行かなくちゃ。
もしかしたら、もうすぐ死ぬのかしらと思ったのです。
奥さんが
「カニを買ったのよ」なんて言うのです。
僕の記憶では結婚以来、カニなんて買ったことないと思うのです。
きっと僕がもうすぐ死ぬことを知っていて、家族でカニでも食べようなんて話なのかと。
自宅で食べるカニは、思っていたよりも量がありました。
こんなにたくさん買うなんて、いよいよほんとに自分の寿命のことを考えたわけです。
子供たちは喜んで食べていました。
「パパ、美味しいよ。」なんて言っていました。
なるほどそれじゃあということで、僕も食べたのです。
カニの身の少なさに驚きましたよ。
それほど好物でもないのですが、カニの身ってこんなに入っていなかっただろうか。
カニの身は、あれは筋肉なんでしょうか?
だとしたらこんなに少ない筋肉じゃあ、日常生活困っただろうなんて考えたり。
こんなに身が少ないから捕まっちゃったんだろうと、海の世界を思うのです。
ちまちまとカニを食べている横で奥さんが、
「テレビでは、身がぎっしりって言っていたのに。」
と、何度も何度も呟いていました。
身がぎっしりのカニは、きっと素早いので捕まらないなと、僕はちまちましながら思うのです。
そんなお正月でしたが、もうひな祭り。
僕は死ぬ様子もなく、蛤のお吸い物なんて飲むのでした。
「蛤の身がプリプリだよ」って、息子が言いました。
蛤は素早くないから、きっとプリプリでも捕まったのだと思います。
それでなんとなく、僕はきっとカニだろうと思いました。
なんとなくなので、理由は分からないのです。
なるほど蛤はプリプリでした。