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三種の雑煮


 新年の話題なので、神がかって三種の神器にあやかったタイトルにしたわけではありません。これは、娘の頃の我が家の話です。

 新年を迎えるために、多くの日本人は、松飾り、しめ縄、お屠蘇、お節料理など伝統的な準備をします。これらは大体どこでも共通ですが、お雑煮は千差万別のようです。

 私の父は四国出身、母の実家は宮城県、結婚後は各地を歩いたものの、東京が一番長い。 そこで、母の作るお雑煮は、元日は東京風、2日は関西風、3日は仙台風と、三が日で三種類の、それぞれ趣の違うお雑煮を、毎年あたりまえのように食べていました。

実際にどんな風に違うかを細かく説明するのはやめて、大雑把に、ダシの違いは、主にイリコ系か鰹節。 具の違いは、東京風は京風に似て、鶏と三つ葉ほか少々くらいのシンプルなもの。 四国や東北はとにかく具沢山で、土地のものがなんでも入る。丸餅と角餅の違いはよく知られていますが、我が家ではそれがお雑煮に入ったり、お汁粉のお餅だったりでした。

 娘の頃のお正月で、ユニークだったと思い出されるものが、2つあります。

 その1.元日の朝、神職でもない父が、神棚の前に家族を集めて、
 「かけまくもかしこ〜き天照大神の御前に、かしこみかしこみももぉすぅ〜」
    と、のりと(祝辞)を長々と読み上げるのを畏まって拝聴し、それからやっとお屠蘇の回し飲みとなる。

   その2.    2日の朝は、 恒例の書き初め。
   たたみ1畳もあるかと思われるほどの書道用紙に、家族全員が見ている前で、年長者から順番に寄せ書きをする。 ミミズか這ったような字だといつも言われる兄などは、これが、楽しいはずの正月の最大の悩みだったようです。
 書道展に出してもいいような珍しい大作は、松の内いっぱい、見物人も僅かな応接間の壁に貼られていました。

 結婚後の新年は忙しいばかりでしたから、いずれの主婦同様、特筆することもなさそうです。
 ただ一つ、新婚2週間後に迎えた大晦日に、夫も妻も仰天したことがありました。  

 新家庭の一年が始まる前夜の大晦日。夕食のテーブルについた夫の怪訝な顔。
 「あれっ、鮭はどうした?」
  「鮭って?」
 越後では年夜(としや)の振る舞いとか言って、大晦日の夕食には、塩鮭の大きな切り身を主菜とした沢山のご馳走が食卓に並ぶそう。片や、そんな風習を何も知らない新妻は、年越しそばを供しただけ。お互いの育った家庭の習慣を何も知らずに新生活を始めた一幕でした。

ご当地の正月料理・新潟
https://ouchi-gohan.jp/2010/
「4. 大晦日は「年取り」のお祝い」をご覧下さい。

 読者の皆様、どうぞ良いお年を迎えられますよう祈ります。

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