくそんな雰囲気を察知した様な気がして。
「寂しいんですか?」
「え?まあ……」
寂しいと簡単に言えば多分そうなのだ。でも人は、少なくとも私は私はそれを表に出し切ることなんて難しい。自分の持つ寂しいという重い感情を人に背負わせる。それは何かある種の無責任さを感じさせている様な気がしてならないのだ。
「ちょっとさ、なんか距離が遠くなっちゃった様な気もしてるの。」
「ふーん…」
彼女のそんな返答は、肯定にも否定にもつかない時によく言うものだった。
「昔はなんかもっと、みんなと一緒に何かする機会も多くて、でも多分それってみんなで一緒に盛り上げていこう、自分たちを売り込んで行こうとしていたから何か多くやる機会があったんだろうけど、いざ私がこうなってみるとさ、もうこの距離感がどうにもならないんじゃないかなって思う瞬間が何度もこう……あるんだよね。」
「あのこととかですか?」
「うん、まあそれもあるかな。」
あのことというのは、私の同業者に関することだった。とにかくここ数ヶ月は色々ありすぎて、悲しむことを悲しめずに終わりそうで、楽しむことにもさらには怒りたいことにまで感情やらそれに直結する表情のリソースを割けそうになかった。私という人間の夢が叶うことがいいことだとしても何かその違和感を私は拭い切れずにいた。
「あんま無理になんか、気分を上げ下げする必要もないんじゃないですかね?」
「え?」
「私はなんか今回みたいにその、先輩が来てくれて、いつもの様に笑って祝福してくれてっていう状況が嬉しいんですよ。今の距離感とか関係なしに。そう簡単に昔から築き上げてきたものが揺らぐわけじゃないとはいつも思うんです。まあ今回はというかここ数ヶ月は色々ありすぎたし、私自身も自分のために何かをし続けるしかなかったし。正直それを信用できなくなりそうではありそうだったんですけど。」
「うーん。」
なんとなく言いたいことはわかるかなーくらいの感じで唸り続けていた私を前に彼女は続けた。
「だからまあ、要はあんまり気負わないでくださいよってことなので。私はいつでもその、寂しいとか苦しいとかぶちまけても大丈夫ですから。どんだけその、先輩が距離とか遠慮とか感じてても私はそのままでいるつもりですから。」
「気を使わせてる?」
「いやむしろ何を今更って感じじゃないですか。もう先輩後輩になって一年半とかですよ?」
「そうだね、なんかありがとね、リサちゃん。なんかこっちだと落ち着いてるよね。」
「ちょっとクリアの余韻浸ってるのもあるんです…あとまあ、ゲームの時って神経フル稼働して高揚状態になってますので……まあなんにせよいつもの恵さんがいいので、これからもあなたらしく生きるべきだと思います。」

その「あなたらしく」という最後のことばがずっと頭から離れていなかったのは多分ある意味での必然だったんじゃないかって今はなんとなく思うのだ。


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