大三元レンズの始祖と川西町・三宅町を歩く(2) (Tokina AT-X270AF Pro New)
続き。
ふたたび川西町
屏風杵築神社から北に太子道を歩いて、ちょっと西に折れるとNTTのビルがあった。フェンスに囲まれて人気もないビルの周りは、もう見事なまでにオオキンケイギク(特定外来生物)の花盛りだった。
ところで今知ったけど、日本中の電話局の写真を集めているサイトなんてあるんだなあ。
これがテレ端のほぼ最近接くらいの撮影。焦点距離70mmで最短70cmだから困るほどじゃないけど、今の基準じゃあまり寄れない。最近のズームはバリフォーカルで作ってるのが多いけど、このレンズはちゃんとズームだからこれくらいの寄りが精一杯だそう。
で、ボケに関しては、これは私にはかなり荒っぽいボケだと感じられる。今時のレンズだと、F2.8の高級ズームだとボケもきれいにまとめるから、大きなボケ量かつこの荒っぽさというのはかえってなかなかない。
28-70mmF2.8というスペックが斬新だった時代の、しかも非球面レンズを使わないでがんばった設計だけに、開放のソフトレンズみたいなほわほわさと、荒っぽいボケに無理がでてきてるんだろな。
とはいえ、収差が大きいからといって必ずしも撮れる写真が悪いわけでもないのが写真というもので、私みたいな仕事でもなく趣味で撮ってる人間には、まー、面白いというほかないレンズ。
こんな写りは最新のHD PENTAX-DFA24-70mmF2.8で得られるもんじゃないですからね。
で、川西町西部に堂々と鎮座する島の山古墳という前方後円墳へ来た。
南側にはこの地蔵尊がある。
となりに川西村尚武會という台座の碑が建ってるけど、見たら征清従軍記念碑って。第二次大戦でもなく日露戦争でもなく日清戦争。あんまり見覚えないなと思ったけど、やはりこういうの建てるのは日露戦争以後に増えたことらしい。
航空写真で見たところ、地蔵尊の後ろに古墳本体へと周濠を渡れる通路があるらしかったけど、まあ古墳なので自由に立ち入るものでもない。
近くに植わってる木がナツグミだった。
このカット、このレンズのボケの荒っぽさがわかりやすく出てるな。
古墳の西側が、比売久波神社神社の参道になっている。
ここらの神社はどれもさほど大きくはなく、境内摂社もずいぶん少ない感じで、ここもそうだった。明治以後に合祀合祀でひとまとめになっていくような過程が、このあたりではなかったのかなあ。
拝殿もそれほど豪華にはならない。
歴史は古くて延喜式内、本殿も春日大社の摂社・若宮神社の本殿を江戸時代に譲ってもらって移築したものだそう。
この拝殿の裏と本殿の間に大きな石が置いてあるそうで、島の山古墳から石棺を持ち出したものらしい。
ちょっと変わったところでは、このあたりは唐院という地名なんだけれど、美濃焼の開祖加藤景正の出身地という大和国道蔭村というのがここのことじゃないかという説もある。
いい感じのゴーストが出た。これならちょっと格好いいくらいだな。
古墳の方は……まあ別に写真に撮って面白いところは少ない。
21世紀に何度か発掘調査が行われているけれど、どうもかなり長いこと周濠のところが水田にされてて、造出しがあったらしい痕跡はあったけど削られていたりしたそう。
明治になって干ばつが繰り返されて、周濠に水を張ってため池として利用しよう、となって水を張って用途変更した。
古墳に関する情報は、周濠をひとまわりすれば10枚以上の掲示板でもって色々説明されている。
周濠南側はギリギリまで民家が建ってるんだけど、どういうわけかことごとく、お掘りの上に張り出すくらいまで建物を伸ばしている。周濠まで住宅の土地として売られちゃったんだろうか?
あらためて三宅町
古墳から太子道までは戻らず、極楽寺・安養寺というお寺と墓地が広がっているところを貫く道を歩いて、南の三宅町に再度入る。
広大な墓地を抜けてすぐのところに、なにやら盛り土のようなものがあるけれど、これが古墳で、茄子塚古墳という。
出土した土器からみて5世紀終わりくらいのものらしく、比較的新し目の古墳。島の山古墳の陪塚なのかな、とも思ったけど、あっちは4世紀末くらいのものらしくて、結構ずれてる。
このあたりは三宅古墳群といわれていて、今確認されているのが17基。
畑の中にちょっと盛り上がったところがあって、それが古墳、という感じの、独特の景色になっている。
アンノ山古墳。前方後円墳で、周濠があったっぽいけどもう原型がわからない。
墳丘の上が私有地になってるんだろうか、耕作されてるな。
歩いていくと町役場にたどり着いた。
隣接して交流まちづくりセンターMiiMoという施設ができている。
コワーキングスペースやら、料理教室や行事を行えるレンタルキッチンやら、一日単位でレンタルしてテイクアウト飲食店をやれる店舗スペースやら、なにやら自治体の施設としては風変わりなことをやっている。
店舗スペースで豆腐屋さんが営業していて、練り天なんてのも売ってたのでひとつ購入。中にもちょっとした駄菓子を売ってるところがあり、そこでコーヒーも売ってたので買って一服。
ここで県民だよりに連載している「奈良のむかしばなし」を冊子にまとめたものを配布していて、ぱらぱら見てみると実に面白いので一部いただいた。奈良の場合はこれが観光ガイドになるからな。
太子道の脇には、古くからの集落が続いている。
北の屏風にもあった杵築神社が、この伴堂(ともんどう)にもある。そしてやはり、広くなくてわりと控えめな拝殿があり、境内摂社が見当たらない、と、この近くの神社の例どおり。
苔むした感じがいいなと思って撮ってみる。かなり逆光で、全体的に少し白っぽくはなったけれど、その程度。もっと弱いかと思ったけど、PROで更新されたコーティングのおかげだろうか。
三宅町ではアサザを町花としていて、神社とか街のそこらじゅうで水鉢を作って育てている。万葉集にも詠まれるくらい昔からこのへんでは目立つ花だったそうで、今でも太子道脇を流れる水路にも咲いていた。
5月がちょうど花が咲く季節の始めくらい。基本的には夏の花だけど、朝の気温が20度くらいになったら咲いて、昼には萎んじゃう。この写真もしぼみかけてるな。
陽の風景というオブジェが太子道脇にある。石の台座が回せるようになっていて、太陽の方にリングを向けると影がハートマークを描く。12時8分だとハートできんかったが。
このリングが一度盗まれたことがあって、近くの家の門に掛けられているのが見つかった。そのお宅の方は知らないと言ってるのに逮捕されちゃったとのこと。えー? 流石に無罪になってると思うけど……
ここから南に歩いていって、田原本線の黒田駅から帰宅しようと思ったんだけど、途中で「カフェ コックピット」というお店を発見。
この手作り感あふれる案内は心惹かれる。
たまたま歪曲収差チェックみたいな画面で撮っちゃったけど、40mmだとほぼ真っすぐ。広角で少しだけ樽型、望遠でほんのちょっと糸巻き型。非球面レンズ使わないから、変な陣笠歪みとかはしてないな。
昭和初期の納屋を改装して、中には鉄道模型があったり、本棚にずらっと北杜夫が並んでたり。
ピザランチを頂いてゆったり。
そして黒田駅に到着。
なんか近くに「桃太郎生誕の地」と看板がある。
桃太郎って、孝霊天皇の皇子である大吉備津彦命と若建吉備津彦命がモデルだと言われていて、ふたりで備前・備中方面を平定しにいっている。そのときに女木島に渡って鬼退治をした(抵抗してた人たちを制圧した?)と。
孝霊天皇はここ黒田に庵戸宮という都を建てていたから、当然皇子もここで生まれただろう、という論法。
ということで、奈良の経県値を更新して、三宅町と川西町は訪問したとしましょう。
AT-X270AF Pro (New)について
で、今回のAT-X270AF Pro新型はというと。
詰め甘ポイント
当時モノかは不明なんですけど、付属してたキャップが側面に指をかけないと着脱できないタイプ。それがフードと干渉して着脱できない。詰めの甘さに時代を感じるぜ。もちろんPLフィルターの操作窓もない。
多分逆光に強くはないレンズだと見てたので、フードは使いたい。よって今日はキャップ諦めてフードつけたままバッグ入れてました。
まあ現代の汎用キャップを使えばいいでしょう。
大きさと重量
フードつけてJ limited 01につけて、いつも愛用のEndurance シューティングマルチカメラバッグにいれると、もう一本レンズ追加するのは無理だった。基本的にはボディ+レンズにもう一本入る感じのバッグなのだが。
バブル期の重厚長大な設計思想が出てるなあ。かなりのデカレンズ。
28-70mmF2.8を当たり前にしたこのレンズ、サイズ感もその後の標準になったっぽい。
カメラメーカー純正のF2.8標準ズームも、大体800gで全長100mmくらいになるらしい。小型軽量のボディでやってたPENTAXでも、当時はそのサイズでFA★28-70mmF2.8を出しちゃったからな。
J limited 01と合わせて2kg近い荷重になってくるんだけど、なんか意外に耐えられる。持った感じでクソ重いとまではいかなかった。重いけど。
多分このレンズ、全長が長いといっても、本来は前玉がズームで伸びる分まで外筒を伸ばしてるような作りだから、重心が手前なのかも。
ぜいたく鏡筒
このでかくて重たい鏡筒は、さすがバブルの頃に高級路線で作っただけあって、機械としての贅沢さは確かに感じられますね。
30年近く過ぎてるものなのに、ピントリングもズームリングも全然ガタが出てない。回す重さもきれいに一定。ピントリングを引くとMFレンズになる、なんてギミックつけてるのにこれ。
ご自慢のMFモードも、古典的なMFレンズに全く劣らないなめらかな手触り。下手なMFレンズより良いくらい。これはMFも気持ちよく使えるPENTAX機と相性がいいな。
ただ惜しむらくは、レンズをMFモードにしてもAFカプラーが切れないので、ボディ側もMFに切り替える一手間が必要。
PROの新型梨地塗装も私は好きだな。まあ手元の個体の使用頻度が不明ですけど、特に擦り切れて半ツヤみたいになってたりもしない。フードと本体で表面仕上が違ってるのがちょっと惜しいけど。
しかしこのフードも決して安い作りではなく、内側が起毛処理されてる。プラフードでここまでやってるの初めて見るなあ。
写り
開放だと収差が残ってソフトレンズみたいに滲む。
何をどうやってもこんな写りだというなら困るけど、絞るとばっちり写るんだから、このソフトさはコントロールできちゃう。
絞ると古さはあってもF2.8通しの高級レンズらしさは出てくる写りになる。
多分ポートレートにいいんだろうけど、私ポートレート一切撮らないんだ。まあ興味ないからしょうがない。
いっそ広角も望遠も近距離も遠景もみんな開放で撮りまくったら面白いかもしれない。今度やろう。
先に書いてますけど、このボケの荒っぽさはクセ強いな。どう使いこなすかな。
後ボケのクセが強いと前ボケがすごくきれいだったりするけど、今回いいのがなかったな。今度試してみよう。
ボケ以外だと、広角端の四隅までいくと画質が荒れてる。これは絞って解決するもんじゃなさそうだなあ。
フィルムの頃だとここまで外周はいろいろな原因で裁ち落とされるから、という感じだったかもしれないな。
40mmくらいよりテレ側では消える。
歪曲は先に書いてるけど、ワイドで微樽、テレで微糸巻き。かなり抑えめ。周辺光量も際立って落ちてる印象はなし。
開放以外、まあF4か4.5にも絞ればは特にネタ的なところはなく、十分使える感じ。
良い?
上質な鏡筒からくる操作感と、クセは強いけど絞ればすっきり普通になる独特の画質、明らかに使って楽しい。変と普通がちゃんと使い分けられますからね。
もちろん、できる限り幅広い被写体を意図したとおりに瑕疵なく写せる、というには程遠くて、普通F2.8通しのズームはそういうものであるべきなんだけれど、私の趣味の写真にはそういう完璧さは特に必要ないので。
使用頻度はなかなか高まりそうな予感。
今まで使ったトキナーレンズ(およびPENTAXと共同開発したやつとか)も、なんか完璧とは違う一癖ある感じのレンズが多いから、トキナーはなにか目指す方向性とかが面白いのかもしれないな。
smc PENTAX-DA 12-24mmF4はわりと大人しいけれど、DA★16-50mmF2.8 SDMはクセ球で有名(別に普通に使えますが)。廉価なEMZ130AF IIなんかクセの塊みたいだったし。
安く中古見かけたら試してみようかな。
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