経験の唄。
気がつけば、そこそこ生きてきたのです。
老いる前に燃え尽きたい気持ちが、
あったこともあるのです。
それでもここまで生きてきたのは、たぶん良かったことだと思うのです。
確か暑い夏の日だったと思います。
結婚した翌年の夏ではなかったかと記憶してるんです。
まだ子供たちもいなくって。
なんてことない、奥さんとのふたり暮らしの時代。
そんなある日、泥棒に入られたことがあります。
ふたりで寝ている間に忍び込まれ、枕元に置いてあったバッグを盗まれたんです。
奥さんの「待てー。」なんて声で目が覚めて。
パンツくらいしか穿いてない奥さんが、おっぱい放り出すように走っていて。(この話を奥さんにすると「放り出すほどない。」と言って怒りだすのです。)
結局バッグは盗まれたわけです。
たまたま入っていた30万円ごと。
お金を盗まれたこともショックでしたが、泥棒が枕元まで来ていたことに一番驚いたわけです。
「ふたりとも命があって良かった。」
そんなこと思いました。
警察の人にも「殺されてもおかしくなかった」なんて言われたりしたのです。
そんなことがあった数日後、奥さんには実家に帰ってもらったのです。
奥さんには実家に帰ってもらおうと思ったのでした。
「男としての優しさ」
「人間としての器の大きさ」
「奥さんへの想い」
そういうことではないのです。
事件以来
「ちきしょう。犯人の奴、今度来たらぶっ殺してやる。」
などと隣でいつまでも怒っていて、
たいへん僕の精神衛生上良くないなと判断したのです。
「ぶっ殺してやる。」
僕が言われてるようだったのです。
それで記憶が曖昧なんですが、
いつの間にか奥さんは実家から帰ってきたのです。
いつ帰ってきたのだろうと、時々考えるのです。
「そろそろ帰っておいでよ」なんて言った記憶がないのです。
「そろそろ帰るよ」なんて聞いたこともないのです。
送り出したのは覚えているのですが、戻ってきたのは分からないのです。
そういうことがあります。
長いこと生きていますので、どちらがなのかは何とも言えないのですが、上手いことやったのです。
今日までは、上手いことやりました。
そんなこと考えたのです。
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