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70年代世界最小ズームレンズ FUJINON-Z 43-75mmF3.5-4.5
先日転がっているのを見かけてジャンク箱からお救い申し上げていた、オールドフジノンレンズ。
PENTAXのレンズだとわりと古いのも見慣れてるんですけど、フジノンはあんまり手にすることないなあ。
生まれた時代について
フジフイルムは、1970年という遅いタイミングで、M42マウントを採用したフジカST-701で一眼レフ市場に参入しました。
1970年というと、M42マウントで日本一売れていたであろうPENTAXでさえ、すでにマウント移行のための試作機メタリカ・メモリカを作っていた時期。
結局PENTAXはM42マウントでさらに粘る決断をし、ユニバーサルマウントのメリットである互換性を毀損してでも開放測光などの先進機能を盛り込んでいくわけですが、そうでもしないとM42じゃ機能的に厳しいとわかっていたタイミングです。
案の定、1972年のフジカST-801で、さっそく開放測光対応のため、レンズ側に突起を追加してしまった。
これ自体はまあ時代に追いつこうという意欲的な判断で、実際機能的にPENTAXのSMC TAKUMARレンズと同等の機能に追いつける仕様になってはいます。
PENTAXは互換性を残しつつ開放測光対応をやってのけたんですけど、フジは過去のユーザーがあんまりないから、フジのカメラにしか付けられない形にレンズ側を変更しちゃった。(他社のM42レンズをフジカST-801につけることはできます)
それでフジフイルムは70年代を戦っていきます。
針式ではなくLED表示の露出計内蔵の、絞り優先AE対応モデルST-901が74年に出たのがハイエンド機となりました。
でもまあ74年じゃ遅いのも否めず、その先は廉価機に絞ってぼちぼちやっていく感じに。
今回のFUJINON Z 43-75mmF3.5-4.5は、そんなぼちぼち時代の末に近い1977年に出た廉価モデル・フジカAZ-1にキットレンズにされていたレンズです。
この時期に標準ズームを廉価モデルにつけて売り出すのもなかなか意欲的ですが、しかも発売当時としては世界最小の標準ズームレンズだったとか。
10年以上前に発売していてF値もより明るくズーム比も大きいとはいえ、ニコンのZOOM NIKKOR 43-86mmF3.5は410gだったところ、FUJINON Zは300gまで落としてます。
スペックはネット検索に頼ると、上のサイトが出ました。オールドレンズを検索するとよく出てくるawane-camera.comさんのカメラ・ミュージアム。
なおフィルター径は49mm。小型化で名を売るPENTAXがよく使う径に、ズームレンズを収めたというのはやはりなかなか面白い。
それとズーミングは直進式です。MFのズームレンズって直進式のほうがいいように思う。
伸ばした状態でワイド側、という古式二群ズームです。
改造について
さっきからちらちら書いてる通りで、フジカSTのレンズはM42スクリューマウントと非互換なので、ちょっと改造せにゃならんです。
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マウント外周部にある小さな突起ですが、Kマウントに純正マウントアダプターでは、どうやっても当たっちゃうので取付不可。なので削っちゃいますね。
高価なフジノンレンズならともかく、リセールバリューもない廉価機の付属ズームならまあいいでしょう。
アルミ合金だと思うんで、ヤスリで手で削れます。
それと、これ自動絞り専用レンズなんですよね。
TAKUMARレンズだと律儀にA/M切り替えレバーをつけてるんですが、フジは別に互換性を気にする旧型機がほとんどなかったので。
自動絞りは、TAKUMAR同様にマウント内側にピンが立ってて、それを押し込んだ瞬間だけ絞り込まれる構造。
上の写真だとピンがないですが、マウントばらして外しました。(ピン穴写ってなくってわかりづらいですが)
結果的に、自動絞りがキャンセルされ、絞り輪に連動して絞り羽が単純に開閉するようになりました。
ただ、私は平均よりかなり不器用な人間で、あんまり上手くいくと思わずにやったんですよね。作業手順の記録写真とかもとらず。
「ピンを押している間だけ絞り込む」という機構が、たまたま「ピンを抜くことでピンが常時押し込まれているのと同等の動作になる」というのは、いってみれば確率5割の丁半博打みたいなもんですからね。
はい、これで使えるようになりました。運だぞ……。
実写
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PENTAXのカメラは、ボディ内手ぶれ補正の作動のため、オールドレンズをつけて電源を入れると焦点距離を入力するように求められます。
で、PENTAXには永遠の名レンズ・FA 43mmF1.9 Limitedがある。
このレンズも広角端43mm。
でも43mmは入力できなかった……。(40か45でした)
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絞りは記録が残らないので記憶と画像の調子から。
最短撮影距離1.2mと遠くて、これほぼ最短です。厳しい。
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通りすがりの飛行機に向ける。
まあちゃんと絞ったので流石にアラの少ない写り。
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このレンズ、かなり思い切った小型化をした影響は、広角端の画質に出てるみたいですね。
1920ピクセルまで縮小しても、かなり大きく四隅が荒れてるのが見えます。開放だともっと周辺光量落ちが出るから、ちょっと絞ってると思うんですけど、それでも荒れる。(それを写真見て判別できる程度に大きく画質が荒れてるんです)
しかし、歪曲収差に関しては意外なほど小さい。望遠でも広角でもあんまり曲がらない。
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ボケは、そもそも最短1.2mと遠くて、F4.5と暗い開放であんまり大きなボケは出せないですね。
結構縁取りのあるバブルボケっぽいのが出てるようにも見えますが、それを楽しむのは厳しい。
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望遠端はなかなか安定した写りで、開放でも絞っても安定した写り。
よって、広角端みたいに「これちょっと絞ってるな」といった判断はなかなか困難。
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オールドレンズは、発色の傾向とかを語られたりもしがちなんですけれど、私はこの通り色を弄り倒して現像するのが当たり前になってまして、よっぽど極端にビビッドとか淡色だとかでないと気にしませぬ。
どうせカラーバランスが偏ってても、デジタルだと大抵の人はAWBで補正しちゃってるでしょ。いいのいいの。
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近距離をなんとなく広角端開放で撮ったこの一枚、実にオールドな写りになった。これはいいな。
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別に近接でなくても広角端は周辺が荒れます。良い。
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テレ端はほんとに普通。
43~75mmという低倍率なので、標準レンズと中望遠レンズを2本まとめたくらいのものになりますが、それが「すごく写りが頼りなくなる標準レンズ」と「安定して写る中望遠レンズ」のセットだから、なかなか面白い。
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同じところを開放とF8で撮り比べてみた例。露出が違って見えますけどそのように算出されちゃったから仕方ない。
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なにせ最短が遠すぎるので、どうも月並みな写真ばっかり撮れてしまう難しいレンズではありますが、こんな展望台からの写真だと弱点が出ない。
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このレンズの弱点はというと、逆光にめちゃくちゃ弱い。すぐフレアでファインダーが白くなる。ただ白くなるから面白みもまるでない。
ゴーストが出るというなら面白く使えるケースもありそうですけど、あいにくこれくらい極端に厳しくないと出てくれない。
手でハレ切りするとある程度効果を示すので、43mmでケラれないギリギリまで長いフードがほしいな。
まとめ
43mmの写りが実にいい感じに悪くて、これでこそオールドレンズ、この写りのために使おうと思えちゃう。
あくまで変化球レンズだけど、小さいのが嬉しい。遊びで持ち出すのが苦になりにくい。あやしい写りの標準と、まあちゃんと写る中望遠を一手に持ち出せるんだから。
難点は、面白くない逆光の弱さ。49mmのフードなんかPENTAXのがなんかあるだろうから、ケラれずに使えるの探しておこう。
最短1.2mも遠すぎて、もうちょっと近くは撮りたいんだけど、No.1くらいの弱いクローズアップレンズあるといいかもだなあ。