寂しい骨(あなたとわたし)。
「グミが好きなの?」
あの時そう言われたんです。
色々な話をしたのに、いつも覚えているのはこういうことなんだなあと思うんです。
"グミを食べてはいるけれど、好きでも嫌いでもないんです。"
「でもグミ食べてるよね。」
「ぶくお君、男の人はグミを食べるときは気をつけた方がいいよ。ほら、みて?形が女の人の乳首みたいでしょ?グミを食べる男はマザコンだって思われるよ?」
"それは先週聞いた
「世界は理不尽で出来ているのよ。」
「でも世の中は、笑っちゃうような出来事で溢れてるの。」
そんな話の続きなんだろうかと考えます。"
「そんなつもりで話したわけではないんだけどね。そんな事とかに気をつけて、良い男になりなさいってことよ。」
"22歳の僕にとって、8歳上の女の人の言うことは絶対で。
その人の言うことは全て真実。
そういうこと。
その人が世界のルールを作ってる、たぶん。
そういうこと。
もう人前で、グミを食べるのは止めておこう。
そういうこと。"
「私は女優で、ぶくお君はマネージャーなわけだけどさ、それ以前に弟なんだと思っているよ。」
"僕には亡くなった姉がいて、あなたは実は生まれ変わりなんじゃないかと思うことがあるんです。
これは結局その時には言わなかったのだけど、言わなくて良かったですよ。
そんなこと伝えた自分が恥ずかしいと感じたはずなので。"
"楽屋はとても狭くって、お互いの言葉が充分届く位の狭さで。
待ち時間はたくさんあって、どうでもよい話が心地よくて。
今頃になって青春かと思ったり。"
"なので一緒に仕事をしなくなって何年も経ってから、
「久しぶりに会おうよ。」なんて連絡もらったときは、
またどうでもいい話が出来るなとニヤニヤしましたよ。
まさか余命の話を聞かされるなんて想像もしていなくて。
いや本当言うとなんとなく気がついていて。
具合悪い話は人づてに聞いていて。
お見舞いにも行っていたし、
なにより突然の連絡なんて良いことないのも知っていたし。"
"何度も癌は大変だなあって、漠然と思っていましたよ。"
"プロデューサーに紹介されたという有名な医者に、
検査結果知らされる開口一番に
「残念ですねえ、若いのにもう生きていられないですねえ。」
と言われたという話は、ずっと覚えていようと思いますよ。
許すとか許さないとかではなく、
こんな話をする人が医者をしているという現実を、
覚えておこうと思うんです。
これが「世界は理不尽で出来ている」ってことなんだと覚えておこうと思うんです。
考えようによっては「笑っちゃうような出来事」だなあと。
それは喜劇のようなのに、まるで悲しくなるのはどうしてかなと思いますが、それでも忘れないでおきますよ。"
"亡くなる直前に、一緒にご飯食べることが出来て良かった。
最後までどうでもいい話が出来て良かった。"
"強い決心のつもりだったのに、今ではグミを食べてます。
好きでも嫌いでもないけれど、グミを食べてます。
グミの形が女の人の乳首だとか、これが好きだとマザコンだとかの話に、説得力がないから食べるようになったのかもしれません。
その代わりグミを食べると、あなたを思い出したりするんですが、きっとそれだけ僕が歳をとったということだと思うんです。
あなたの年齢を越したんです。
それで僕はマザコンではなくシスコンだと思うんです。
それを伝えられないのが残念です。
とても残念なんです。
僕はきっとこれからも、どうでもいい話をしていくと思うんです。
聞いてくれる人が居るのか居ないのかも分かりませんが、どうでもいい話をしようと思っているんです。"
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