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ザシキワラシ

 妖怪やお化けの話は、夏の定番となっているので、このひどい連日の酷暑が行ってしまわないうちに、ちよっと気味の悪い経験を書いてみようという気になった。

 我が家では、説明のつかない妙な事件は、冗談半分に皆、座敷わらしのせいにする。この妖怪の名前は、日本の民話に興味を持つ三女が、まだ幼い少女の頃に持ち込んだ。
 元々は岩手県など、東北に伝わる民話が、宮沢賢治によって童話や絵本に描かれて、全国に広まったとされている。

 東雅夫編「文豪妖怪名作選」の中で紹介されている宮沢賢治の「ざしき童子」によると、男児女児両用の目撃例のある童形の妖怪で、いたずらをしたり、屋内の怪音の原因とされる実例が語られている。

 我が家で起こる不思議は、まさにその通りで、私は風雨や動物に関係ない物音を訝ったり、あるはずのものが不意に見えなくなったりすると、必死で探しながらぼやいても、大抵は、気のせいだとか、物忘れが高じたとか、一笑に付されてしまうが、たまには
   "また、座敷わらしのせいね。"と、冗談めかして、慰めてくれることもある。

 昔、小さい物がなくなると、四次元の穴に転がり落ちた、いう言われ方を耳にしたが、何かがない、ない、と言って、探し回るのは、ちょい置きが原因なことは、よくあることだ。しかし、どうにもこれはこの子の悪戯としか思えないような経験が2つある。いずれも、夫以外の家族は誰もいない時の話である。

 出没事件その1.  入れ歯 
  欠けたので直してもらうつもりで器に入れておいた夫の入れ歯が消えた。ゴミ箱をはじめ家中探してもないので、仕方なく、新しく作り直してもらったら、その翌日、リビングの床の上に出現。

 出没事件その2.  パルスオキシメーター  (動脈血酸素飽和度及び脈拍数 測定器)
  病床の夫を見舞いに訪れて下さった方達に、それを説明するつもりなのに、定位置に見つからず、全員でそこにも何処にもないことを確認したにも関わらず、皆さんが帰られた後で暫くして、その定位置に発見。

 何かこじつけられる説明もありそうだけれども、体験者としてはどうにも納得のいかない2つの事例です。

 ざしき童子との付き合いが始まったのは、新潟で2軒目の家に住んでからのようだ。この家は、ある実業家の別荘だったもので、古いけれども風格のある立派なお屋敷だった。そこに棲みついていた童子かもしれない。

 伝説によると、ザシキワラシが居つく家は栄え、立ち去ると没落するとも言われているそうだ。

  少し違うのは、宮沢賢治に語られるざしき童子は、姿が目撃されているのに、私のにはそれがない。私はその童子にさんざん悪戯はされたけれども、引越した後もついて来てくれているようなので、 息子の代になっても、夫の時と同様に家が栄えてくれるものと期待して、大切に付き合っていこうと思っている。

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