見出し画像

邂逅。

「夫がこんな寝たきりみたいになるなんてねえ。」

そんな話を聞きました。


「若い頃から頑固で、人に気を遣わせる人だったのよ。」

どんよりと言われる曇り空でした。


「昔は嫌な思いを何度もしたから、もう別れようって数えきれないくらい考えたものよ。でも子どももいたしねねえ。」

空を見上げて気分が沈むかと思えば、そんなことはないんです。


「それでこんな体になっても、いまだに偉そうなのよ。私のことを怒鳴るし、時々叩こうとすることもあるのよ。」

雲ってはいますが、これはこれで悪くない。


「全く腹が立つのよ。」

「子どもたちは施設に入れろと言ってるの。」

お天気なんて、気持ち次第なのかもしれないのですよ。


「それでも私が世話をしているのは、もしも私が先に寝たきりになっていたら、この人はちゃんと面倒みてくれたと分かるからなのよ。」

「食べることが好きな人だから、もしそれが叶わないなら延命は希望しないことに決めてるの。」

「悪い人ではないのは、最初から知っているのよ。」


雨が降っても、青空でも。

傘をさしたり手をかざしたり。

空の上が見えるようなんです。

いいなと思ったら応援しよう!