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サクラサク
入学試験を受けた本人はもちろんのこと、その家族にとっても、合否を知らされる時ほど、人生の中で劇的な瞬間はそう多くはないかもしれない。
近頃は、ITの発達と普及のおかげで、わざわざ受けた学校まで発表を見に行く必要はなくなった。大体、どこにいてもPCかスマホが教えてくれるご時世だ。
一世代前くらいまではそうはいかなかった。受験した学校まで出向いて、早い人は1時間も、もしかするともっと前から、合格者の名前、または受験番号の書かれた紙が貼り出されるボードの前に陣取って、運命を予告される瞬間を待つ。
この後に繰り広げられる悲喜こもごもの光景は、友人たちによる胴上げなど、今でもたまにテレビで見たことはある。戸外で見られる景色は様変わりしても、喜びを分かち合う家族の思いは、また別の風情で見られるのだろう。
受験校が自宅から遠い人は、親戚や友人に見に行ってもらって、結果を電報で知らせられたものだ。昭和30年代から平成初期にかけてよく使われたという電文が面白い。
最も簡単なのが
サクラサク(合格)
サクラチル(不合格)
大学によってさまざまな文言
アカモンヒラク(合格)
イチョウチル(不合格)
こんなのもある
ダイブツヨロコブオメデトウ
ダイブツノメニナミダ(サイキコウ)
エルムハマネク
ツガルカイキヨウナミタカシ
などなど多数。
最後に私事をひとこと。
私は家から近かったので、もちろん自分で見に行きました。帰ってきて、そっと玄関の戸を開けたら、ちょうど通りかかっていた母が、私の、合格したわ!の一言で、手に持っていたお盆を思わず取り落としました。その時の母の姿を、73年経った今でも忘れることができません。